第2話 「何たって、私は神様みたいな存在には、一生なれないような奴だもの。」
投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。
「師匠。これ、どこに置けば良いですか。」
「………そこの机の上に置いといて。」
「はい。」
もう結構この場に馴染んできた彼が言う。
呼び方も、いつしか『常闇様』から『師匠』に変わった。
と言っても、まだ数週間しか経っていないと言うのに、こんなに大きすぎる変化に少し戸惑っている。
私は幾度も繰り返しているので、人間関係の変化は、数年くらいかけて、やっと友人、知り合いの域に行ったかな、と認識しているだけなのであって、これが普通なのかもしれないが。
「ねぇ、師匠。少しはこの生活に執着持てました?」
「いや。持ててないけど。」
「そうですか。」
それでもちょっと納得いかないのが、彼がこの質問を毎日すること。
私は正直この質問を聞きたくない。
自分の罰を思い出してしまうから。
最後なのだから、神様も、ちょっとくらいサービスしてくれたら良いのに。
最後くらい、楽しませてくれたら良いのに。
と言うことを、毎日考えてしまうほど疲れてしまった。
辛い。なんの意図があるのか分からんが毎日来る弟子からの質問が辛い。
と言うかすぐ殺されると思ってたのに殺してこないで続いていくこの日常が怖い。
『常闇』って呼ばれてる人間なのに。
最初の話思いっきり自分語りなシリアスだったのに。
もはや休日の叔父さんとその甥程度には会話してたのに昨日気づいてしまった。
距離感ぶっ壊れてるんだけど。
いや、もしかしたらこれが普通なのかもしれないけどさ。極度の引きこもりでコミュ障な私には怖すぎる。
あとこの弟子絶対私のこと勘違いして感情を知らない寂しい人扱いしてるよね。
いや、ある意味あってはいるんだけどさ。さすがにそこまではいってないと思うよ?
「師匠。そろそろ出かける時間では。」
「………そうだった。準備するから、先に外出てて。」
「はい。分かりました。」
………まぁいいか。どうせ死ぬまであと少しだし。
ちょっと早まってくれないかな、なんて考えた私が馬鹿だったのかもしれない。
別に、本気でシリアス求めている訳でも無いし。むしろ嫌いだし。
勘違いなんて死ぬんだからどうせ解く必要も無い。
むしろ、自分のことを伝えるようなものなのだから、あまり干渉しない方が安全なのかもしれない。
「………これくらいで良いか。と言うかこれ以上荷物増えたら途中で重くて落ちそう。」
鞄を持って外に出ると、彼が、ぼんやりと空を見上げていた。
その様子に、少し引っ張られそうになる。
「何してるの。早くいくよ。」
少し、泣きそうになりながら言う。
その姿は、あの時の彼に、そっくりすぎたものだから。
無理やり、思い出さされたから。
「………あの、師匠。」
「何?」
もうこれ以上喋りたく無い。
そう考える私は、可笑しい?
「あの空に、行ってみたいって思ったこと、ありません?あ、そんなの無理、みたいな現実的な答えじゃなくて、空の中に何かすごいものがあるんじゃ無いかって感じで。」
「………空に行きたい、か。なんだか、すごく童心に返ったような願いだね。」
「あ、分かります?」
本当にそうなのかよ。
思わず心の中で突っ込む。
最近自分がおっさん化してきて辛い。
まぁ、その答えについては、決まっているけども。
「………一応弟子という存在なので、言っておくけど、そんな願い抱かないのが正解だと思うよ。」
「え?なんでですか?」
キョトンとした顔でこっちを見てくる………いや、まぁ心の中だけで顔には出ていないけども。
と言うか結構心の中表情豊かで残念なのにイケメンとか最強なんだろな、とか思いながら眺めると、まぁこれは割と真剣な話なので、現実に向き合う。
本来こんなことするやつじゃ無いはずなんだけどなぁ。
「空には本当に『そう言う物』があるからね。でも、それに入り込んじゃったら、物語のように、抜け出すことはできないから。」
「え、本当にあるんですか?と言うか、なんで抜け出せないんですか?」
「………さっきから質問ばっかりだね。」
「あ、すいません。」
「いや、良いよ。別に。」
なんか面白くて。
そう伝えると、そうでしょうか。と、ものすごく本気で不思議がった声で返されて、そう言うところが面白いんだよなぁ。と、少し思う。
「………特に君のような『光』を体現したようなものは、『あいつら』も惹かれて取り込まれやすいから。気をつけたほうがいいよ。」
「『あいつら』?………よくわかんないですけど、それなら師匠は心配いらないですね。」
「それ地味に傷つくよ?一応こちとら心は持ってるんだからやめてくれる?」
まぁ、それは………
「ある意味事実かもしれないけどさ。」
「え?」
「私のような闇を体現したような人間は、あんな綺麗な世界には行ってはいけないんだ。もともと、人間とは、あのような場所を知ることも、見ることも許されない場所。だから、遠くから眺めている位が、分相応ってものだよ。」
「………はぁ。」
「何たって、私は神様みたいな存在には、一生なれないような奴だもの。知っていることが奇跡だよ。」
「………へぇ。」
彼が、ぼんやりした顔でこちらを見てくる。
初めて動いた表情がそれかよ。
「笑えるわぁ………。」
「え?」
「いや、なんでも無いよ。それより、そろそろ出発しないと遅れるから。行くよ。」
「あ、はい。」
そうして、私たちは依頼主の元に歩き出した。