濃いブラックコーヒーの湯気の中で、淡い白雪が降りしきる
苦い。
想い出に似た味。
普段は見たくもない黒。
日常では御目に掛かることのないブラックコーヒー。
彼との想い出のなかにも、僅かな甘味の断片くらいは存在した。
だが、この液体には私の気分を高める成分は1グラムも入っていない。
苦い。
湯気まで苦い。
でも、身は引き締まる。
濃いブラックコーヒーから立ち込める湯気は白い。
真っ黒からも白は生まれる。
湯気の向こうで、光輝く透明感がうごめく。
視線を合わせると、どんな白よりも美しい王子様がいた。
柔らかさのある全体像から私に注がれる、冷たい眼差し。
それは、まるで淡い白雪のようだった。