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そういえば始まりは確か

――何かを"しなくてはならない"ということが、どうしようもなく嫌であった



 あまりにも深く、豊かな樹海の中ポツンと空いた草地に座り、私は久しぶりの思考を行った。

 事の始まりは私がこの世に来る前、人間として生きていた頃に遡る。


 私は確か、かつては学生であった。留年を繰り返し、二十の半ばほどを過ぎても卒業出来ず、報われぬ努力を諦めとうとう退学処分となった。

 最後の一年は登校し席につくのもやっとで授業はほどんど聞かず、レポートも課題も全く出せなかったので当然というものである。


 そうしてニートと化した私であったがしばらくは家事をし、時たま遊びに出掛けるくらいは出来ていた。しかし数年も経つと遊ぶ気力も失せ、一日中呆けて暮らすようになっていた。そうして寝ることに疲れては起きて呆け、起きていることに疲れては寝るということを繰り返し――私を呼ぶ母親の声と、窓から聞こえる鳥の鳴き声に本質的な違いなど無いと感じはじめてからどれほど経ったのだろうか――私は自らの視界が真っ白に塗りつぶされていることに気付いた。


 しばらく振りに起きた変化というものに対しふらふらと首を振って周りを見てみると、人が視界に入った。若いような人は男のようにも女のようにも見え、極めて整った左右対称の顔は不気味と言えるほど美しかった。


「流石に情報革命の時代までなって即身仏が来るとは思ってなかったよ」


 整った顔を呆れの表情に歪ませた人が言う。……即身仏?


「そうだよ、君が自分でやったことじゃないか。困窮した家庭でもないのに水も飲まずに死んだんだから」


 いわれてみればそうである


「うーんでも丁度いいかな。新しい管理者を増やそうと思ってたところだし」


 なにやら不穏な発言を聞いた。彼(彼女?)は私に何かさせようというのか、枯れ果て固まった感情の針が負の方向に振れる。


「あーあー待ってくれ、何かさせようって訳じゃあないんだ。正直、君はただ居るだけでいいんだ」


 話が勝手に進んでいくのは遺憾だが、それを聞いて多少は安心した。それで?


「そろそろ新しい世界を作ろうという時期でね、名目上なんだけど世界には神様が必要なんだ。タイミング良く仏になってくれたし丁度良いんじゃあないかって、特に何かしたいことがある訳じゃないんだろう?」


 うーん、どうでもいい……まあそのまま呆けていていいなら構わないか。人間、変化するということは疲れるものである。面倒だし呆けて居続けられるならそれでいい。


「ああ良かった。取り敢えず君を多少作り変えて、そのままでも死なないようにしておくから。のんびりしていってね」



 そう言うと人は消え、視界は再び白一色となり……しばらくすると木々に囲まれた半径20メートル程の草地に座り込んでいた。

――さて、ぼーっとしているか

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