第10話「座る席は推測できる」
ホテルへと向かう途中にそのカフェはあった。
真新しい感じで、お外にちゃんとメニューも出ている。
ホットケーキの上手な絵が描かれていて、イチゴのソースとクリームも。
裏にはチーズケーキお勧めです! との文字が。
「絵が上手いですね。私よりも上の気がします」
そりゃあミイニャの絵心は特殊部類に入りますからね。
「うわ~、ホットケーキ美味しそう」
クレアはクレープとかホットケーキ大好きだからな。はしゃぎそうになるのもわかる。
「ちょ、見てみて。チーズケーキお勧めだって」
クレアのマル秘ノートによるとマアニャはチーズケーキが好物なんだったか。
この3人もしかしてスイーツ女子なのか!
「入ろうぜ。俺も喉が渇いたし。デートみたいだよな、カフェに女の子と入るのは」
3人ともはっとしたのか、肩がピクリと動いた。
「では優斗君。私のお隣席に座ってくださいね」
「はあ、何言ってるんのよ! 隣は……あっ、あたし向かいがいいわ」
「クレアは、クレアも……」
座る席何かどこでもいいんだけどな。いや、両利きとはいえ、元来は左利きだから肘が当たらない様に4人席なら……
「とりあえず入るぞ」
ドアを引き、いざカフェ「スレンダ」へ。
「いらっしゃいませ」
やや緊張気味だけど、可愛らしい声での挨拶を受ける。
「何名様ですか?」
「4人です」
「そちらのテーブル席にどうぞ」
奥のテーブル席へと案内される。マアニャだけは即座に席に着き、俺にむかって魅力的な笑顔を向ける。
(さすがじゃねえか、よくわかってるな。えっと、向かいがいいんだったか)
俺はマアニャの向かいに腰掛ける。
「優斗君、なんでですか? お姉ちゃんの傍がそんなにいいんですか?」
ミイニャが俺の肩を揺らしている隙に、クレアはさっと隣に腰掛けたのだった。
「あっ……」
何か言いたそうに口を尖らせ、震えていたミイニャだったがおとなしく空いているマアニャの隣にしょんぼりと着席した。
☆ ★ ☆
メニューに目を通していると、
「ゴールドバッジ……すいません。お手柔らかにお願いします!」
俺を見て慌てだす店員さん。
「お手柔らか? 何の話?」
「いえ、そのお触りとか、欲望を満たす行為は……赤バッジの上あるんですね」
お触り、欲望を満たす……
「つまりセクハラ以上のことをしても、このバッヂを付けていれば許されるの?」
「はい……」
恥ずかしそうに俯きウエイトレスさんはお答えになった。黒髪が似合う可愛い女の子だけど、俺たちよりも年下な気がするな。
けしからん街だな。カスラニクス。
じと~という3人からの視線が痛い。
「なんだよ、その目は……俺がセクハラするのはお前らだけだって! あっ……」
口にした途端に恥ずかしくなった。
「とりあえず注文だ。あのさ、忙しく無かったら後で話を聞かせてほしいんだ」
「はい……」
はあ~。なんかすげえ疲れたぞ。
各々好きな物を頼み終え、俺は肩肘をついて店内を見回す。
綺麗に清掃されてる。雰囲気もグランデに似ていて落ち着くな。
「優斗君、どうしてそこに座ったんですか?」
「いや、俺左利きだし、4人席だとマアニャの隣か向かいが食べるときとか、肘当たらなくて迷惑かけないだろ」
左利きの人ならわかってくれると思うが、右利きの人と肘が当たらないように配慮してのこと。
「ということは、お姉ちゃんは優斗君の利き手から座る場所がどちらかになると……」
「当然でしょ。サウスポー何かカッコいいわよね。普段見てればわかるでしょ」
「うっ……わたしは優斗君しか見ていないので、利き手が左なのはわかってましたけど、右も使いますし……それに利き手関係なくカッコいいですけどね」
「優斗なら向かいに座ってほしいってあたしのお願いは聞いてくれると思ったわ」
「まあ誰も座ってなかったし……そうだ、クレアさ」
俺は向かいの2人に聞こえない様にクレアに近づき、
「話を聞いてるとき、あの子がほんとのこと言っているか確かめてほしいんだ」
と、耳打ちする。
「うん、わかった」