第7話「逆壁ドンもどきからのその後の行動に完全敗北した」
すでにマアニャは会合を終えたようで、その相手がご帰還した後、俺はなぜかマアニャ・ミラに書物保管庫に呼ばれ……
現在書物棚に追いやられ、マアニャは俺が逃げないようにだろうか? 両手で俺の逃げ道を塞いでいる。つまり、壁ドンをされている感じだ。
なんだ、この状況!
「書物の整理をするように言われていたっけ?」
「……」
「ランチなら大丈夫。準備できてるし、今ごろクレアが温かい紅茶でも準備してる」
「……」
「会合相手を見送るべきだったか? でも、前にそうしようとしたら、お前鬼のように怒っただろ」
「……」
無言こええ……何か言えよ!
赤髪ツーサイドアップは間近で見ると存在感と迫力があるな。容姿は絶大だし……
ドキドキしてきてしまう……
「あの、マアニャさん。今朝のことだったらすごく反省しているんだけど……ちゃんと正座したし」
「……」
「あっ、でも正座の仕返しをまた……」
「……」
ようやく顔を上げたマアニャは赤鬼みたいに真っ赤な顔だった。髪も赤、顔も赤、おまけに下着も赤なのは知ってる。
殺されるかもしんない……そんな思いすらも浮かんでしまう。
「えっと……何か言ってくれないと、謝りようもないんだけど……」
「どこぞの召使いのせいで……りんご1個丸ごと食べて、歯磨き丁寧に30分して、さっきまた歯磨きしたわ」
やっと口を開いたか……
「歯磨きは丁寧にやったほうがいいね。ちなみに俺も30分した。クレアに負担をかけてばっかりで、そこはすごい反省している」
「反省するのはあなたの場合そこだけじゃないわ……クレアに確かめてもらおうとしたら、それは殿方が適任ですって涼しい顔で言われたのよ」
「……確かめるって何を?」
「……この距離で話してて、臭いする?」
悔しそうに視線を逸らし、告白している様子でマアニャは俺に告げる。
やっぱ可愛い女の子だな。
ああ、そういうことか……この状況になっている意味をようやく理解する。
「全然。髪のいい匂いならするけど……」
ドスンとボディに綺麗なストレートを食らい、俺は下半身が支えられず膝立ちになる。
俺には痛めつけられて興奮したり、喜ぶ趣味はたぶん……ないと思うが。
「会合相手がイケてる奴だったのか? だったら会う前に確かめてやったのに」
マアニャは小刻みにまた震えだす。
……やべえ、逃げられない。
「ため口召使い、少しでも動いたら殺す!」
マアニャは真面目で真っ赤な顔をして、さらに俺との距離を近づけてくる。
もうくっつくって……その行動は予想外も予想外だって!
俺は覚悟を決めてさっと目を閉じる。たぶん本当に嫌なら全力で拒否したと思うんだが、そうしなかった。
「……」
いつまで経っても、触れる感触がなくゆっくりと目を開けてみると、
「あははは……キスしてくれるんだと思って、完全に目を閉じてやんの! なに、あなた、あたしのこと大好きなの! あたしのキス、そんなに欲しかった? お腹痛い……」
腹を抱えて、涙目になったマアニャがモロ笑いをしていた。
いつものマアニャの専売特許が俺に移る。小刻みに震えだしたのだ。
「……これも罰か?」
「当たり前でしょ。召使いのくせして、このあたしにした無礼を詫びるのね」
「やっていいことと、やっちゃダメなことがあると俺は思うんだよ。すげえ傷ついた……」
「えっ……」
「申し訳ありませんでした。お嬢様。以後、悪戯は一切しないことを誓いますし、きちんと敬語も使いますから。これまでの無礼の数々をお許しください」
俺は立ち上がって、軽く会釈する。
「ちょっと……ねえ、正座の仕返しって何考えてんの? それ教えてくれたら今まで通り、敬語も使わなくていいし、好きなようにやって……二人きりのときなら」
「……仕返しはもうしません……ただの召使いなので。なんなら、ミイニャのみの召使いにしていただいても結構です」
俺は通行止めが終わったのか、両手の下りたその場を離れる。
「お昼は、低能役立たず召使いがいると味を落とすでしょうから、3人でどうぞ」
自分でも理由はわからなかったけど、アイルコットンに来て1番イライラしたかもしれない。
なぜか硬直していて動かないマアニャの表情を見ることなく、俺は書物保管庫から足早に出た。
ため口召使いとあたし(マアニャ)の仲をブクマと評価で応援してくれる人はいるの?