第60話「イケメンに稽古を」
大きな庭の訓練場。
俺と騎士団長代理のグランドは木刀を握り、向かい合い、それを囲むように騎士団員たちが円を作って見物体制。
前にもこんなことがあったな。
「まず素振りだけどな。一定の感覚で体にしみ込ませるのは型が出来ていいけど、それじゃあ剣速が上がらない。速度を上げていく素振りもやった方がいい。まあこれはあくまで俺の意見だから、聞く、聞かないは個人の自由だけど」
はいっ。と何名かが声をあげる。
あれ、俺はただの召使いなんだけどな。騎士団指導員という肩書になってしまわないか……
「それから強い奴の動きを目で追ってよく見た方がいい。この中じゃグランドの構えや動きを予測も立ててシュミレーションするんだ。団長って人が強いなら、帰ってきたらその人を観察してれば色々わかってくるはずだ……じゃあグランド倒すつもりでかかってこい」
こくりと頷いたイケメンは右足で地面を蹴り、向かってくる。
身体能力は悪くない、速度もある。
わき腹への振り払いは木刀を下にして止める。今度は振り下ろしてくる。俺は地面を蹴り、避けたと同時にそのまま加速し、振り下ろしたままのグランドに木刀で軽く触れる。
「これで1本だ。お前、剣が素直過ぎるんだよ。性格が現れちゃってる。前に俺もすげえ罵声を浴びせられて克服したけど……戦闘は素直じゃなくていい、戦うってことはだいたい敵対してる奴とで、それは敵だろ。敵は素直じゃねえぞ」
「どうやったらその瞬発力が出せるんだ? それスキルなのか?」
「違うな、2年の地獄で勝手に身についた。ていうより生きるために備わったと言うべきかな。まあここまでの速度は要らない。手に入れたくても順序があるしな。グランド、お前魔法使えるのか?」
「いや、剣のみだ」
「いいね。とりあえず剣速と反応、それと視界を広げるんだな。限界は引き出していくもんだ。強いなら、団長と毎日対戦するのが1番伸びると思うぜ」
「それは無理だと思う。団長は優斗のように親切に教えてくれたり、ましてや加減などしてくれたりはしない」
「なんだそれ! 力量の差があるんなら加減しなきゃ怪我するだろ……おい、まさか騎士団員が少ないのって団長のせいもあるのか?」
「一概にそうとは言えないよ。みんな強さは認めているし、ただ訓練でけが人が絶えないのは確かだ」
他の団員も下を向き、団長の強さのみに怯えた様子を示す。
「うわ~、絶対俺この騎士団に入りたくない……お前、俺を勧誘するんじゃねえ」
「そんなこと言わないでくれよ。まだ時間がある。色々教えてくれ」
この後、俺は騎士団全員にレベルアップの助言を出来る限り行った。
☆ ★ ☆
召使いの業務より、団員の指導の方がよっぽど疲れる。お昼の料理はクレアにお任せして俺は盛り付けだけを担当することに。
「お疲れだね。みんな昨日のことを見てましたから、優君に指導してほしかっただよ」
「頼られるのは嫌じゃないよ……なあ、クレアは団長の人となりどう思ってる?」
「えっ……」
鍋をかき混ぜていた手を止めてこっちを見た。
「いや、どうも団員たちが力を付けられていない原因は団長にある気がしてさ、どうなのかなと思って。クレアなら的確に把握してそうだし」
「持ち上げすぎだよ。騎士団のことはクレアにはよくわからない。あんまり接することがないし。ただ団長さんが強いっていうのはなんとなくわかるよ。すれ違っただけで」
「まっ、俺は明日ここから離れるし、騎士団内のことには口を出すことはしないけどな……ん、どうした?」
クレアは俺をじっと見つめていた。
「優君、今日ってカフェにいるよね?」
「いるよ。カフェも本日最終日だ」
「……4時ごろなら空いてるかな? クレア少しお話があるから、行ってもいい?」
「うん。その時間なら多分空いてる。カフェでいいのか? また夜にこっちに来てもいいよ」
「うんうん、カフェで良いの。ミイニャ様にも出て行くこと話してあるんでしょ」
「あっ、うん……」
ミイニャがついていくこと話しておいた方がいいかなと思ったが、結局話せずにマアニャの召使いの業務を終えた。




