第5話「丸腰召使いVSフル装備の騎士団員」
「召使いのお前が、騎士団員の俺と戦うだと」
「ああ。俺が勝ったら騎士団を辞めて、このアイルコットンから去れ。お前が勝ったら、なんでも言うことを聞いてやる。フル装備でいいぜ。全力で来い」
「……頭が悪すぎる召使いだな。俺に死刑執行してくれと頼んでるのか?」
「頭が悪い騎士団員だな。そうは言ってないし、そうなるとも思えない。2人の召使いを理由もなく途中で投げ出す俺じゃない。お前になんか負けねえよ」
「優斗! 感情的になるな。ここは僕に免じて丸く収めてくれないか?」
「ダメだ、グランド。俺は男なんでね。明らかに喧嘩を売ってきた相手に、背は向けられない。マアニャかミイニャの命令なら……わかんないけどな。大丈夫、もし大けがしても俺の不注意だってマアニャには説明するから迷惑はかけない」
「団長、その召使いから申し出たことだ。俺は戦わせてもらう」
「やる気満々だな……初めからそうしたいんだろうが」
☆ ★ ☆
庭には騎士団のギャラリーが円を作って観戦しようとしていて、俺はその円の中心に膝蹴りをかまされた名前も知らない奴と対峙している。
「優斗、僕の剣を使え。丸腰じゃ話にならないだろ。危険だと判断したら即座に止めに入る」
グランドが鞘ごと剣を渡そうしてくれるが、俺はそれを制し、
「いや、俺は召使いだし。このままでいい。それに勝負がつくまでは見届けてくれ」
白いシャツに黒いズボン、シャツの真ん中には黒い蝶ネクタイ。改めてみると召使いっていうより、執事みたいな格好だな。結構気に入っているんだ。
「しかし、それじゃあ倒してくれと言ってるようなものだ。無謀にもほどがあるぞ」
「よく見てろよ、グランド。たぶんこの中で理解できるとしたら、お前だけだからな」
「何を言って……」
「いつでもいいぜ。かかってこい」
俺はグランドから離れ、指で相手を挑発する。
「死ね!」
カチャカチャと軽いメイルが揺れる音と共に、大男の影に体が埋まる、すぐに一本の太刀筋が俺の体を半分にする勢いでむかってきた。
俺は左足を後ろに下げ、少しだけ体勢を右に傾けて、その剣を難なくかわす。
「剣速が遅い。素振りを真面目にやってないな。それに剣士にしちゃ肉が付きすぎだ。鍛錬が絶対的に足りねえ」
「1回避けたからって調子に乗るな」
また振り下ろしか。
避けると同時に左足で顎を蹴り上げ、右足でも同じ部分を蹴り上げる。
デカい図体はスローモーションのように後ろへ倒れていくが、もう一撃倒れていくその顔面に膝蹴りをお返ししてやった。これも左、右と二回。もちろん手加減したけど。
大男は地面に大の字で寝そべり、気を失い、その鼻からは大量に出血している。
そのまさかの光景を見て、騎士団の連中は言葉を失っていた……
「さてと、俺は後27分残っている正座に戻る。いざこざを起こして悪かったな、グランド」
「いや……原因はその団員だ……優斗、君は一体?」
「俺は双子姉妹の召使いだぜ」
自分で思うのもかっこ悪いが、俺少しかっこよくないか!
この場に女の子がいないのが残念でならない。