第58話「頼って、信じて……お礼を」
「おかしいです、あのお店。母が通っていたにしては品ぞろえ悪いです」
「騎士団に剣は納品してるし、アイルコットンは剣士ばっかりだから、杖とか他の武器はあんまり置いてないんだよ」
「それにしてもうんのよさが振り切れた私が……初心者の杖なんて……」
30センチほどの木製のそれを見て、ミイニャは眉間しわを寄せ嫌そうな顔をする。
可愛いね、まったく。
「最初から強い武器装備は成長を後退させると俺は思うぜ。呪文も1つずつ覚えながら、段々武器も変えていくほうが楽しいし」
「いえ、優斗君と二人きりだと思うだけで、私の喜の感情はすでにお腹いっぱいなので、成長での嬉しさは特に」
「それはどうも。その杖だけじゃ戦闘できないから、あとで短剣か女の子用の剣を探すか?」
「後ろで応援しているだけではダメですか?」
本当にやりそうで、容易く想像できてしまう。
「ダメだろうな、それじゃ。俺もミイニャが強くなった方が楽だし」
「なるほど……恐妻になれってことですね」
なぜそう解釈したのだろうか。まあやる気ならなんでもいいけど。
「じゃあ俺は邸に行くから。カフェの方よろしく」
「いってらっしゃい……あっ、今日もうんのよさを上げておきます」
ミイニャは俺を軽く抱きしめ、
「トゥトゥルウルウ。うんのよさがさらに上がりました。憎きお姉ちゃんに、私には勝てないと悟らせることが出来るでしょう」
「……いってきます」
あのう、ミイニャ。うんのよさを上げてくれる(ほんとに上がってるかわからない)のはいいが、出来れば俺が今日も一日幸運だとか、そういう言い回しで頼みたいんだけどな。
☆ ★ ☆
邸にはマアニャが降りてくるかなり前に到着し、1人で仕事をさせてしまってクレアに詫びて、一生懸命に手を動かし、朝食を作る。
クレアはときどきこっちを見るが、いつもに比べお喋りしてくれる回数が少なく、そのことが俺を気落ちさせた。
クレアこそ去る者は追わず。かもしれないな。
「よし、完成」
今日の朝食はBLTサンドにサラダとヨーグルト。あと暖かい紅茶。この世界、ご飯よりパンの方が優遇されているみたいなんだよな。カフェランチメニューには俺がライスメニューを色々取り揃えて好評らしいので、ご飯をあんまり食べる習慣がなかったのだろう。
熱々を召し上がりになってもらおう。
マアニャはいつも通り、9時3分に降りてきた。
小さな欠伸をして、クレアが引いた椅子に腰かけるとこっちを見て微笑む。
あれ、なんか今日は雰囲気が違うな……あのスマイルは俺がいて嬉しいって感じのものだ。
「BLTサンドなのだぜ。よく俺が作るサンドだよ」
マアニャの前にまだ熱いそれを出し、俺は向かいに座る。
「いただきます」
小さな口を開け食べ始めたマアニャを見て、俺たちも食事を始める。
「うわっ、いつもながら美味しい」
「気に入っていただけてよかったぜ。もう作る機会もないだろうから、味わって食べてくれ」
「……そうだったわね」
マアニャはあからさまに悲しそうな表情を浮かべたので、それを見たクレアが俺を肘で突く。
「優君はもうちょっと女の子の気持ちを考えた方がいいと思うな」
そんな怖い目で睨まなくても、言葉だけで十分伝わるよ。
「バートン、クレア。昨日は迷惑かけたけど、ほんとにありがとう」
「いえ、お嬢様。わたくしはその場の判断で動いただけです」
大活躍だった執事さんは表情を変えることなくマアニャに言った。
「クレアはお礼を言われることは何も」
「そんなことないわ。その馬鹿を待機させてくれたんでしょ。良い場所で。ありがとう」
マアニャか。ツンツンなだけじゃないな、ちゃんと周りの人を見てるし、頼って信じてるっていうのが、昨日のでわかった。
「お嬢様、サーシア様から今朝ご連絡がありまして、明日こちらにお戻りになるようです」
「そう。バートン有難う」
バートンさんにお礼を言った後、マアニャは俺を見てニヤッと笑う。その笑みは何を意味しているのか……
こいつの考えていることは俺にはわからん。




