第4話「喧嘩を売られたので、もちろん買います」
木の棒と木の棒がぶつかり合う音、ヒュンヒュンと剣の素振りの音と、騎士団員たちの掛け声&たまに怒号がこだまする邸の敷地内にある大広場。ここは騎士団員たちの訓練場で、俺はその真ん前で座っている……
律義にもマアニャの言いつけ通り正座していた。ご命令は1時間。
「あのツンツン女……男ばっかりのこんなところで正座させやがって……死んで来いの方がまだましだ……ちっ、この恨みはまたすぐに返してやる。やられたら倍でやり返す……」
ぶつぶつと呪文のように発していた俺に、突然背中に膝蹴りしてきた野郎がいた。
その衝撃に俺は前のめりに倒れ、顎のあたりに砂が付き、口を少し切る。
「邪魔だ。失せろ……」
「……」
(いってえな……)
俺は背中をさすりながら、ついた砂を払い、体勢を戻しつつ図体のでかいそいつを見る。
「聞こえなかったのか? 失せろ!」
そいつは上から俺を見下ろしていた。
えっと、誰だったかな、こいつ? 覚えてないところをみると大した奴じゃないな。
クレアに貰った懐中時計で時間を見る。
「11時3分か……」
残り27分は後でカウントしよう……さてと。
「お前の眼は失明してんのか。いきなり膝蹴りはないだろ。俺はマアニャの命令で正座してたんだよ!」
「邸の中ウロウロしてる召使い風情が図に乗るなよ」
「おいおい、話題をすり替えるなよ。無防備な召使いに膝蹴りするのは許されてるのか、このアイルコットンでは……それに俺はマアニャとミイニャの召使いで、お前のいうことを聞く理由も意味も義理もない」
俺は立ち上がって、喧嘩売ってきた相手を睨みつける。
「優斗、どうした? 何を揉めてる」
訓練中でも剣士のフル装備をした騎士団長代理だったか? グランドが様子がおかしいのに気が付いたようで、俺たちの間に割って入った。
金髪の長髪という女の子みたいな髪型だけど、イケメンでアイルコットン内でも人気があるらしい。ちなみに俺より5歳年上で23歳だ。
「よお、グランド。これだけの騎士団となると、中には礼儀のなってない奴がいるんだな。お前の指導力にケチをつけるつもりはないけどな、売られた喧嘩は買わせてもらうぜ」
「貴様、団長にその口の利き方は何だ?」
「うるせいよ。お前は弱い者いじめをするタイプで、俺はそれが嫌いだ。無防備な相手にいきなり背後から膝蹴りかます卑怯な野郎が騎士団員を名乗るな! そんなのが居たら、グランドにもマアニャにも後に汚点になる」
「正座していた優斗に膝蹴りしたのか?」
「そんなまさか……ちょっと肩を叩いただけですよ」
「肩を叩いただけ……卑怯なうえに嘘つきかよ」
俺は大袈裟に首を振る。
「優斗は理由もなく怒る子じゃない。謝るんだ」
「いいよ、グランド。別に謝罪を求めてるわけじゃない。そいつも俺とマアニャかミイニャが仲良くしてるのが許せないらしいな、もしくはクレアかな……それならそうと口で言えばいいし、自分を見て貰えるように努力すればいい話だろ」
「……優斗、謝罪を求めないならどうしようって言うんだ?」
「もちろん戦うよ」
俺は屈伸、アキレス腱伸ばしと準備運動を始める。