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第36話「二人きりになるには」

 クレアとバートンさんが一緒だとまずマアニャは何も話してくれない。

 俺と二人きりだと、昨日みたいに面白がって、会話を楽しむことは出来るが、果たして内に秘めたる思いを吐き出させることが出来るだろうか?


 マアニャとの二人きりはクレアやミイニャの時よりも異様にドキドキするからな。何を考えているのか推測するのが難しいんだよな。


「なにジロジロこっち見てんのよ! 大好きなあたしをそんなに見たいのかしら?」


 マアニャはピザトーストに齧り付きそうになるのをやめ、向かいに座っている俺をじっと見つめる。


「美人は見ていて飽きがこないのは確かだが、生憎いつもと違い、誰かのせいで俺は絶賛考え中でね。やべえな、可愛い。こいつがお嫁さんなら毎日飽きないなとかいう感情を今は封印している」


「ふっ、ってことはさ、いつもは可愛いって思ってるってことだし、あたしをお嫁さんにしたいって言ってるようなもんじゃん! 召使いのくせに主に恋するとは処刑に等しい行為よ」


 嬉しそうに何を言ってんだ、こいつ。


 んっ? 俺は今おかしなことを言ったんだろうか……この背負い込み女のせいで思考量が大幅に減少している。

 隣から痛いクレアの視線が飛んできている気がするので、そっちは見ないようにしよう。


「何に悩んでるかしらないけど、あんたが考えてもダメでしょ。馬鹿なんだし」


 いつも通り超失礼な女の子だ。


「お前が考えてもダメだ。しょい込むとろくなことにはならねえぞ」


「……偉そうに何言ってんの!」


「いつも偉そうなのはマアニャの方だろ」


 俺たちは向かい合いながら、お互い睨み合う。威嚇している猫同士みたいな構図だ。

 クレアもバートンさんもいつも食事中はほんとに静かで、喋っている(言い争っている)のは俺たちだけなんだよな。


「勘違いしてるようだけど、立場あたしの方が上だから!」


「敬語使わなくていいって懇願したのはそっちだろ。もっとデレを見せていいんだぜ。ツンツンだけじゃモテないぞ」


「モテない……あんたに言われたくはないわ。懇願したのはそっちでしょ。悪かった、許してくれって言ってさ」


 言ったさ。だって悪いのは俺の方だからな。正直、昨日カフェに来てくれてほんとにありがたかったし、すぐだからこそ謝れたと思っている。俺は意地っ張りなのを自覚しているんだ。


「……あっ、そういえば昨日のあれ、ちゃんとしてくれるんだろうな?」


「あれって……なにこいつ! 食事中に信じらんない」


 やばい、やばい、話の方に夢中になるわけにいかない。まずどうやって二人きりを作るかだ。俺から誘ったら、こいつのことだ。また盛大にうるさいだろうし……


「そんなにクレアが作った料理が美味しくないの?」


 食事の手を止め、腕組みを始めた俺に珍しく食事中にクレアに話しかけられた。


「そんなわけないだろ。美味だぜ。俺なんかより、段違いでクレアの料理レベルは上だからな。しかも栄養バランスもちゃんと考えてるし、メイドの鏡だぜ」


「ならもっと美味しそうに食べて!」


 俺の悩みを知ってますよね? このままにしておけないとクレアも思ってますよね?


「食事は食事。それはそれ」

 俺の視線に対する答えはパーフェクトだった。


「ありがたく食事を再開させていただきます」


 俺は少し冷め始めたピザトーストに齧り付く。


 う、うめえ!


 喉につっかえそうになったので、アイスティで流し、サラダも完食。クレア特製フルーツゼリーも美味しくいただいた。


「がっつきすぎ……もっと上品に食べなさいよ」


「食べ方は迷惑かけなきゃ気にしないけど」


 育ちが悪いのだろうか?


「……迷惑ではないわよ。美味しそうに食べるし……手が空いたら、書物保管室に来なさい! あっ、歯磨きもちゃんとして来るのよ」


「なんだよ。俺と二人きりになりたいのかよ?」


 これはチャンスだ。


「殺すわよ!」


 キラリとナイフの刃のような鋭い視線が飛んでくる。


「わかったよ。片付けて雑用仕事を少ししたら行くから待ってて。今から1時間後でどうだ?」


「何舞い上がってんのよ、馬鹿……」


 マアニャは俺から視線を珍しく逸らす。

 舞い上がるだろ、そりゃあ二人きりをどうやって作ろうか考えて……あれ、歯磨き必要か?

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