第32話「執事バートンから情報を」
機嫌をよくしたクレアは二つ返事で頼みごとを了承してくれて、俺たちは執事さんを捜しに部屋を出た。
キューで玉に狙いを定めるその姿はすでに高齢者とは思えないほど、綺麗なフォームだった。
執事のバートンさんは遊技場に居て、1人ビリヤードの練習をしていたのだ。
「わたくしに何かお聞きしたいことがある?」
「はい」
バートンさんの鋭い目は、俺とクレアが繋いでいる手へと向けられ、
「随分と仲良しになりましたね。二人とも顔が火照っている……若いというのは才能です」
「これはその……」
クレアが手を繋ぐと言ってそうしたはいいが、繋いだら繋いだで、今度は放してくれない。
「バートンさん、クレアと優君は仲が良いと思いますか?」
「それは本人たちがよくご存じのはず。尋ねたいことと言うのは?」
「俺は召使いになってまだ2ヶ月。この2ヶ月、マアニャを身近で見て来たけど、バートンさんに比べたら、見ている時間に差があります。あいつのことを教えてください」
「どのようなことで?」
「今日、会合を開きましたよね。婚姻に関することなんでしょ。婚姻する意図は何だとバートンさんは思いますか? またそのことについて、バートンさんは何か知っていますか?」
「越谷君、わたくしはお嬢さんに仕えている身。無用な詮索はいたしません。ただ、お嬢さんに何かあるなら、この老体に鞭をうってでも阻止する所存です。それは君も同じのはず。君が来てから2ヶ月……お嬢さんはほんとに楽しそうにしておられる。そのことにわたくしはおおいに感謝しています」
「何か知っているってことですか? 無用な詮索はしていいケースとダメなケースがあるのでは? 騎士団は団長不在で、グランドが仮の団長。実質グランド以外、数はともかく個人の能力は低いですよね。はっきり言って、大事な主を守れるだけの戦力が整っているとは俺には思えません」
「……では一つだけ言わせていただきましょう」
バートンさんがキューで撞いた白い球がいくつかの玉をポケットに吸い込ませた。
「これはわたくしの勘に近い物であり、お嬢さんから聞いたわけではありませんが、おそらく探っているんですよ。もう随分前から……その答えが婚姻にあるのかもしれません」
「探る?」
「まあじじいの独り言ですから、あまり間に受けないように……それから訂正しておくべきかと思いますよ」
「何をですか?」
「戦力のお話です。わたくしがいます。もし騎士団が不甲斐ないと感じれば、この身は衝動を抑えられないでしょ」
「……なるほど。雰囲気がありますね。では騎士団に関しては心もとないに訂正を……」
「いや、老体なので無理がたたると、執事の仕事に影響が出かねません。若い力1つ、つまり越谷君1人で事足りるのではとわたくしは感じていますよ」
「その理由を聞いても?」
「最初に握手をしましたね。随分と何かを握っていた時間が長いようでした。それにわたくし、今日の訓練場でのいざこざを遠目に見ておりましたから」
「……そうですか……一応、納得はしましたが、過度な期待をかけないでいてくれると助かります」
「承知しました」
「あっ、それと俺のことマアニャに報告したりは……」
「いえ、何も告げてはいませんよ」
バートンさんは、台上へと視線を戻し、もうお話することはないといっている雰囲気なので、俺とクレアはその場を離れた。




