第3話「審査をもう一度」
通ると確信していたものを却下された落胆は思いのほか大きいようだ。
ミイニャはしょんぼりと肩を下げ、俺の袖を弱弱しく握りながら、ハウスクラウンに戻ってきた。
すがすがしい風も今のミイニャには、慰めにはならないだろう。
ミイニャとは対照的にマアニャとクレアの方はご機嫌で――
「あたしは優斗と何のお店をやろうかしら?」
「クレアは優君の意見を尊重して……」
ぎゅっと袖を握る力が強くなった。
そんなにカフェ2号店をオープンしたかったのかな。
「ケティ、なんでミイニャの申請は却下されたんだろう?」
「うーん、たぶん自己満足の営業目的だったからだと思うよ」
やっぱり……
大きなあくびをしながらマアニャの使い魔ベリとミイニャの使い魔オルフィが宙に浮いた。
「仲睦まじい二人が店員さんなら、お客様は幸せじゃないですか?」
「それをあの場で説明すればよかったじゃないか」
「そのくらい読めるかと……あと動揺が」
ふらりとミイニャの体が揺れ出し、俺に寄りかかってきた。
額を触るとひどい熱が……
それに反応したかのように使い魔のオルフィも真上から俺の頭に落下してきた。
真新しいベッドにミイニャを寝かす。急ごしらえで部屋を作ってくれたとは思えない寝室だ。
荒い息遣いと少し赤みがさした頬。
ナルブルタンに到着するときも具合が悪くなっていた――
一緒にカフェをやっていて気付いていたけど、ミイニャは体が頑丈ではない。
集中力が続かないのも、営業時間を短縮していたのも疲労を蓄積させないため。
自分のところには使い魔が来ないってことも相当気にしていたし。
安心して疲れが一気に出てしまったんだろう。
額のタオルを氷で冷やしていたものに取り換える。
だいぶ熱は下がってきた。
使い魔の方にも小さなタオルをのせた。
「優斗、代わるわ」
「うん……」
立ち上がろうとしたが、ミイニャが握りしめていた手がほどけない。
「寝ていても一緒に居たがるなんて、なんて執念よ」
マアニャはため息をついて俺の隣の椅子に腰を下ろした。
「何作りたいか決めたのか?」
「お風呂とか便利な施設はクレアと話したわ。やりたいお店は……」
マアニャは妹の寝顔を眺めて、肩を竦める。
「口では強気なこと言ってるけど、すごい不安と戦ってたんだと思う。かぐやとの戦闘で優斗の傍から離れないといけないかもとか、使い魔のこととか、集中してたからね。旅に出てからずっと――」
「うん……」
「あたしも不安だったのよ。でも、わりと頑丈だからさ」
「わかってるよ」
「最初はグランデの2号店、作らせてあげないとね。ミイニャはずっと思ってたみたいだから」
マアニャはミイニャの寝ている頬を突いた。
仲の悪い兄妹、姉妹はたくさんいるだろう。
マアニャとミイニャの姉妹は、お互いを理解し、尊重してほんとに仲がいいな。
「そうだ。審査が通るようにね、クレアとアルカとあたしで話したんだけど――」
肩を申し訳なさそうに揺らす手に気が付き、ベッドに突っ伏していた俺は顔をゆっくりと上げる。
草色のカーテンの隙間から朝の陽ざしが差し込んでいた。
「優斗君、おはよう……ございます」
「おう、大丈夫か?」
顔には涙を流した後が見て取れた。
怖い夢でも見たのだろうか?
「虚弱な私をパーティーから追放し、あの乳でかコンビがデカい顔して優斗君にくっついている恐ろしい夢を見ました」
「そ、そうか。みんなもすっごい心配してたぞ。変わりばんこに看病してたんだ」
「たまに声が聴こえてました」
「あんまり頑張りすぎないようにな。具合が悪くなったらちゃんと言ってくれると助かる」
俺は上半身だけ起こしているミイニャの頭を優しくなでた。
「はいっ……あのっ、置いて行ったりしませんよね?」
「当たり前だろ。ご飯食べたら、もう一度カフェの建築許可貰いに行くぞ」
☆★★★☆
昨日と同じお姉さんに記載したカフェの建築用紙を手渡す。
ミイニャは俺の袖をぎゅっと握りやや緊張した様子だ。
「営業時間、7~17時に変更してありますね。従業員も1、2――5人に」
「ええ。俺たちパーティーでそのカフェをやります」
「なるほど」
「ほのぼのした空間。来店したお客さんにほっと一息……ですか。なんとなく雰囲気が伝わってきます」
大きなハンコをお姉さんは手にして、それをぺたりと用紙に押した。
「開店したら、ご連絡を。ぜひ、行ってみたいので」
それを聞いて、ミイニャはおれにぎゅっと抱き着いてきた。
涙を流しているかわからないけど、嬉しさが爆発しているようだ。
いつも一生懸命だからな。ウエーブしている髪を俺は優しくなでた。
新作「桜狐の姫は今日も懐かない~追放された底辺調伏師はヒーローの夢を見る~」
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