第34話「魔術の大会ミイニャの1回戦&マアニャの2回戦」
ゆっくりとマアニャは近づいてきて、さも当然の権利のように俺をぎゅっと抱きしめる。
むにゅ、むにゅが……
「勝つたびに気合入れなおすためにハグするからね」
耳元に囁き、ゆっくりと離れる。
「お、お姉ちゃん。優斗君に近づかないで!」
「ミイニャ、一回戦から躓くんじゃないわよ。まあ、負けたとしてもあたしが一人で勝つけど。そうなったら残念、優斗のパーティーからさようなら」
「ふっ、誰に言っているんですか。優斗君、見ててくださいね」
「おう。しっかりな」
ミイニャはリングに上がる。
相手はこれまた小さい女の子。
「お姉ちゃんやクレアほど私は器用ではないかもしれません。でも、想いを込めるというのが、優斗君を想っていることとイコールなら誰にも負けない自信があります」
ミイニャはなにやらぶつぶつとつぶやいている。
試合開始の合図があり、相手は氷系の魔法を唱えた。
直前に吹雪が迫っていてもミイニャは魔法で相殺しようとか考えていないように見える。
「ちょっと、何してるのよ! 避けるか受けるかしなさい!」
ミイニャは姉の言葉にニンマリと笑みを浮かべ、右手だけを前に出し、向かってくる氷魔法を相殺……いや、吸収したように見えた。
「私、何が得意なのか? といわれたら水魔法と風魔法でしょうか。氷魔法はその中間みたいなものですから、水・風の魔法ではよほどでない限り、ダメージを受けることはないと、今この瞬間にわかりました」
何かつかんだのか? 何なのか知らないけど……
「お姉ちゃんのやり方はすぐ実践可能ですけど、マネしても面白くないですね……」
ミイニャは自分の足元から相手のリングまでの距離、いや、相手を除外したリング全体を一瞬でひんやり凍らせた。
相手はその意味が分かったのか、ミイニャのすごさが分かったのか、その場にしりもちをついて降参する。
(おい、おい、おい!)
俺は試合を見て、経験値にしろと言ったが……マアニャとミイニャは自己流で段違いにはるかにレベルアップしやがった。いや、観戦経験だけじゃない。
ふふ~んと意気揚々とリングから飛び降り、たったっとかけてきて俺にむぎゅ~とハグをする。
「優斗君、見てましたか? かしこさが一気にアップした気がします。いいこ、いい子してください」
言われた通り、いや心を込めてミイニャの艶髪を撫でてあげる。
「魔法のことは専門じゃないけど、たぶん物凄いぞ」
「見ててください。この調子でカグヤ嬢も1人で倒して見せます」
「馬鹿ね。ひとりでカグヤ嬢を倒せるわけがないでしょ。カグヤ嬢との戦闘後ならともかく」
「お姉ちゃん、カグヤ嬢とやるまでに私クラスまでは到達してくださいね!」
「あ、あなたがあたしの域まで到達しなさい! 次の試合でミイニャよりもっと物凄いのを見せてあげるわ」
「優斗君、ぎゅって腰に手を回して抱きしめてください。そうすれば2回戦ももっとすごいことが出来る気がします」
「話を聞きなさいよ!」
☆ ★ ☆
魔術の大会は剣技の大会と違い、遠距離戦、それも攻撃魔法の強さでほぼ勝敗が決まってしまうので、試合時間も短く、あっという間にマアニャの2回戦へと進む。
相手は中年のスケベそうなおっさんだった。
「……おい、マアニャ。近づかせるなよ。開始早々燃やせ!」
俺はリングに上がり、マアニャを値踏みしているおっさんにうんざりしながら、そんなアドバイスを送る。
「あら、あたしがお触りされたら、優斗は気に入らないの?」
破壊力抜群の物凄い笑顔を目のあたりにして、
「そっ、それは……」
俺がたじろいていると、クレアとミイニャのジト目までも浴びる。
「気に入らないと言わなければ嘘になる。とにかく電光石火で片付けろ!」
「いうとおりにしたら、ご褒美ね!」
「お姉ちゃんだけずるい!」
「マアニャさん!」
ミイニャとクレアの声を背に受け、マアニャはリングへと上がった。
「はあ、はあ、可愛い子だね」
「あたしにはあそこにいる優斗って子がいるの。相思相愛のね。だから触れられると優斗が大暴走するから悪いけど、この距離で倒させてもらうわ」
試合が開始されたと同時に、マアニャは炎のでリング上を囲み、右手を伸ばしそれを拳銃のように人差し指だけを相手に伸ばす。
「すごい魔法力」
クレアの呟いた声が聞こえる。
元々マアニャは家系限界突破で魔法力が振り切れているからな。
だけどあれは……ミイニャもそうだけど、どういう理屈だ。あんな魔法力を呪文も唱えてないのにどうやって外へ?
「そういえばクロガネも雷を纏っていたけど」
何か関係があるんだろうか?
「おじさん、お嬢ちゃんになら焼かれてもいいかな」
「そっ。じゃあ焼く!」
「えっ!」
マアニャは指先に炎を集め、それを相手目掛けてぶっ放した。
火炎弾はものすごい速度で相手の右足に命中し、ぼわっと燃え出す。
「あちっ、あちい」
「ああ、ちなみに言い忘れたけど、今の超手加減したから、全力だと」
人差し指の炎がどんどん、どんどん大きくなる。まるで空気で膨らむ風船、アドバルーン級まで行きそうだ。
「……負けました!」
相手はあっけにとられたように、即降参を宣言した。
1回戦の時と同様、いやそれ以上にふふふ~ん、ふふふ~んと超ご機嫌にリングから降りてきたマアニャは、
「はい。優斗の命令通りにしたわ。ご褒美はね、一昨日の夜の続きでいいわ」
えっ、一昨日の夜の続き。んっ、えっと、寝ぼけて何かしたかな……
慣れた様子で俺の腰に手を回し、
「はい、優斗。特別にお触りしてもいいわよ。あたしを触っていいのはあんただけなんだから!」
一気に顔が赤くなったのがわかった。照れるだろ! よく恥ずかしからずに言えたな、こいつ。
いや、耳まで真っ赤だし、恥ずかしいけど言ってくれたのか!
「お姉ちゃん! またアホなことを!」
「クレアだって、クレアだって……ああ、もう少し勝ったときに甘えればよかった。もう遅い、もう手遅れ」
ミイニャとクレアは恨めしそうにこっちを見ていた。




