第30話「剣技の大会(クレアの準決勝)」
Dブロックはセシスが勝ち、トーナメントは準決勝へと移る。
剣を交える相手で、殺意を持ってないってことはあんまりないからな。この大会は成長するという意味では持ってこいだと思う。
入念に準備運動しているクレアに、なんて声をかけようか迷った。
「クレア、一撃だけでもぶちかましなさいよ」
「ずるいぎりぎりを狙って翻弄するのがいいと思います」
「クレアちゃん、ノルマは達成してるんだし、気楽にね」
3人が言いたいことすでに言っているからな。
「クレアさん、彼本当に強いですから、気を付けて!」
戦ったグランドも一言伝えてるし。
「はい……」
クレアの魅力的な瞳が俺を見据える。
「えっと……全開で行けっていうのはさっき言ったけど、自分の剣がさらに上に行くためにはどうすればいいか考えながら戦うといいかも。相手は格上だからな。盗めるところは盗んでしまえ」
「うん。怪盗剣士クレアだね……ノルマは達成したけど、マアニャさんとミイニャさんに比べたら低いノルマだったから。全力でぶつかってきます。戦闘後は優君にいつもより甘えられると思ってがんばる!」
「甘えられないわよ! なに、自分で決めてるのよ」
「優斗君に甘えられる権利を持っているのは私だけです!」
マアニャとミイニャの抗議を気にもせず、
「行ってきます」
クレアは涼しい顔でにっこり微笑み、ゆっくりとリングに上がった。
「さっきの準々決勝はいい試合だった。どれほどのものか見せてもらうぜ」
「あわよくばクレアが勝って、決勝で優君と戦いたいので。手加減してくれてもいいですよ」
クロガネもクレアも剣を抜く。
準決勝始めてください!
その言葉を聞いて、クレアは全速でクロガネに斬りかかるが、クレアの魂を込めたその一太刀をとがった頭のそいつは寸前のところで避ける。
ブンッという音と風圧が見ているこっちの耳まで届いた。
「たいした威力と速度。しかも受けたら受けたでそこからの押し込みという天性の物を持っているからな」
(あの野郎、やっぱり相当戦いなれていて分析する能力も持っているな)
「もう全力!」
クレアは妖精の力を身にまとい、さらに速度と威力を上げる。
はええ! 戦うごとにやっぱり成長しているな。
背後に回っての全力の振り下ろし!
クロガネはクレアの全力のそれを剣で受け止めた。
ビリビリとこっちにまでその威力が風に乗って伝わってくる。
「うおっ! すげえ力だ。あんた腕力も鍛えているな」
「ここから、もう一段階!」
歯を食いしばったクレアはさらに押し込んでいく。
クロガネの踏ん張る足はリングに亀裂を作っていた。クレアの剣の威力が凄まじい証拠だ。
「あんまり女の子に怪我はさせたくないんだけどな。これじゃあ俺の方がやられちまうぜ」
クロガネの笑みに何かを察したクレアは自ら剣を引き、距離を取った。
「ああん、もうどうしたのよ? もうちょっとで剣ごと粉砕出来たんじゃない」
「クレア、まさか情けをかけたんじゃ」
「いや……距離を取らなきゃ確実に斬られてた」
「そうなの!」
「そうなのか!」
マアニャとグランドが息ぴったりに反応したのが、こんな時でも俺はむっとした。
「へえ。勘もするどいな。それともスキル的なものを所持してるのか」
「内緒です。クレアは次の一撃で今の全力をさらに超える剣を放ちます。それを防げたら負けを宣言しますが、防げなかったらクレアの勝ちにしてください」
「つまりその一撃を受けてほしいと……まっ、いいだろう。すでに手がしびれてるけどな」
「では行きますよ」
一蹴りでクロガネとの距離を詰め、今度は振り下ろしじゃなく、腰を低く落としての薙ぎ払い!
「優君、大好き!」
なんかこっちが恥ずかしくなる言葉と共に放った気がするけど。
キーンッ!
と剣と剣がぶつかり、さっきよりもすごい風圧が届く。想いをフルに込めた一撃ってわけか。
「なんていう威力だ!」
クロガネは両手持ちで剣を抑え、クレアの最高の一撃を受け止めた。
「まだまだ……優君の良妻にしてもらうのがクレアの夢!」
「まだ上がるのかよ!」
完全にはぎ飛ばされそうになっているクロガネだが、剣を何かで覆ったようにその刃が光りだした。
クレアの方も妖精の力を刃に纏う。
「おいおい、全力とか言って隠しすぎだろ!」
数分間、両者の剣の激突は続き、やがてクレアの剣が弱くなり始め、最後にはクレアはリング上に倒れてしまった。
審判がクロガネの勝ちを宣言するのを聞きながら、俺はリングに上がりクレアに駆け寄る。
「おい、大丈夫か?」
最初は右手で放った一撃だったけど、最後には左手も添えていた……両手は血が噴き出し、柄も血で染まっていた。
「はあ、はあ……降参できなかった。負けを宣言したら優君を諦める気がして……」
大粒の汗をかき、ドキッとしてしまうクレアの顔を覗き込みながら、
「まったく。そういう闘いじゃないだろ」
「クレアにとっては大事なことだもん」
クレアの剣を鞘に戻し、すぐには動けなそうなクレアを抱っこしてあげる。
「きゃ……お姫様抱っこ! 全力で戦ったご褒美!」
クレアは俺の胸に顔を埋めてくる。お姫様だろ。元々……
「どうだよ、俺の弟子は強かっただろ」
まだリング上にいたクロガネに尋ねる。
「弟子! そうか、どうりで歯ごたえがあるはずだ」
「クレアの分も決勝で俺が暴れてやる。覚悟しておけよ!」
クロガネを一度視線を合わせ、俺はゆっくりと離れていった。




