第16話「ミラ家のメイドのクレア」
「随分と実用できそうなスキルだね。そのスキルって……」
「そこまでは内緒だよ。誰にも言っちゃダメだからね、二人だけの秘密」
クレアは嬉しそうに小指を立てて、小首を傾ける。
俺はその小指に自分の小指を絡め、指切りをした。
鼻血が出てきそうだ……クレアに思いっきり抱き着きたい衝動に駆られたが、首を振りなんとかそれを押さえる。
「……クレアはどうして召使いをしてるの? 使えるユニークスキルあるなら、お金も稼げるだろうし、生活が豊かになるんじゃ……」
「お金持ちが幸せだとは思わないからかな。邸の召使いも案外楽しいよ。君にも会えたし、いいことあるもん」
「……」
少しの会話でも、この子が滅茶苦茶いい子なのがわかる。
(結婚するならこういう子がいいかも。中身もすげえ、見た目と比例してる)
クレアは俺を見て、楽しそうに口元を緩めた。
考えを見透かされている気がするなぁ……
ていうか、その笑顔だけで俺は一発KOなんですけどね……
☆ ★ ☆
同じ部屋へと戻り、就寝前のお喋りがしたいというクレアのご要望にお応えして、俺たちはアイスティを片手に話し始める。
クレアは喋りやすいな。と、俺は感じる。気兼ねしなくていいし、こっちの気持ちを理解してくれているみたいで。
「起床は6時半でギリギリかな。マーニャさまが起きてくるのは9時3分だよ」
「すげえ中途半端だな。何か理由があるのか?」
「何かルーティンがあるらしくて、私も詳しくはわからないんだけど、絶対9時3分に降りて来るから、それまでにお掃除と晴れていればお洗濯とお庭の手入れ、ゴミ捨てをして、朝食の準備……朝はそのくらいかな」
召使い、忙しいな……
「朝食は和食でも洋食でもいいのか?」
「和食?」
「えっとごはんと鮭とか、お味噌汁」
「ああ白飯ね。ううんとね、一応私は1週間のカロリー計算と栄養考えて献立作ってるけど、マアニャ様の体調とか、機嫌とか見て変更したりする感じかな……見せるのは恥ずかしいけど、特別に」
クレアはベッドから立ち上がって、隣の引き出しからA4サイズのノートを持って俺のベッドにやってくる。
「これ、見ていいよ」
『献立&感想クレアのマル秘ノート』
とタイトルが書かれていて、なぜか手書きの可愛い猫がその下で欠伸していた。
ノートのページを捲ってみると、その日の献立と食べたマアニャの表情と感想が書かれていて、必ず可愛い動物イラストで、クレアの心の声が記されている。
目標に向かって、着実な努力が出来る子だな、クレアは。
「可愛いな、これ……そしてすごいぞ、クレア。絶対良妻になれる」
「そうかな……」
なんで俺を見て、赤くなる?
「ん? 奴はチーズケーキが好きなのか?」
デザートランキングと言う項目があり、チーズケーキが圧倒していた。
「うん……特にレアチーズが好みだよ」
「もう一人の感想がないけど、なぜ?」
「ミイニャさまは、邸で寝泊まりしてなくて、食事も一緒に取らないから」
「その理由を聞いても?」
「えっとね……ミイニャ様はすぐ近くでカフェを経営してるの。お2人の上に今は留守にしているお姉さまが1人いるんだけど、マアニャ様が……ごめんね、この先はあとで本人から聞いて」
「わかった……ごめん、眠くなってきた……」
「じゃあ少し早いけど寝ようか……」
「うん。また明日いっぱい話そうぜ」
今夜はぐっすりと寝むれそうだ。ここには襲ってくる獣も攻撃してくるお姉さんもいないのだから。
布団フカフカだぁ。そしてクレアが一緒の布団でないけど、すぐ傍に。
さようなら不幸スキル……待っていたぜ、幸運スキル!
「おやすみ」
クレアが優しく呟いて、部屋の明かりを落とした。
クレア、可愛すぎないか……声も見た目も中身も。
だが覚醒したとはいえ、安心できないユニークスキルだからなあ……
目を閉じるとクレアの口元を緩めた笑顔が浮かび、俺は幸せな気分でそのまま眠りについた。




