第1話「サテランドヒルのマリ家」
三段階段の中断に腰を下ろし、俺はクレアからの手紙にもう一度目を通す。
子供たちや店主さんたちは俺にお礼を言ったりしてくれた。カスラニクスは闇の騎士にもモンスターにも怯えることは無くなって平和になった。
晴れ晴れした気持ちで出発できるはずだったのに……
目の前の噴水をぼっ~と見つめる。
「クレア、どこに行ったんだよ?」
深夜か明け方か、クレアは俺たちの前から姿を消した。
俺たちがそれに気が付いたのはついさっき。マアニャもミイニャも俺も朝はクレアが起こしてくれると思い込んでいて、目覚めたのは8時。
トイレか買い物にでも出かけたんだろうと思っていたけど、置いてあった手紙を見て俺たち3人は困惑した。
「こっちはダメ。どこにもいないわ」
「むこうにもいません」
マアニャとミイニャは息を切らしながら戻ってきて報告してくれる。
「お店の中やホテルも捜してみたけどいなかった……」
「そう……荷物も無くなってるし、どこに行ったのかしら?」
まだ俺の背中で気持ちよさそうに寝ているベリ(マアニャの使い魔)が落ちない様に肩に手をかけなおして、
「わからない……」
と、答える。
何かあるなら図々しく頼めばよかっただろ!
俺は喜んで力を貸したのに。なんでマアニャとミイニャに迷惑になるんだよ?
せめて行き先だけでも記載しておいてくれれば……
「優斗君、捜しながら地図を買っておきました」
「ありがとう……」
俺はミイニャから地図を受け取る。
「もう街には居ないわ。外を探すにしても向かった場所がわからないとどうしようもないわよ。何時間か経ってると思うし」
「わかってる……」
考えろ。何かヒントはあるはずだ。クレアとこの2ヶ月ずっと一緒に居たんだから……馬鹿だけど、頭はこういう時に使うんだ。
このカスラニクスに来てから、クレアは何か元気がなかった。
それはなぜだ? ランク分けされて、俺たちは情報を求めてカフェへ。そこで闇騎士のこと、モンスター(べリグド)のことを聞いた……いや、もう一つ王族の娘たちが狙われていることも……
思いつめた顔をしてたな。誰か王族に知り合いでもいるんだろうか?
「あ~、俺、クレアのこと知ってるようで全然知らない。なあ、クレアはどういう経緯でミラ家のメイドやってたんだ?」
「えっ……突然、働きたいってやって来たのよ」
「アイルコットンの出身なのか?」
「違うと思うわ。見た目で良い子だってわかったし、即採用したあたしの眼に狂いはないわよ……そういえばどうやってアイルコットンに来たのかしら? 外は魔物がいるわけだし、優斗みたいに魔法で飛ばされてきたんなら納得だけど……」
妙なことを言うなあ……そんなわけが……
『クレアはお金持ってるから、紐になってもいいよ。それにお金で幸せは買えないもん』
クレアが発した言葉が蘇った。
あれ……?
「ミラ家のメイドのお給料はいくらだ?」
「何よ、突然?」
「いいから、いくらで雇っていた?」
「ちょっとした贅沢が出来るくらいよ。優斗に払っていた額より、ちょっと多いくらい。毎月ちょっとずつ増えていく仕組みだから」
(基本的に食費はかからないし、光熱費もミラ家に住み込んでいるから必要ない……けど、お金持ってるから紐になっていいって発言は変だ……いくら生活費がかからないとはいえ、一生養えるほどの貯えがあるわけないよな……普通なら)
「なんでしょう?」
目の前に居るミイニャみたいに温泉を掘り当てているわけでもないし。
「確信はない。でも、それなら辻褄は合う」
「なに1人でブツブツ言ってんのよ」
「マアニャ、お前ならわかるだろ。毎日食事してて、喋っていたのは俺とお前だけで、クレアはほとんど話に参加していなかった。それは小さいころからそういう習慣にあったってことを意味するんじゃないのか? 完璧なメイドでも大好きな俺と食事中に話をしないのはおかしいだろ。王族の娘が狙われていることへの反応、お金持ち発言、食事のマナー。結びつけられるとすれば……」
「つまりクレアは王族の出身?」
「可能性の話だけど……マアニャとミイニャ、二人ともクレアに関して知ってることはないか? 王族の娘同士なら集まりがあるとかないの?」
「私は前にも言いましたが、婚姻とか婚約が自分の意思に反することが我慢ならないので、小さいころからその手の集まりや顔合わせには参加していません」
「あたしも……パパとママがあんなことになってからは、その話を外でするのは嫌だから、あんまり……」
ミイニャとマアニャはそれぞれ答える。
「そっか……じゃあ、姉妹がいる王族はわかるか?」
「姉妹どうして?」
「王族の娘が狙われていると知って、クレアは思いつめていた。自分が王族出身で狙われる可能性があるんなら、俺と一緒の方が絶対安全だ。でも俺たちから距離を置いたのは、いるんじゃないかな、お姉さんか妹さんがクレアがいたであろうそこに」
「なるほど。なによ優斗、キレキレじゃない」
「さすがは優斗君、優れた頭脳もお持ちとは……」
褒めるのは後でいいんだぜ、お二人さん。
「で、どこかの王族に姉妹がいる話は?」
マアニャとミイニャは視線を合わせ、
「サテランドヒルのマリ家」
と、同時に言葉にする。
「よ~し、迎えに行くぜ。手紙でお別れとかいう展開を俺は認めない」
俺は左拳を右手に打ちつけて立ち上がる。
「ん?」
いつの間にか俺たちはカスラニクスの住人に囲まれていることに気づいた。




