第30話「愛されている」
指先に魔法を留めると言うのは簡単だし、やるのも簡単だと思ったが、1時間が経過しても1つの最弱魔法も留められなかった……
指がぷるぷる震えている。
「やっぱり魔法の才能はダメなんな。根っからの剣士なのん」
がっくりして俺は地面に尻もちをついた。
「すげえ疲れるぞ、これ……」
「優斗、本の中行くわよ。だいぶ強くなった気がするのよね。予習も完ぺきよ」
ポニテを止めて、ツーサイドアップに戻したマアニャは魔法使いの書を持ってやっくる。
やはり元々の髪型が一番好きなわけで、ポニテはたまにだからこそ抜群の破壊力を発揮するんだよな。
「なあマアニャ、指先に最弱魔法って集められる?」
「えっ、簡単に出来るわよ……ほら!」
右手の人差し指を赤く光らせる。
ファイラァ……
「いとも簡単に……なぜだ、1時間経っても俺は出来ないぞ」
「魔法に関しては、マアニャもミイニャも天才肌なん。小さいころからちゃんとわたしの言うこと聞いてたら今ごろは1、2の使い手なんよ。まあ今からでも十分成長できるん。それぞれに向き不向きがあるんよ。諦めないで努力してれば道は開かれるんな」
「はい……」
どうせ俺は剣だけですよ……
「優斗、大魔法は一長一短では身に着けられないけど、剣士の優斗に1つピッタリな技があるんよ」
「ソニアちゃん、もう時間オーバーよ」
「すぐ済むんよ」
ソニアちゃんは俺にその技を伝授してくれた。
どんな技かって? それはソニアちゃんが最初に言っている。
マアニャとミイニャ、二人の本の中訓練を終えた俺に安息の時はない。
クレアの剣術指導を行わないといけないからだ。双子姉妹はソニアちゃんにがみがみ言われながら、何やら指導されていた。
「優君、いいのほんとに?」
昨日買った女の子でも扱える細剣をクレアは構える。
「うん。やっつけるつもりで全力でね」
俺は川の傍に落ちていた木の棒を拾う。
「動きを読んで、流れを読んで躊躇せずに急所を狙って」
「わかった。行くよ」
すぐに距離を詰め、クレアは振り下ろしてくる。
それを交わすと同時に返しが。気の棒で受け止めいなす。
(武術を教わったせいか、体の使い方が良くなってる。まさに模範の生徒だな)
モーションもスムーズで剣速も現時点では申し分ない。これは大器かもしれないな。
「いいね。アイルコットンの騎士団見習いレベルまでは来てるな」
「ほんと! もっと素早くスムーズに」
クレアは剣速をさらに上げてくる。
気持ちのいい剣を振る音が耳に届いた。
「優君、武術も織り交ぜていいかな?」
「いいけど……」
剣を振りながらの格闘術は簡単ではなく、難しい……そんな簡単にできるわけが……
素早い振り下ろしを交わしたら、ほぼ同時に左の回し蹴りが向かってきていた。
「うそっ!」
体を屈めて避け、クレアに接近し胸を突く。
「あんっ!」
何とも色っぽい声を発し、剣を落とした。
「もう優君のエッチ……」
「油断しちゃダメだぜ。相手がスケベな男なら、こんなんじゃすまないかも」
「ミナザブレス!」
俺の行為が気に入らなかったのだろう、ミイニャはあろうことかこちらに躊躇なく攻撃呪文を放ってきた。
「アホかァ!」
迫っている。距離が短い。クレアを抱えて攻撃射程範囲を出るのは無可能。
素早く2本の剣を抜き、氷と風らしきその魔法をぶった斬る。
「つめてえ、寒い……何て威力の魔法だ」
剣を握る手がかじかんでいた。凍りそうだ。
「クレア、平気か?」
俺の真後ろにいたクレアを確認。
「うん……びっくりしたけど大丈夫。ありがとう」
俺が斬ったその魔法は、俺とクレアがいる場所を避け、左右はひんやり凍っていた。川の水面も……
「手が滑りました」
全く悪びれる様子もなく、ミイニャは一言。
「滑りましたじゃねえ、ちゃんと唱えてただろ。こっち向けて。威力を自覚しろ。俺だってあんなのまともに食らいでもしたら戦闘不能かもしれない」
「ご冗談を。まだまだ余裕でしょうに。おっぱいを突くとか、変態ですか!」
「いやあ、予想以上に剣術と武術が融合していて、エロ攻撃で止めようか剣を抜くしかないかなって」
「抜けばいいじゃないですか! 訓練なんですから」
「万が一怪我でもさせたら、俺は自分を一生呪うぜ」
「……女の子に対して、優しすぎるのと羊羹みたいに甘すぎです。優斗君は、私一人を愛してくれればいいんです」
「ダメよ。優斗はあたしを愛しているんだから!」
話に入ってこなくていいのに。またややこしく……
「お姉ちゃん……」
「お二人にはお気の毒ですが、クレアのことを一番大事に想ってくれていると思います」
はあ、意地の張り合いみたいだな。
「優斗は愛されてるんな」
と、ソニアちゃん。
ハーレムスキルですから。自ら攻略できたことも理由だろうけど、やっぱりその影響はあるんだと思う。この時点で俺はスキル【ハーレム】の発動条件をなんとなく理解してきていたんだ。




