第9話「今が大チャンスです」
「……」
ミイニャにとっては軽いキスだったかもしれないけど、俺の鼓動はそれによりドックン、ドックン状態になってしまった。
「どうでしょう? まだ切り替えられないのでしたら、次は……」
「切り替わった、切り替わりました、ミイニャのことだけを考えます」
俺は少し慌てて、ミイニャの言葉を早口に打ち消す。
「当たり前です。優斗君はミイニャの召使いなんですから」
ミイニャはさらに体を触れさせてきて……柔らかいバストが微妙に当たっているんだけど……
「私、紅茶が好きになりました。優斗君に頂いた大きい熊さんぬいぐるみは宝物です。昨夜も、いえ限定でなくて、優斗君といると毎日が楽しいです」
「そう言ってもらえると俺も嬉しい……最初は嫌われているのが、目に見えてわかったからな、こんなに心を許してくれるとは思わなかったよ」
「最大の汚点です。先入観で判断していたので……」
「が、しかしだ、これ以上仲良くするとだな、ミイニャ目当てでの来店客が減少する。現に男性客が少なくなってきてるし。俺のせいでこの店の土台が壊れるのはまずいよ。せっかくお客さん増えたのに……」
「私はお店の利益より、優斗君との幸せを躊躇なく取ります。お金に困っていませんし。二人でどこへでもランデブーです」
「それはどうもありがとうだぜ」
「それから優斗君、お姉ちゃんと喧嘩みたいになっているんなら、謝ってスッキリしないとダメです」
「せっかくミイニャのことで頭の中を占領していたのに……なぜ自ら話題にするんだ?」
「悩んでいる優斗君はカッコよさが半減しちゃってるんです。それでも十分すぎるほどの魅力ですけど……お姉ちゃんめぇ、私の優斗君に呪いをかけてしまうとは……むむむって感じで、面白くないです。だから優斗君、私の為に一刻も早く元通りにしてください」
「そんなこと言われても……あれだけ嫌な奴全開な態度取ってしまったからな……」
「時間が経つとどんどん謝れなくなってしまうんじゃないですか。私が背中を押してあげる今が大チャンスです」
ドアが開き、ベルが店内に響く。
「いらっしゃいませ!」
お喋りを辞めて、即座にお仕事をモードになる俺とミイニャ。
入ってきたのはクレアで、その服装はまだメイド服だった。
「クレア……まだ仕事中じゃないのか? 珍しいな」
「うん……」
クレアは店内に人がいないことに安どしている感じがした。
「ちょうどいいじゃないですか……クレアにサポートしてもらえばやりやすいです」
ミイニャが俺に横から小声でアドバイスを。
まあ、いつまでも悩んでいるのは嫌だからな。
「さっきは悪かったな。あのツンツン女にぎゃふんと言わされて、おまけに奈落の底に落とされたんで、つい嫌な態度になってしまって、就業時間より早めに切り上げてしまった……」
「……」
「悪いことは悪いと謝らなきゃダメだよな……後で、マアニャを呼び出してくれないか?」
「大丈夫だと思うよ……」
「何が?」
「その呼び出さなくて……だって、今一緒に来てるから」
またドアが開き、変わらないその美貌を身にまとい、赤髪ツーサイドアップのつんつんマアニャが入って来たのだった。