#9.2 正義の味方
あれからね、朝から晩まで、うんにゃ、夜遅くまで働いたよ。少しでも怠けると直ぐに叱られるんだ。ご飯もね、チョットしかくれないんだよ。だからね僕、何時もお腹を空かせていたんだ。お風呂もね、7日に1回でいいんだって。僕もね、そう思うんだ。でね、寝る前にお星様を見るとね、とっても綺麗なんだ。僕が居た家よりも、うう、家って何だっけ。
だけどね、夢で見るんだ。僕は何処かに帰るって。とっても幸せな所なんだ。そうして皆んなが『お帰り』って言ってくれるんだよ。何だがすっごく懐かしい気分になるんだよ。行ってみたいな、そんな所。きっと僕を待っていてくれているんだよ。
(おい! 起きろ、マオ。朝だぞ)
「う〜ん、誰?」
(俺だ、マオだ)
「マオ? 誰?」
(何だと! お前、自分の名前も忘れたのか)
「そうだっけ〜」
(ナンテコッタイ、この俺が此処まで馬鹿になるとは、情けない)
「君は誰?」
(俺はお前だ、マオだ。正気に戻れ)
「俺はお前だって? 僕は此処にいるよ」
(俺は本当のお前だ、分からないのか)
「分かんないよ〜」
(まあいい、起きて飯を食え)
まだ夢を見ているのかな。とにかくお腹も空いたし、ご飯を食べに行こうかな。うんしょっと。着替えて顔を洗って、うん、バッチリ。これで恥ずかしくないぞ。朝は皆んなで食堂で食べるんだ。
食堂までトコトコ歩くと、ああ、もう先にアッ君が来てるよ。どっこいしょ。隣に座ったよ。今日もご飯、少ないな〜。あれ、シロちゃんが居ない。
「シロちゃんはどこ〜」
「あいつか、あいつかはちゃっかり向こうで食べさせて貰っている」
(おい、飯が少ないんだろう。なら隣の奴のを食ってしまえ)
「ええ〜」
「奴め、入居者と見分けがつかんからな、ああして紛れて食っとるだ」
(今だ、奴がよそ見をしている内に食ってしまえ)
ガシャポン、キーキキ、ウエぇ、ペロリンコ、プッ。
「おい! マオ、なに人のもん食ってやがんだ」
「食ったもん勝ちだろうが」
「なっ! マオ、お前」
「な〜に、アッ君」
思いっきりアッ君に頭を殴られたよ、痛いよ〜。でもお腹一杯になったー。食べたら直ぐ掃除の仕事だー。モップを持って、よいしょよいしょ、ピカピカにな〜れ。
(おい! そんなもんは水でもぶっかければいいんだよ)
「ええ〜」
床が水でビショビショだー。
「おい、マオ。何をしてやがんだ。仕事を増やしやがって」
「適当でいいんだよ」
「なっ! マオ、お前」
「な〜に、アッ君」
思いっきりアッ君に頭を殴られたよ、痛いよ〜。でも直ぐに終わったよー。次は洗濯だよ。洗うのは機械がやってくれるこど、干すのが面倒なんだよね。よいしょよいしょ、もうクタクタだよ〜。
(おい! そんなものは魔法でやれるだろうが)
「魔法? 僕、そんなの出来ないよ」
(お前なら出来るんだよ、ほれ、やったれ)
「ええ〜、じゃ、えい!」
(ほら、やれば出来るじゃないか)
「えへん」
「おい、マオ。何をしてやがんだ。洗濯物を投げる奴がいるかよ」
「乾けばいいんだよ」
「なっ! マオ、お前」
「な〜に、アッ君」
思いっきりアッ君に頭を殴られたよ、痛いよ〜。でもアッ君が手伝ってくれたよー。こんな感じで1日が終わったよ。寝る前に星を見るんだ。
(おい、お前は世界一強い男なんだぞ)
「世界一? それは凄いや」
(覚えておけ、お前の力はこんなもんじゃないんだ。その気になれば世界征服だって出来るんだぞ)
「世界征服? どっかで聞いたような」
(忘れるなよ、お前はマオ、魔王なんだ)
「魔王? うん、覚えておくよ」
(俺はお前で、お前は俺だ。魔王だ、忘れるな)
何処かで誰かの声が聞こえたよ。そのまま寝ちゃったら夢を見たよ。とっても面白い夢だったんだ。
狭い部屋に閉じ込められた僕が大きな声を出しているんだ。
「出せやー、俺を誰だと思ってやがんだよー」
どんなに大声を出しても部屋から出してくれないんだ。暗くて狭くて怖かったよ。壁のあちこちに張り紙が貼ってあったんだ。『魔王退散』だったかな。それに触れると力が抜けていくんだ、ヘナヘナってね。だけどそれを破ったら元気が出てきたんだ。
「うりゃー」
部屋のドアが吹き飛んだよ。これで僕は自由になったんだ。
「おい! 待て」
怖い顔したおじさんが僕を掴むんだ。痛かったから、そのおじさんに言ったんだ。
「離せやコラー、俺は社長だぞ」
おじさんは吹き飛んで行ったよ。そうしたら人が一杯来たんだ。
「囚人が逃げたぞー、取り押さえろ、誰か新社長に連絡しろー」
「囚人? 新社長? そういうことかよー」
周りの人達が僕に襲いかかってきたから皆んな吹き飛ばしたよ。新社長って聞いて怒りがマックスになったみたい。とにかく行かなきゃって、どっかに行ったんだ。
大きな扉があって、そこでも僕を苛める人がいてね、だから扉ごと吹き飛ばしたんだ。そうして中に入るとね、ジジババが大勢居たんだ。皆んな僕の顔を見て驚いていたよ、何だか恥ずかしいな。
僕は中をどんどん進んでいくんだ。そうしたらね、何時も僕が座っていた椅子に知らないおばちゃんが座ってるんだ。そこ、僕の椅子だからって言ったら、いきなり怒鳴ってくるんだ、怖かったよー。
急に体が動かなくなってさ、皆んなで僕を苛めるんだ。凄い風が僕を吹き飛ばそうとするから我慢したよ、だけど倒れちゃったんだ。
「怪獣さん、あなたにそのような力は不要ですので取り上げます。えい!」
おばちゃんが僕のものを取るって。それに怪獣って何? だったら僕もって、ガオーて吠えてみたんだ。そうしたらね、僕に吹いていた風が止んで、おばちゃんを吹き飛ばしたんだ、やったね。
僕は自分の椅子に座ったんだ。だって僕の椅子だからね、当然なんだ。
「おい! お前ら。なにしてくれてんだよー。分かってる? 分かんないならさー、教えてやるべ、ほりゃ」
皆んながさ、僕に頭を下げるんだよ。でもね、何時ものことだから、何時もこうだから全然平気だったよ。僕は悪い魔女に勝って世界を救ったんだよ。閉じ込められていた僕の僕も助けて世界に平和が訪れたんだ。悪い魔女が4人もいたから罰として牢屋に入れたんだ。それに協力したアホどもも全部捕まえてゴミのように捨てたよ。
こうして僕は世界を取り戻して幸せに暮らしたんだ。もう笑いが止まらなくて涙まで出てきたんだ。本当のことだよ。だって目が覚めたら、僕、涙が止まらなかったんだ。楽しい夢を見たんだ。それを忘れないように、夢が現実になるようにって祈ったよ。
僕は魔王、この世界を守る、正義の味方なんだ。
 




