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じーさんず & We are  作者: Tro
#9 置いて行かれたで章
38/45

#9.1 ポキポキのポキーン

 むかしむかし、あるところに、誰からも尊敬されるお兄さんがいました。そのお兄さんは世のため人のためと働きましたが、そこに悪い魔王が現れました。魔王は意地が悪く性格もダメダメでおまけにブスだったので、イケメンのお兄さんに嫉妬してしまいました。そして魔王はお兄さんからあらゆるものを奪い、遠い島に追いやってしまったのです。それでもお兄さんは2匹の獣を従えて気丈に振る舞い頑張りましたが、その努力は報われず、何時しか全てを諦めてしまうようになりました。

 そうです、お兄さんは魔王にケチョンケチョンに負けてしまったのです。そのお兄さんこそ、僕のことなのです。毎晩、枕を涙で濡らしています。



 あの日、あの時のことを僕は忘れません。


「さあ、帰りましょう」

「ねえ、俺は? 俺は?」

「え?」


 やっと家に帰れると思った矢先、冷たい一言が僕を人生のどん底に突き落としたのです。酷いことをした魔王が改心し詫びを入れに来たと思っていたのに。僕は優し過ぎたのです。


「マオ、死んで詫びろ」

「そうじゃ、それで許す」


 どんなことでも許してあげよう、罪を憎んで人は憎まず、そう僕は思っていました。それをそれを、ただ嘲笑うためだけに目の前に現れたのです。そして僕を南の島に置き去りにしていきました。何故、Why、そんな恐ろしい残酷な真似ができるのでしょうか。ああ、そういえば魔王でしたね。その名前の通り悪魔で悪党でアンポンタンでした。


「どうするんじゃ、マオ!」

「お前に付き合ったのが馬鹿だった」


 僕はお人好しで馬鹿でした。ほんの少しでも信じた自分が許せません。魔王に人の心は通じないのです。でもそれは知っていました。それでも信じたのです。正しくは信じたかったのです。どんなに心の中が悪意で満ちていようとも、その奥底には必ず真心があると。それは決して失われることのない真実です。


「マオ、今からでも追いかけて詫びるのじゃ」

「アホか、お前は。責任を取れ」


 全てを失いました、家も財産も希望も。決して挫けることのなかった心が折れてしまったのです。どんな接着剤でも治すことが出来ない程、鮮やかに、見事に折れたのです、ポキポキのポキーンです。


「ちょっと、そこの方」


 何だか変な人が近づいてきました。デブハゲのインチキ臭い男が小さなバイクに乗っています。今にもタイヤがパンクしそうですが、通りすがりの異常者でしょう。


「誰だ、お前は」


 アッ君が突っ掛かって行きます。礼儀を知らない獣ですから襲われないように気をつけてください、デブハゲのインチキ臭い男さん。


「私はこの近くで施設を任されている者だが、何か困り事なら力になろうか」

「困ってはいないが、いずれ、いや直ぐに困ることになるだろう」

「それなら、私の所に寄って行くといい、食べ物位は出せると思うが」

「何じゃと」


 食物と聞いてシロちゃんが直ぐに首を突っ込んできました。哀れなジジイです。


「ジジイは黙っていろ。そこは何処にあるんだ」

「この道を10Km程行った先だ」

「10Kmが直ぐ近くなのか、遠いな」

「車で、というやつさ。来るなら誰かを迎えに寄越そうか」

「そうか。おいマオ、どうするよ」

「ういぃ」

「こりゃダメだ。そこに行くから頼むよ」

「分かった、じゃあ直ぐに呼ぶから。親切は繋げないとね」

「な?」

「そう聞いてきたからね」


 どうしたことでしょう、思うように言葉が声になって出てきません。さっきまであった、強くて頼りになる温かいものが僕の中ら消えてしまったのです。幸せで満ち足りた日々が思い出せません。手も足にも力が入らず、何かを考えようとすると、それが酷く億劫に感じます。僕は、僕はどうしてしまったのでしょうか。



 オンボロ車で連れて行かれたのは老人ホームでした。建物はこじんまりとして僕の家とは比べものに……僕の家ってどこだっけ。

 そこでお粗末な飯が出てきました。それに口を付けたら……まっずーの一言です。でも体が勝手に動いてしまいます。


 ガシャポン、キーキキ、ウエぇ、ペロリンコ、ブブー。


 なんとかお腹だけは満たすことが出来ました。そこにさっきのデブハゲインチキ臭い男が近寄ってきました。


「私はここで施設長をやっているのだが、どうだろう、行く当てが無いなら暫くウチで働いてみてはどうかな」

「そうだな、何をするのだ」


 アッ君が適当に受け応えをしています。相変わらず勝手な奴です。今度、どっかに捨ててこようかと思います。


「ここは老人ホームだからね、掃除とか介護の手伝いとかだよ」

「まあ、俺達も当てが外れてどうしたものかと思っていたところだ。少しの間なら良いだろう」

「じゃあ決まりだな。早速、仕事に掛かって貰おうか」

「今すぐか」

「勿論、寝る子は起こすなと言うだろう」

「なんだそれは」

「それとも今食べた物の代金を支払うかい? 600万ちょっとだけど」

「なぬー、そんなの聞いてないぞ」

「あはは、ほら、これに署名してあるけど?」

「誰だ、そんなもんにサインした奴は。シロちゃんか」

「わしは何もしとらんぞ」

「なら、マオか」

「ういぃ」

「なんてアホーになったんだ」


 そういえば何かに名前を書いたような、何だっけ、僕はだい、だい、大好き?


◇◇

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