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じーさんず & We are  作者: Tro
#8 出張はバカンスで章
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#8.3 スパイと荷物

 可愛い魔王の私です。お仕置きのために出張に行かせた栄子の報告は如何でしたでしょうか。出張がいつの間にかバカンスになってますね、何ということでしょうか。しかしこれ以上のお仕置きはありません。もう、これで勘弁してあげましょう。

 ところでマオですが、凄い変わりようです。南の島に置いて行かれたのが、そんなにショックだとは思いませんでした。ですがアッ君達は元気そうなので問題ないですね。

 一方、次郎君ですが帰国せず、何処へやら行ってしまったようです。恐らく帰国を栄子と合わせるためなのでしょうが、それにしては政府の事情に詳しそうに感じました。それはシロちゃんが発明したとされるものと、政府が新開発した兵器との関連を知っていそうだからです。それをピンポイントでシロちゃんから聞き出そうとしていました。そうでなければシロちゃんのことです、自分の発明も思い出すことなく適当に返答していたことでしょう。

 疑いたくはありませんが次郎の行動を見てみましょう。細かい事は言いません。出来れば街で遊んでいて欲しいものです。


 嫌な予感が的中してしまいました。船で戻ってくるはずが飛行機で戻って来た次郎です。空港で降りたつと、真っ直ぐ政府の研究機関が入る建物に入って行きました。その入口を難なく通過し奥へと進みます。その先の通路を回り込むように進んでエレベーターに乗り込み、そこから上へ、降りた通路を更に進んで部屋に入ります。その中に待ち受ける大勢の白衣姿の人達がいます。部屋の中は暗くて良く見えませんが、そこを迷いなく進んで4人の男性の所で立ち止まりました。そう、その4人は元副社長の面々です。その中の一人に次郎が声をかけます。


「情報を手に入れました」

「そうか。では早速披露して貰おうか」

「その前に約束の件ですが確か、なのですよね」

「勿論だ」

「では、その確証を頂けないでしょうか」

「はあ、君、何を言っているんだ」

「まあまあ」


 別の元副社長が会話に加わりました。そして胸ポケットから一枚の紙を取り出しています。それは、え! えぇぇぇぇ、婚姻証明書です。あれ、まだ次郎は独身のはずですが、まあ、いいでしょう、プライベートな事ですから。その用紙を見て目を輝かせる次郎です。


「それは!」

「あとは首長が署名するだけになっている。これで確証になるだろう」

「分かりました。ではお教えします」


 白衣姿の男達が集まり次郎の話を聞いています。私には何の事やらさっぱりですが、それを聞いて大きく頷く方々です。話終わった次郎がまた元副社長の側に寄ります。


「約束は果たしました。例のモノをください」

「おいおい、あれはまだ署名が無いものだ。それに君が言った事が本当かどうか検証してからだ」

「約束が違うじゃないですか」

「慌てるな。後日、署名が入ったものを渡す。そうでなかれば意味が無いだろう。こちらからの連絡を待て」

「……分かりました」

「安心しろ、確認でき次第、君に渡そう」

「お願いします」


 複雑な趣で、その場を後にする次郎です。まさか次郎がスパイだなんて思いもよりませんでした。多分、どうしてもそうしたい理由があるのでしょう。ですがこれはお国の一大事。早速、円卓会議です。


「次郎を捕えて尋問しましょうか」

「それは得策ではありません。こちらがその情報を得たことを相手に教えることになりますから。ここは少し泳がせて様子を見るのが良いかと」


 春子の提案に否の冬子です。ですが何か手を打っておきたいところです。良い考えが浮かぶと良いのですが、これが中々出てきません。悩める私達です。


「ではこうしましょう」


 夏子が何か思いついたようです。そういう時は必ず左の眉がピクッとするので分かるのです。


「その発明が何であるか、魔王の話を聞いても私達には分かりません。そこでその発明者であるシロちゃんを呼び出しましょう。そうすれば謎も一気に解決です」

「では栄子に連れて来て貰いましょう」


 やっと私の発言です。こう見えてもしっかりと考えているのですよ。


「あの子の放蕩がこんな形で役に立つなんて皮肉なものね」


 春子が少し自虐的に言っています。大丈夫、誰も貴女のせいだなんて思っていませんから。


「それにしても、その老人ホーム、何か変よね。都合というかタイミングが良すぎないかしら」


 夏子の疑問に冬子が答えます。冬子は情報収集に長け、特に政府関連には目を光らせているのです。


「その老人ホーム、政府直轄らしいです。体の良い拘束とでも言いましょうか。上手い具合にジジイ連中を取り込んだものです」

「抜け目がないわね。では早速、栄子に指示しましょう」


 ということで、南の島のビーチで寛ぐ栄子の報告が続きます。



 サンサンの日差しにそよぐ風。優雅にバカンスを楽しむ私、栄子です。都会の喧騒から離れ、暫し戦士の休息です。たまには仕事から離れて頭と体を休め、次の戦いへの準備をします。のし上がって出世してお金持ちになって、それから……何でしょう。まあ、その時になってから考えましょう。


 ビーチパラソルに白いテーブル。リラックスチェアに身を委ね、ドリンク片手に遠浅の海を眺めていると、ピーヒャラと携帯が。

 あれ〜、何で携帯が鳴るのかな〜、電源切ってるのに〜、誰かにゃ〜、ゲロ!


「栄子さん? 夏子です」


 マジでマジで! 夏子副社長だす、おっかねー人だす、オロホロ。


「へい、わらしですべが」

「良かったわ、なかなか繋がらなくて。帰りに教授、シロちゃんを連れ帰ってくれないかしら」

「へい、かしこまり、わかっぺたですよね、はい」

「ところで」

「ホイ」

「今は何をしているのかしら」

「へい、じろたと報告のまとめっちゃくちゃとろべしてるものだべです」

「分かりました。戻りましたら読ませて貰うわ。では宜しくお願い致します」

「へいほ」


 びっくらこきました。鳴らないはずの携帯が鳴って、おっかねー人から電話が来るなんて。こうしてはいらねーだよ、急いで仕事をせねば。

 こうしてまた老人ホームにぶっ飛んで行く私です。



 老人ホームに着くと入口近くでモップを持ったシロちゃんを発見しました。これを持ち帰るのが私の仕事。でもシロちゃん、立ったまま動きません、生きているのでしょうか。この際、どっちでも良いので問題ありません。


「シロちゃん、行くよ、私と来て」

「ホテルか? まあ、許そう」

「ちょっと待てやー、こらー」


 アッ君が飛んできました。一体、何処に居てどんな耳をしているのやら。


「こいつだけ連れて行くとな、何で何で、俺は、俺はどうよ、どうなのよ」


 ああ、アッ君、うっさい。


「いいですか、副社長が教授だけ連れて来いって。だからアッ君はいらないんです」

「いらない、だとー、何でよ何で何でよー。俺、役に立つよこれなんかより、なあ、あんたからも頼んでくれよ、なあ、頼むよ、あんたからさー、前に助けてやったろう、なあ、なあってばよ、言うこと聞かないと、あれだぞー、あれだー、こいつをぶった切るからなー、いいのかー、いいのかよ、俺の方がいいいって、なあー」

「知りませんよー、そんなこと。だったら直接、会社に言ってくださいよー」

「それが出来れば苦労はせんぞ、なあ、なあ、なあ、なあ〜」


 このしつこさ、粘着、ベタベタ、ベトベト、臭い匂い、ああもう、あっちに行って。困った、困ったよーって時にまた携帯が、誰だよ〜、こんな時にさー、ゲロ!


「栄子さん? 春子です」

「へいほ」

「お困りのようですね」

「そ、そないだすねんと」

「なら、アッ君も一緒に連れて来なさいな」

「ほいさ」

「では、アッ君に電話を代わって貰えるかしら。私から言い聞かせるから」

「おねげいしっす」


 何で困ってんの知ってるのよん。もしかしてどっかで見てる? バレてる? ええ! 全部? 取り敢えずアッ君に携帯をぶん投げました。


「誰じゃ、春子? 知らんな、え! え! はい! はい、それはもう、任せてください、では」


 電話を切ったアッ君が私に携帯を拭きながら返してくれました。なにやら小汚い布で。そして私の顔をじろじろと見えています。


「話は聞いた。あいつをふん縛って、行くぞ」

「はい」


 そう言い終わるとアッ君がシロちゃんの持っていたモップをぶん投げて、まるで罪人のようにシロちゃんを引き回しています。まあ、アッ君は多少言葉は通じる分マシでしょう。これで荷物が二つになりました。さっさと帰りましょう。


「マオの奴はどうすんじゃ」

「あいつのことは放っておけ。それよりもさっさと歩け」


 二人が噂するからマオまで来ちゃいましたよ。この人までは無理です。マオに気づいたシロちゃんが何か言いたげです。


「おいマオ、わしらはお主の国に行くが、お前はどうする?」


 ああ、シロちゃん、余計なことを聞かないでよー。二人でさえ厄介なお荷物なのにー。


「俺は、俺は、いい。何処にも、行かない」

「だってよ。こんな腑抜けは置いといて、さっさと行くぞ、嬢ちゃん」


 ヨボヨボのマオを置いて、私は老人ホームを後にしました。何でしょう、希望も夢も、何もかも無くした感の、マオの虚ろな目がイヤラシイです。


 こうして荷物の増えた私は帰国の途につきました。でも、ここに次郎が居ないことも、私がほんのちょっぴり遊んでたのもバレているかもしれません。そうだったらどうしよう、良い言い訳が思いつきません。あ、そうだ、次郎に考えてもらいましょう。だって同罪ですから。次郎ならきっと良い言い訳を考えてくれるはず、だよね。

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