#8.2 井戸端会議
空き部屋に通された私達です。中央に大きなテーブルがデーンとあります。そこで私と次郎、向かいに何故かアッ君さんが居てシロちゃん共々椅子に座ります。あれ、その隣に見知らぬお爺さんが居ます。それも相当小汚いジジイです。きっとボケて部屋に入って来てしまったようです。困った爺さんです。ああー、ヨダレが垂れてるー。
「あの〜、お爺さん。部屋、間違えてませんか」
私の問いかけにピクリとも反応しません、相当いっちゃってるみたいです。
「こやつはマオだ、気にすることはない」
マオ? シロちゃんの説明にイマイチ信じられない私です。よく知らない私でもマオはここまで老けていはいませんでした。まるで別人です。ただのゴミのようです。
「何時だ! 何時戻るんだ」
アッ君さんの、何言ってるのか分かんない発言を次郎が手の平を向けて静止しました。ああ、後は次郎に任せるわ。でも、それってパーでしょう。アッ君さんに、それはないんじゃ、ああ、パーで正解だわ、続けて次郎。
「今日は白金先生にお聞きしたいことがあって参りました」
「誰だ、白金先生ってのは」
またしても次郎がパーでパーを、アッ君を黙らせます。そう、少し大人しくしててください。それも永遠に。
「何が聞きたいんじゃ我が弟子よ。あれか、お主、モテたいのか、ワシのように」
「いえ、それは間に合っていますので。実は先生が以前、発明したという研究成果についてお聞きしたくて参りました」
何が『間に合っています』なのよ。私、知ってるよ〜、次郎がマダムキラーって呼ばれてんの。やだね〜、この男は〜。
「わしの功績は沢山あるがのう、どれのことだ」
「何でも魔王を凌ぐ力と聞いているのですが」
「魔王だと。ほれこの通り、わしは魔王よりも強いぞ、あれもじゃが」
シロちゃんがポンポンと、以前マオと呼ばれた者の頭を叩いています。あんまり叩くと、アレしちゃうんじゃないかな。
「そうではなくて、発明されたものです。それとも……いえ、分かりました。どうやら勘違いのようです。他の方を当たってみます」
「待て待て、まだ何も言っておらんじゃろうが。あれじゃろう、タイム……」
「マシーンですか」
「いや、ドカーンじゃ」
「それは時限爆弾のことでは」
あれ、アッ君が腕組みしながら寝ちゃったよ、それも凄いイビキ。うっさいから、どっかに行ってくれないかな〜。
「冗談じゃ。そうじゃの〜、あれかの〜」
「先生、床に魔法陣を書いたやつですよ」
「何じゃと!」
もう、シロちゃんが立ったじゃないの。どっかに行くの? 早く済まして帰ろうよ〜。
「思い出しましたか、あれです」
「あれはいかん! 絶対にいかん!」
「その原理が知りたいんです、お願いします」
「ダメだダメだ。それに、何故お主がそのことを知っているのじゃ」
「それは……」
「さてはお主、政府のスパイだな。わししか知らないことを」
「先生、それ、講義でやりましたよ」
「おお! そうか。もうバレておるのか」
ああ、なんか私も思い出した〜。教室の床に魔法陣を描いたもんだから、用務員さんにシロちゃんがこっぴどく怒られたんだ。
「あの魔法陣は何の役にも立たん」
「え! そうなんですか」
「何だ、お主もか、騙されおって。じゃがな、あの方が雰囲気が出てよかろう、それらしくて」
「それは、まあ」
「子ども騙しにはもってこいじゃ、あはー」
あはー、じゃないよ、シロちゃん。忘れたんならそれでいいからー。
「例の実験、4人で構えるんですよね。講義の時もそうでしたが、あともう少しというところで上手くいかないのです。先生はあれをどうやって証明したんですか」
「4人? ああ、うん。それはじゃな〜、この先は有料じゃ」
「それは……」
「なんじゃ、そんな裁量も持っておらんのか。情けないの〜」
「ケチ臭いことを。その位教えてやれば良いじゃないか、シロちゃんよー」
いきなりアッ君が起きてきました。さあ、もっと言ってあげて。そしてシロちゃんをギャフンと言わすのよー。
「お前は黙っとれ。ならわしを雇え。そうしたら教えてやらんでもない」
「なんだと! おい、シロちゃん、自分だけズルイぞ、おい、こら」
「能無しのお前はここで一生暮すが良いのじゃ」
「言わせておけばこのジジイ、誰のおかけで飯が食えていると思ってやがんだ」
「飯、まだかな〜」
あちゃー、マオまで参戦してきたよー。ジジイが揉めると拗れるから嫌なんだよー。
「まだじゃ。それよりもマオ、お前の仕事は終わったのか」
「終わったよ〜、多分」
「なら、そこで大人しゅうしとれ」
前は3人のリーダーみたいだったけれど、何これ、ここまでダメダメになっちゃうもんなの〜。
「先生、今教えてくれたら魔王様に相談できますが、そうでなければ、ですね」
あれ〜、次郎ってこんなに人の足元を見る奴だったっけ。そうやってマダムを手にかけてるんだ、そうなんだ〜。
「う〜む、仕方ないの〜。じゃが約束だぞ」
「はい、約束しますよ」
「ならば、これこれじゃ」
シロちゃんが次郎の耳元で囁いています。女の人以外で、こんなに近づいているところを見たのは始めてのような気がします。それだけ真剣なんですね、今更ですけど。
「成る程、そうでしたか、分かりました」
「約束だぞ」
「おい待て、俺もセットにしろ」
ああ、またアッ君が割り込んできました。折角、もう終わりだと思ったのにー。もう、黙らっしゃい。
「いいですよ、アッ君さん」
今度は静止しない次郎。多分、適当に返事をしているだけかと思いますよ、きっと。
「ちょい待て。こ奴が何の役に立つというんじゃ。一緒にするでない」
「まあまあ、序でですから」
「俺は序でなのかよ」
「なら、黙っていましょうか」
「いやダメだ。俺も入れろ」
「分かりました、ではそのように」
「おい、お前はまだわしに縋るつもりなのか」
「縋るだとー、このジジイが」
なんじゃこりゃ。終わんないよー。えい! 逃げたれ。
「お世話になりました〜、あとはごゆっくりー」
こうして私は次郎を引っ張り、ジジイ達を置いて部屋を出ました。もう、本当に厄介な人達でした。
◇
老人ホームを出た私達。ここで次郎とはお別れです、お疲れ様でした。私はこれから南の島を満喫していきます。別れた次郎は一足先に戻りますが、三日後に会社で落ち合うことになっています。それならバレることはないでしょう。良いバカンスを。
◇
 




