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じーさんず & We are  作者: Tro
#6 私はこうして魔王になったで章 え編
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#6C.4 アホーに喝采を

 翌日、自宅謹慎となった私は仕事もお休みですので、ゆっくりとした朝を迎えていました。もう朝の9時位でしょうか。大きく背筋を伸ばして、今日をどのように過ごすか考えていた時です。誰かが部屋のドアをノックしてきました。出てみると、例の班長が深々と頭を下げています。お久しぶりですね。何やら身支度をして付いて来いとおっしゃっています。暇ですからお付き合い致しましょう。服を着て何時ものように手ぐしで頭を整えます。


 班長に付いてエレベーターの前に来ました。この時間でも場合によっては乗れないことがあることを寝坊した時に確認しました。寝坊するのは私だけではありませんから。エレベーターの扉が開きました。まあ、誰も乗っていません、初めての経験です。エレベーターで5階に行き、そこから労働棟に向かいました。そこから更にエレベーターで……上の階に行くようです。班長とはここでお別れしました。別の方が私を案内してエレベーターに乗り込みます。何処に行くのかと尋ねましたが、答えてはくれませんでした。エレベーターの扉が開きます。ここは、そう、最上階です。初めて来ました。


 重厚な扉が開かれました。中には大勢の人、人です。その殆どが男性、それもお年を召された方々のようです。要はおじいちゃん・おばあちゃんですね。ここで初めて男性の方に案内され一番奥まで連れてこられました。そこは周囲が見渡せるように一段高くなっています。そして豪華な背の高い椅子がありました。どうやらそこに座れということらしいです。何でしょう、私を見世物にでもしよう、ということでしょうか。ええ、何でもいいですよ、はい、座ります。


 私が椅子に座ると周囲の人達が一斉に立ち上がりました。えっ、私も立った方が良いのでしょうか。すると座ったままで良いと、先程私を案内した男性から合図を頂きました。いよいよ私は競りにでも掛けられるのでしょうか。高いですよ、私は。有能で、やれば出来る子ですから。


「みなさん、こちらが新しく社長になられた方です。頭を下げなさい」


 先程の男性が大きな声で発すると全員が深々と頭を下げておられます。その先にいるのは私です。私が社長? 何故? 何で? 事情が飲み込めない私は人を呼びました。それに応えておばさんが来てくれました。


「あなた様は我が社の社長、我が国の王となられたのです」

「何で私なのですか」

「我が国が誇るAIシステムがあなた様を適任者として選んだのです」

「AIですか」

「左様でございます。我が国では人の情や勘などを排除し、最適な人事や政治を行うのにAIを利用しています。そこであなた様が本日より、その席に付かれたのです」

「断ってもいいですか」

「それはご自由に。ですが、宜しいのですか?」


 私は考えてしまいました。何だか自由になれそうですが、どうしたものかと(まと)まりません。そうです、こういう時こそ相談しましょう。


「友人を呼んで頂けますか。春子さん、夏子さん、冬子さんを」

「かしこまりました、只今お呼びします」


 皆さんが来るまでの間、私は考えたのです。王というのなら私ではなく夏子さんの方がより適任ではないでしょうか。頭の切れる非常に優秀な指導力をお持ちです。それに先見の明も併せ持っています。私よりずっと相応しいと思います。私の考えが(まと)まったところで皆さんと再会です。


「皆さん」

「「良子さん」」


 私達はお互いに抱き合って喜びあいました。ですが早速、会議です。問題が山積しています。まず私の提案を夏子さんに提示いたしました。


「いいえ、良子さん。あなたの方が王に相応しいですよ。おやりなさい」

「でも」

「「私達も同じ意見よ」」


 春子さん、冬子さんも夏子さんの意見に同意しています。でもどうして私が選ばれたのでしょうか。それは冬子さんが教えてくれました。


「私は見つけたのです、この会社の中枢であるシステムの存在を。そしてそれにアクセスする方法を探し、見つけたのです。それは毎日、公衆電話から『1』のボタンを押してから受話器に向かって『一番は良子です』と繰り返したのです」

「私も冬子さんから聞いて同じことをしました」

「私もよ、そして秋子さんも」


 私以外も皆さんが私に、一番になれと。でもそれは何故? それを夏子さんが説明してくれました。


「何故良子さんかというと、私は確信していたのです、あの時から」

「あの時ですか?」

「そうです。私が社長を殴り倒した時です。私はアホーでしたが、倒れた社長を蹴りまくる良子さんを見て確信したのです。私よりアホーがいました。それも私の届かないほど、高みにいるアホーです。私達がこんなところにいること自体がアホーなのです。ならばそんなアホーな世界を変えることが出来るののもまたアホーしかいません。それも並のアホーではダメなのです。良子さん、あなたが一番なのです」


 私は褒められたのでしょうか、認められたのでしょうか。ですが夏子さんがそう言うのなら間違いはありません。そうですね、この国の王になるなんてアホらしくてやっていられません。分かりました。とにかく、一番を目指します。


「分かりました、皆さん。私に務まるかどうか分かりませんが頑張ってみようと思います」

「私達も応援するから」

「夏子さん、春子さん、冬子さん。私は秋子さんに再会した時、恥ずかしくないように、胸を張って会えるその時まで頑張ります」


 私は豪華な椅子の前に立ち、頭を下げる国民に向かってこれから宣言いたします。それにしてもずっと頭を下げていたのですね。


「宣言いたします。私がこの国の王になります。そうですね……魔王と呼びなさい。そして頭を上げ喝采するのです」


 拍手が止みません。もしかして言われるまで続けるのでしょうか。難儀な人達です。


「喝采を止めなさい。それで、その、席に着きなさい」


 国民の皆さん、お疲れだったようです。ドカドカと座り始めました。無理もありません、平均年齢高めですから。


「そういえば、前任者はどうなったのですか」

「前社長と4人の副社長は処刑のため独房に留置しております」


 私に耳打ちしてくれたおばさんが答えてくれました。これはどうしたものでしょうか。つい癖で夏子さんの顔を伺ってしまいました。夏子さんは首を横に振っています。そうですよね、いきなり処刑は無いですよね。4人の副社長といえば昨夜の方々でしょうか。夜逃げを図ったようですね。でも、あの社長はどうでしょうか。


「では、4人の副社長は国外追放にしましょう。それと○○部署のケンジ部長も追放です。あっ、その前にお仕置きしてからですね。それで副社長のポストは誰がつくのですか?」

「それはこの方々です」


 私に一番近い席に座るおじさん達です。これはいけませんね。これでは何も変わりません。


「副社長には、この方々、春子さん、冬子さん、夏子さんとします」

「それは何でも」


 おじさんの一人が不満を漏らしています。さて、これは押しきって良いものでしょうか。多分、夏子さん達に聞いても遠慮されることでしょう。でも私にはあなた達の力が、友情が、愛が必要なのです。


◇◇

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