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じーさんず & We are  作者: Tro
#4 勇者で章
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#4.2 勇者サークル

時は1年ほど前に遡ります。場所は大学の、とあるサークル部屋の入り口です。そのサークルの一員である少女Aが部屋に入りかけた時、その足が後ずさりしていきます。何かが部屋に入るのを拒んでいるようでもあります。


少女Aが見たものとは、部屋の奥でキスをしている少年Aと少年Bの姿でした。二人は少女Aの気配に気づきましたが、慌てる様子もなく、ゆっくりと離れました。そして部屋の入り口から去ろうとした少女Aに声をかけます。


「少女A、悪かったね。入ってきてもいいよ」


そう言った少年Aの顔はにこやかです。少女Aに先程の行為を見られても平気なようです。


「もう、そういうのは他所でやってよね」

「僕達は別に悪いことをしているわけじゃ……悪かったよ」


少女Aが所属するサークルは少女A自身がサークルの代表者でもあります。昨年にメンバーの殆どが辞めてしまい、一人だけ残った彼女がそのまま代表となりました。そこに今年、新たに参加したのが少年A、Bになります。


「今年は、やるわよ」

「そうだね、偶数回だしね。チャンス到来だ」

「ジンクス通りならね、もう手に入れたのも同然よ」


このサークル、名前を勇者サークルと言います。ですが、強きを挫き弱きを助ける、そんな勇者のイメージとは少し離れています。それはあくまで表向きの理由であって真の目的は懸賞金にあります。

勇者=悪を倒す、それは魔王を倒すことに他ありません。そしてその討伐に懸けられた懸賞金が10億です。誰もが目が眩むことでしょう。今回は14回目、今までの戦歴では、偶数回で必ず勇者側が勝利を収めています。これはもう、戦わずとも勝ったも同然です。それがジンクスです。


「でも、もし負けたら死ぬかもしれない。それくらいヤバイ相手じゃないかな」


やっと少年Bが口を開きました。優しく素直な感じの青年ですが、どこか頼りなさが伝わってきます。だからでしょうか。そんな彼を少年Aが勇気づけます。


「大丈夫だよ。だってほら、教授はピンピンしているじゃないか」


教授とはシロちゃんのことです。シロちゃんがその昔、魔王に立ち向かい、無残に敗北したのは周知の事実となっています。そのシロちゃんが今も元気にしているのを、その生徒たる彼等が知らないわけはありません。


「そうよ。あの教授は生きているわ。違う意味で相当ヤバイけど」


少女Aも不安そうな顔の少年Bを励まします。『違う意味で』というのはセクハラ教授としても有名らしく、特に女子生徒からは敬遠されています。しかしその年齢ゆえ強く追求できない面もあるようです。それは、ある女子生徒がシロちゃんに肩を触られた時、張り倒してしまったそうです。その時シロちゃんは体をピクピクとさせながら、『絶命寸前まで行ったが満足じゃ』、という言葉を残してもなお生きながらえたそうです。それ以来、『年寄りを苛めるな』、『冥土の土産に』が口癖のシロちゃんです。十分距離をとってさげすむ、これが教授への対処法になっているようです。


さて、この勇者サークルがこれから取るべき行動について整理してみましょう。

まず、特殊災害派遣臨時職員になる必要があります。これになるには公募に参加しなければならないのですが、これが抽選になっています。特に今回のように偶数回の時は応募者数が膨大に増える傾向にあります。まあ、宝くじに当たるくらいの確率です。運良くこれに当たると公募への参加権が得られます。


次に公募へ参加後、適性試験が行われます。知力、体力、勇気が試されるわけです。これに合格すると次は特殊災害適合訓練、通称、勇者訓練が6ヶ月間行われます。この訓練では多数の脱落者が出ています。これに参加するには全て自費で賄わなくてはなりません。


学生のサークルメンバーにはこれが重くのしかかってきます。費用もそうですが、6ヶ月間は学校に通えなくなります。よって休学するわけですから留年が確定します。そこで魔王討伐で懸賞金を手にするか、敗者となって汚名を背負いながら学生を続けるかを選択しなければなりません。強い意志が問われます。これがサークルメンバーの少なさの原因でもあります。


勇者訓練を生き延びれば晴れて特殊災害派遣臨時職員になれるわけです。道は険しく多難です。運も含めて魔王に勝てれば良し、敗れれば全てを失います。それでもあなたは勇者になりたいですか?


ちなみにアッ君やシロちゃんの時代は届けるだけで臨時職員になれたそうです。ですが肩書きだけで給料などの手当は一切支給されず、渡航費用も自己負担だったそうです。結果、敗者となった二人は、ただ大損しただけです。いえ、世間の誤解から税金泥棒の汚名と魔王の脅威を煽ったことでケチョンパに言われ、人生も踏み外したようですよ。



特殊災害派遣臨時職員の公募参加抽選は、まだ半年先です。それまでの間、勇者サークルの面々はアルバイトに精を出します。まず参加抽選券を購入するのに3万、運良く当たって6ヶ月間の勇者訓練に参加するのに300万掛かります。当然、生半可なバイトでは稼げません。少年Aは運送業をメインに夜は警備員や時給の良い夜勤に励みます。少年Bは家庭教師に絞り、そこで奥様連中のファンを獲得したらしく荒稼ぎをしています。少女Aは飲食業でフルタイム稼働するも稼ぎは3人の中でも一番低く、怪しい仕事もしようかどうか悩み中です。この時点で3人とも殆ど、いえ、全く学校に行っていません。どのみち留年です。


あれから月日は流れ、特殊災害派遣臨時職員の公募抽選の日が来てしまいました。いくら稼げたでしょうか。少年Aは頑張りましたが200万、少年Bは何と500万、悩み続けた少女Aは何と50万でした。結局少女Aは怪しい仕事には就かず適当にアルバイトをしていたようです。それでも一番疲れた顔をしています。もう人生に疲れたのでしょうか。そこで少年Bが無利子の融資を少女Aに持ちかけましたが、それをあっさりと断る少女Aです。借りは作らない、それが少女Aのポリシーのようです。ではどうするのでしょうか。


実は勇者訓練については政府が高利貸しで融資する仕組みがあります。それは法律の上限を遥かに超えていますが政府主体のため違法になりません。しかし今回は魔王を倒せる絶好のチャンスです。借金も簡単に返せるでしょう。そう考えた少女Aがその融資に飛びつきました。少年Aも不足金をそれで補うようです。


ところで、先の話ですが懸賞金はどう配分するのでしょうか。3で割ると端数が出てましますが。


「僕達は2人で半分でいいよ」


少年Aが気前のいいことを言っています。


「いいの?」


少女Aは驚きつつも、その笑顔が隠せません。天にも昇る勢いです。


「僕達はお金が目的じゃないから。それに少女Aはこのサークルの代表だろう。君がいなかったら僕達は勇者になろうなんて考えもしなかったよ」


「そうなの? なら、そうしましょう、かしら」


遠慮を装って少女Aの頭の中は『よっしゃー』の連発です。その思いが声に出ないことを祈りましょう。


さて、抽選の結果ですが、3人とも当たりました。宝くじ並みの確率と言いましたが、あれはただの噂だったようです。というかハズレた人がいるのでしょうか、と言うぐらい、当選者続出です。こうして3人は次の段階、6ヶ月間の勇者訓練に進みます。


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