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じーさんず & We are  作者: Tro
#1 剣士で章
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#1.1 むかしむかし、あるところに

むかしむかし、あるところに、お爺さんとお爺さんがいました。

最初のお爺さんは、かつて魔王と呼ばれ、好き放題な人生を送ったと聞いていますが、今はただのジジイです。一応、この物語の主人公も兼ねています。その次のお爺さんは、かつて勇者と呼ばれ、果敢に魔王に挑んだようですが見事に敗れ、その後、悲惨な人生を送ったと聞いています。今はただのジジイです。


そのジジイ二人が私の眼の前で、いちゃついています。その私は、誰かって? それはいずれ話しましょう。今はジジイの二人が目障りです。


「お前は誰だ?」

「お前こそ、誰だ?」


ここは魔王の住む、魔王城です。地下3階、地上52階建てのビルに相当する建物です。私の住む宮殿でもあります。ということは、はい、私が魔王です。ですが人間です。それも可愛い女性です。ということは、いいえ、先代の魔王とは縁もゆかりも、血縁もありません。目の前のジジイの一人が、先代の魔王、今は隠居して大魔王とほざいています。では何故、私が魔王になったか、ですが、それはいずれ話しましょう。今はジジイの二人が目障りです。


「俺は、大魔王だ」

「魔王じゃないのか?」

「元・魔王だ。それより、お前こそ誰だ?」

「俺を忘れたのか? まあいい。俺こそは正真正銘の勇者だ! 元」

「元・勇者だと? ハハーン、なんだ、ただの敗者じゃないか」


勇者だと名乗るこの男、いや、このジジイは魔王が隠居したことを聞きつけ、むかし敗れた腹いせにやって来たようです。しかし、このジジイ、昔は大剣を振ってブイブイ言わせていたようですが、今はただのジジイです。その面影はありません。


「勝負だ、魔王!」

「だから俺は、今は大魔王だって」

「お前に敗北してからというもの、俺はお前に復讐するためだけに生きてきたんだ。尋常に勝負せい!」

「根暗かよ。つまらん人生を送ったな」

「あれもこれも全部、お前のせいだ。この恨みを晴らすまで、死ぬに死にきれん」


何故、元勇者がノコノコと魔王城に入れたかって? 君達は魔王か? おお、それは私でした。老人には親切にするものですよ。それに、こんなジジイ、私の手にかかればイチコロよ、アーハハハ。


「おい、敗者。名前はなんだ?」

「俺はアークット・ゲレナ・フォント・ナガイ……」

「ああ、もういい。覚えられん。なあ、アッ君」

「アッ君だと」

「そうだ、それでいこう。飯でも食って、それで帰れや」

「バカを言うな!」

「しょうがない奴だ。なら、何処からでもかかってこいやー」


大魔王は威勢のいいことを言っていますが、大丈夫なのでしょうか? あれでも元・勇者ですよ。仕方ありません、見物していましょう。


「アイヤー」

「おりゃー」


掛け声はいいから、はよせよ。私は気が短いのだ。


「ウイヤー」

「いりゃー」


大魔王は私を魔王にした時、その魔力の殆どを私に献上したのです。だから今の大魔王の魔力はカス同然。その身で勝負になるのでしょうか。


「ううう」


元勇者が突然、腹痛のようにしゃがみ込んでしまいました。ここで死んでしまうのか? 寿命か? と思いきや、懐から短剣を大魔王目掛けて投げやがったぞ。


「あああ」


大魔王が驚いて気色悪い声を上げています。一歩、二歩下がったところで転けやがったぞ。しかし元勇者の放った短剣は大魔王まで全然届かず、手前どころか、すぐその辺に落ちたぞ。なんだ、なんなんだ? コントか、コントなのか?

これに怒った大魔王が魔剣を持ち出しやがったぞ。本気か、本気かなのか?


「覚悟せいやー、アッ君」

「おおお」


魔剣を振り上げたはいいが、剣が鞘から抜けないようです。それもそうでしょう。魔力のない者が魔剣を扱えるはずがありません。それでも当たったら痛い。アッ君、これまでかー。


「ふん。覚悟するのはお前やー、魔王」

「あああ」


今度はアッ君が腰からレーザー剣を取り出し、ビヨーンと、その剣先を大魔王に向けてきたぞ。危し、大魔王。どうなるのでしょうか。


ビヨーン、ビヨーン、ビヨーン、シューん。


なんだよ! 景気良くアッ君が振り回していたレーザーの刃が消えたよ? アッ君も一緒にシューんとしちゃったよ。


「どうした、アッ君」

「充電が切れた。コンセントを貸してくれ」


若い頃は大剣を振り回し、敵をザックンポンとなぎ倒していたと聞きました。あれは、嘘だったのねー。


「しょうがないな。ほれ、コンセントなら壁の方にあるぞ」

「そうか。ちと借りるぞ」


ここは魔王城の謁見室。広い、広〜い場所です。その上座に、背もたれの高い、豪華絢爛な椅子に座るのが、私こと魔王様。片膝ついて老人達の戯れを見物しています。


「隙あり!」

「アイター」


今日は遠くからお客様が来られました。魔王様はとてもお優しい方で、かつての敵も、こうして笑顔で迎えいれています。その昔、お二人に何があったかは存じませんが、月日は流れ……もう、いいじゃないですか。仲良くしましょう。


「おい! お前、卑怯じゃないか」

「勝てばいいんだよ」


ほら、見てください。二人とも武器を捨て、己の拳で語り合っています。そして抱きつき、床に転がっていくではありませんか。そうして運命は絡み合い、良い方向に解けていくのですね。微笑ましい光景です。なんと目障りなのでしょうか。

仕方ありません。命じましょう。


「こやつらを、外の池に捨ててきなさい」

「「ハハー、魔王様」」


私は、この魔王城に出稼ぎに来ていました。何故かって? それはとても給料が良かったんですよ。それなのに先代の魔王が、もう飽きたからといって副魔王に力を移行する際、手が滑ったとかなんとかで、その力が私に来てしまいました。


「何をするか! 俺は大魔王だぞ」

「離せ! 俺は客人だぞ」


それからですね。面倒な魔王になってしまったのは。今度は給料を貰う方から、あげる方になってしまいました。給与計算が面倒です。まあ、私がしている訳ではありませんが、査定がね、これ、難しいんですよ。


「おい! 魔王、魔王様ー」

「なんで、あんな小娘が魔王なんだー」


え? なんで人が魔王になれるんだって? いやですよ。まるで魔王が、悪魔か何かと勘違いしていませんか。生まれながらに魔法を使える人を、そう呼ぶのです。異能力とでも言えば分かりますでしょうか。魔王の魔は魔法の魔です。


「魔王様ー、何卒ご慈悲をー」

「水はいやじゃー、水はー」


後天的、すなわち修行などでも魔法は使えるようになるらしいですが、私は、全然、そんな素質はありませんでした。しかし、こうして魔法が使えるようになりました。それも絶大な力です。その大きな力に伴う責任も自覚しています。上に立つ者は奢らず、常に下々の者達に気を配っています、多分。


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