なんだってんだよ
新幹線に乗ると、ジャンクフード片手に音楽を聴くのが彼のスタイルだ。
成田健
年齢ー20歳
性別ー男
身長ー167㎝
体重ー57㎏
職業ー大学生
全体的に能力が特に高いわけでもなく、かといって運動能力や頭脳がとりわけ低いわけでもない。しいて良いところを挙げるなら、上京して独り暮らしになったので、バイトしながら毎日自炊しているという継続力である。
そんな平凡な人生を送っている彼の目的は、新幹線に乗って、アイドルのライブに行くことである。大学生の友達に進められたのをきっかけに、アイドルにハマったのである。
彼の推しアイドルは二人いる。一人は元気いっぱいの可愛いらしい女の子、もう一人はロック系のかっこいい女の子である。そんな彼女達はユニットを組んでいる。お互いの方向性が違う彼女達は、一見すると相性が悪く、実際に痴話喧嘩を披露する場面もある。しかし、お互い頑張って観客を盛り上げようとする姿勢は同じであり、そんな彼女達に魅力を感じたのである。
(早く東京つかねーかなあ)
そんなことを思いながら新幹線に乗っていると、京都駅に着いていた。隣の席に乗客が座ってきた。見た目は三十代後半から四十代前半の中年のおっさんといったところか。今の時期が夏なので、ノーネクタイ、ノージャケットのクールビズな格好をしている。座るや否や、すぐにパソコンを取り出して作業をし始めた。
(あと何年後かしたら俺もああやって働くんだろうなあ…)
そんなことを思いつつ、目を閉じていたら段々と眠たくなってきた。
(俺も“仕事”のために寝ておくか…)
ライブには意外と体力を使うものである。彼は音楽を聴きながら眠りについた。
ーーーー・・・
しばらくして目を開けた。隣を見ると相変わらずおっさんが作業をしている。
(……もうそろそろ東京か)
携帯電話で時計を確認する。時計の時間を見て、彼は驚愕した。あれから二時間以上は寝ていたのにも関わらず、まだ東京に着いていないのである。
(何か事故でもあったのか…?)
新幹線の電光掲示板を確認する。しかし、いつも通り、興味のないニュースが流れていた。そのついでに周りを見渡すと異変に気付いた。
(おっさんと俺以外の人がいない…!?)
パソコンとにらめっこしているおっさんに、思わず話しかけた。
「あの~、すみません。この新幹線の車両に人がいないのですが、何かありましたか?」
おっさんも「ふー」と息を吐きながら、眼鏡を外し、辺りを見渡した。
「………本当だ。すみませんが私も気付きませんでした。」
おっさんも仕事に集中していたためか、まったく知らなかった様子である。
「まだ東京に着いてないんですよ。なんか怖くないですか。」
おっさんは時計を確認して、そのことにも気が付いた。おっさんも驚愕していた。一瞬沈黙したあと、おっさんが口を開けて一言。
「…とりあえず別の車両も見に行きましょう。」
流石社会人。決断が早い。
「自分も付いて行きます!」
それに対しておっさんも応える。
「分かりました。では一緒に行きましょう。」
おっさんが立ち上がろうとした。次の瞬間おっさんは床に倒れ込んでしまった。
「っ!?大丈夫ですか!?」
助けるため立ち上がろうとすると、突然目の前が真っ暗になった。睡魔とは明らかに違う感覚である。
(……なんだ…ってんだ……よ……ぉ…………)
意識が飛んで、そのまま二人とも床に倒れ込んだ。
ーーーー・・・
あの事件から三ヶ月…
彼らは
よくわからない世界の
よくわからない村で
働いていた
相変わらず騒いでる“女”の声が聞こえてくる。可愛い系のアイドルだった「藍川穂純」だが今は見る影もない。
中年サラリーマンの「大北哲」も彼女の声で目が覚める。グーと腕を伸ばして起き上がる。
「健くん。おはよう。相変わらず騒がしいねえ彼女。」
一日の始まりは、大抵こんな感じある。
「おはようございます。今日も一日頑張りますかあ。
今日は“じゃが”の収穫日ですよ。」
成田健の平凡な一日が今日も始まった。