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メイドは今日も共に行く  作者: 緋月 夜夏
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第8話 お嬢様と使用人集会

夕食では、花房お嬢様がナイフやフォークの使い方で戸惑っていらっしゃり、叶実さんがお手伝いをなさっていました。

花房お嬢様も夕食を食べ終え、お嬢様方は入浴されるようです。

入浴の手伝いの担当である早奈恵さんと、叶実さんも一緒に向かいました。

私も食器を片付けましょう。


片付けや食堂の掃除を終え、部屋に戻るところで、橘さんに呼び止められました。


「花園さん、少し報告しておきたい事があるので、執務室まで来ていただけますか。」

「はい。私だけでしょうか。」

「いえ、西森さんと梨原さん、あとは、板橋さんに芽津 叶実さんもです。」

「私が呼んできましょうか。」

「私は板橋さんを呼びますので、後の3人をお願いします。」


橘さんに言われた通り、早奈恵さん達を呼びに行きます。

どのような要件なのでしょう?

私達だけではなく、叶実さんも呼ぶとなると想像は難しくなります。


3人を呼び、執務室の扉にノックします。


「花園です。お連れしました。」

「入ってください。」


扉を開け、入室します。

橘さんと板橋さんがソファに座っています。


「花園さん達もそこに腰掛けてください。少々長くなるかもしれません。」

「わかりました。」


橘さんの指示通りにソファに座ります。

ソファはテーブルを囲むように設置されています。

私と同じソファに早奈恵さんと真智さん、対面のソファに橘さん、私から見て右側のソファに板橋さんが座っています。

左側のソファが空いていますし、移っても良いでしょうか?


「今回集まってもらったのは、華恋お嬢様に関わることです。」


橘さんが切り出してしまったので、このまま座っていましょう。

それにしても、華恋お嬢様ですか。


「どうかされたのですか。」

「実は、先程継野様から連絡が来て、明日この屋敷を訪ねるそうです。」

「継野様、ですか。」


先日の件もあったというのにここを訪ねるのですか?


「未玖ちゃん、継野様って?」


早奈恵さんが小声で尋ねてきました。


「華恋お嬢様が断った婚約者の方の父親です。」

「沢山いて分からないわね。」

「ほら、前に1人できた男の子がいたでしょ?」

「1人?あー!あの付き人が誰もいなかった子ね。珍しくて覚えてる。」


真智さんの言葉で思い出したようです。


「橘さん、こんな時間に連絡が来て、明日には訪ねてくるのですか。流石に急ではないですか。」

「私もそのように思い、断りを入れようとしたのですが、どうしても緊急の用事であると仰っていまして、ほぼこちらの話を聞かない様子でした。」

「当主様はなんと仰られてるのですか。」

「そのことなのですが、先程から来宇様に連絡がつかないのです。」


私の携帯からも連絡を入れた方が良いかもしれません。


「橘さん、私達はなんで呼ばれたの?」


真智さんが今回の要件を尋ねます。

確かに聞いていませんでしたね。


「継野様からは、何度も華恋お嬢様への婚約の申し込みが来ていまして、何度もお断りの連絡を入れています。その回数が他家の方々とは比べものにならないほど多いです。」

「そうだったのですか。」


華恋お嬢様が断ってからはほとんどを当主様が断っていたので知りませんでした。


「最近の申し込みでは、声を荒げていることが多くなり、継野 雅樹様本人が代わりに申し込みの連絡をすることも増えています。」

「ご本人が連絡を。」

「はい。ですが、本人の方が話になりません。自分の妄想が正しいのだと思っているのか、こちらを責めるような言い方で話されます。」


何をされているのでしょうか。


「では、今回も継野 雅樹様がお一人でいらっしゃるのですか。」

「いえ、1人付き人をつけると仰られていました。それも男性の方だそうです。」

「護衛、ですか。」

「おそらくそのようなものでしょう。ですが、お嬢様方に危害を加える可能性も考えられます。」


私達は継野様が訪ねてくることを知っていますが、当主様は知っていません。

可能性は低いですが、当主様がいらっしゃらないということが少し痛いですね。


「ですから、各々お嬢様の身を第一に考えて行動して下さい。もし少しても不穏な行動をした場合は全力で追い出して構いません。」

「いいのか?」

「構いません。こちらを訪ねるにしても余裕を持って連絡するのが常識です。もし間違いで追い出したとしてもその説明をすれば来宇様も納得するでしょう。」

「唯一の男だからな。任せてくれ。」

「いえ、板橋さんは年齢を考えて下さい。」

「花園ちゃん、なんか言葉がキツくないか?」

「気の所為です。」

「芽津さんもこちらの問題に巻き込んでしまうかもしれませんので、お帰りになった方が良いかもしれません。」

「いえ、お嬢様も楽しんでおられるようですから、私が気をつければ大丈夫でしょう。」

「わかりました。では、皆さん、明日に備えて下さい。今回の要件は以上です。」

「失礼します。」


執務室から出ると板橋さんも自室に戻って行きました。


「未玖ちゃん、たまには未玖ちゃんの部屋に行ってもいい?」

「早奈恵さん、先程明日に備えるように言われましたよね。」

「でも、芽津さんは入れたんでしょ?」

「そうですが。」

「なら、私達もいいでしょ?芽津さんから美味しい紅茶が飲めるって聞いたんだから。」

「いつの間にそのような事を話すような仲になったのですか。」

「お風呂の時に聞いたんだよ。」

「眠れなくなってもいけませんし、少しだけですよ。」

「やったー!」

「ナイス、早奈恵ちゃん!芽津さんも行くでしょ?」

「ええ。よろしければ。」

「じゃあ、行こう!」

「こんな時間なんですから廊下で騒がないで下さい。」


早奈恵さんに真智さん、叶実さんと共に部屋に戻りました。


「どうせならみんなでここに寝ようか。」

「寝るところはありませんよ。」


真智さんの提案に驚きます。

今までは同じ部屋に集まることはあっても、同じ部屋で寝たことはありませんでした。


「未玖ちゃん、いいでしょ?」

「真智さんはなんでテンションが高いんですか。」

「だってやっと未玖ちゃんの部屋に入れたし。芽津さんもここで一緒に寝る?」

「はい。是非。」

「なら、着替えてこよっか。あと、布団もね。」

「ええ。芽津さんの布団は私が持ってくるから。」

「西森さん、ありがとうございます。」


皆さんは部屋から出て行きました。

ですが、すぐに戻ってくるでしょう。

…とりあえず、着替えますか。



寝巻きに着替え、ポットとカップを温めたところで、皆さんも戻ってきました。

芽津さんはパジャマ派のようです。

私は当然パジャマなのですが、早奈恵さんと真智さんは冬になるとパジャマになりますが、今はまだ暖かいのでネグリジェを着ています。


「芽津さんもパジャマだね。」

「はい。あまり、その。そういうものは慣れないので。」

「未玖ちゃんと同じこと言ってる。夏とか暑くない?早奈恵ちゃんもネグリジェだよ?」

「特に気にならないです。」

「そっかぁ。」


真智さんは水色のものを着ていますが、服のようなものなので問題はないのですが、早奈恵さんは違います。

黒色で肌も透けていますし、何より前開きのものです。

目の毒、ではありませんがこちらが恥ずかしくなります。


「今日はそこまで暑くないですよね?」

「まぁまぁ、紅茶で温めればいいよ。」

「用意するの私なんですけどね。」


会話をしながらも紅茶の用意をします。


「芽津さんは普段から紅茶を飲むの?」

「いえ、私は緑茶や抹茶の方がよく飲みますね。」

「抹茶!なんかかき混ぜるやつだ。苦いんだよね?」

「苦いものもありますけど、甘いものもありますよ。」

「くすっ。」


早奈恵さんと真智さんも私と同じ質問をしていて思わず笑ってしまいました。


「どうしたの未玖ちゃん?」

「いえ、私と同じだったので。」

「あぁ。確かに未玖さんも同じ反応でしたね。」

「私達は仲良しだからね!」


そう言って早奈恵さんが私の方に手を回してきました。


「ちょっと、真智ちゃん。未玖ちゃんは紅茶を用意してるんだから危ないでしょ?」

「あっ!そうだった。ごめんね。」

「お互いに危ないので気をつけて下さいね。」

「ごめんごめん。」

「もう…はい。出来ましたよ。」


全員に紅茶を注いだカップを渡す。


「レモン、蜂蜜、ミルク、あとはジャムですね。好きに使って下さい。」

「お酒はないの?」

「私、未成年ですから買えませんよ。」

「私が買ってきてあげようか?」

「早奈恵さん、買ってきてもらっても飲めませんよ?」

「私達が飲むよ。ね、真智ちゃん?」

「うん!一回試してみたいなぁ。」

「私が成人するまで待っていて下さい。」

「未玖ちゃんって今16歳だよね!?4年は長が過ぎるよぉ〜…」

「落ち着いて、真智ちゃん。そういえば、芽津さんは何歳なの?」

「私は今19歳ですね。成人まであと5ヶ月くらいですね。」

「じゃあ芽津さんの誕生日が過ぎたら未玖ちゃんに頼もう!きっとお祝いでつくってくれるよ。」

「聞こえてますからね。まぁ、そんなもので良いなら作りますけどね。」

「やったよ、早奈恵ちゃん!」

「ええ。真智ちゃん!」

「その時はあくまで叶実さんへのお祝いですからね。」

「今から誕生日が楽しみになってきました!」

「叶実さんも…あまり期待はしないで下さいね。」

「無理です!」

「そんな笑顔で言わないで下さい。」


プレッシャーが…


「まぁ、それは置いといて。早速始めましょう。」

「何をですか?」


早奈恵さんの言葉に叶実さんが不思議そうに尋ねます。


「もちろん「恋バナ!」です。」

「なんで真智さんも恋バナの部分だけハモるんですか…」

「せっかく女が集まってるんだから。それに友好を深めるにはもってこいでしょ!」

「そうですか?」

「じゃあ、早速芽津さんからいこう!」

「え、私からですか?」

「叶実さん、無理に言わなくて大丈夫ですからね。早奈恵さんも真智さんも誰かとお付き合いされていたことがないそうですから。」

「ちょっと、未玖ちゃん!」

「先に言っちゃだめだよ。」

「なんだ、そうなんですね。私だけかと思いました。」

「私はもう21だから焦ってるんだけどね。」

「真智さんは誰かとお付き合いされないんですか?」

「私もできるならしたいよ!?」

「真智さんなら選り取り見取りじゃないですか?」

「私もそう思います。」


叶実さんも賛同する。


「早奈恵ちゃんは私と合コン行ったりするけど、それっきりだよね。」

「良さそうな人がいないんだよね。」

「そう言うこと言う?医者の人に交際を申し込まれてたでしょ?」

「あんなひょろひょろなの嫌よ。」

「早奈恵さん、流石に可哀想ですよ…」


見たこともありませんが同情してしまいます。


「なら、西森さんはムキムキの人が好みなんですか?」

「おっ、いいね、芽津さん。どんどん質問しちゃえ!」

「ムキムキはちょっと…」

「どんな方が好みなんですか?

「なんと言うか、幼い感じかな?」

「あぁ!わかるかも!」

「…未成年はやめて下さいね。」

「なっ!未玖ちゃん、流石に私達にもそのくらいの常識はあるから!ショタコンではないから!」

「ショタコンってどのくらいからなのかしら?」

「早奈恵さん…」

「いや、同意があれば問題ないと思うのよ。」

「…問題は起こさないで下さいね。」


2人の話が終わり、次は叶実さんへ標的が移った。


「芽津さんは?どんな人が好み?」

「私は、そうですね。家庭的なひとでしょうか。」

「へぇ〜、意外だね。」

「お屋敷の掃除をして家に帰って、また掃除をしなきゃいけないのは面倒じゃないですか。」

「あー、確かに。」

「私もそれは嫌ね。」

「あっ、でも未玖ちゃんは喜びそう!」

「いや、喜びませんよ?」

「えっ?未玖ちゃんって掃除が好きなんじゃないの?」

「掃除に好きも嫌いもないです。」

「未玖さんでもそうなんですね。」

「私からしたら叶実さんの方が掃除を好みそうですけど。」

「そんなことないですよ。」

「芽津さんは家庭的な人と。ほら、この勢いで未玖ちゃんもいいなよ!」

「お二人も知らないんですか?」

「そうなんだよ。未玖ちゃんはいつも言わないからね。」

「私は好みとかわからないんですよ。」

「そんなこと言って〜。」

「芽津さんだって恥ずかしがりながらも言ったんだよ。」

「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて。未玖さんにも言えない理由があるかもしれないですし。」

「言えない理由…」

「も、もしかして女の子が好きとか!?」

「違います。」


実際はそうなるでしょうけど。


「私、未玖ちゃんなら…」

「私も未玖ちゃんなら…」

「違います。冗談でもやめて下さい。」

「私も、いいですよ…?」

「叶実さんは無理してのらなくていいですから。」

「未玖ちゃん可愛い〜。」


そのまましばらく談笑していると一人一人と眠りに落ちていき、私も眠りにつきました。

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