第6話 お嬢様のお母様
朝の掃除を終え、食堂へ向かいます。
今日は板橋さんだけのようです。
「おはようございます。」
「おう、朝食は出来てるぞ。」
「ありがとうございます。」
早速朝食を食べ始めます。
今日も美味しいですね。
「そういえば、今日から来はいないんだったよな?」
「はい。昨日そのように聞きました。」
板橋さんは当主様のことを来と呼ばれます。
「今回は何の用なんだろうな?」
「お聞きになっていないのですか?」
「花園ちゃんは知ってるのか?来が暫く出掛けるとしか聞いてないぞ。」
「今回は、摘紀様の元へ向かわれました。」
摘紀様は、当主様の奥方でいらっしゃいます。
現在は、会社の社長として海外を回っていらっしゃり、このお屋敷に戻って来られるのは1年に10日程です。
「そういえば何で今回は橘ちゃんが残ってるんだ?」
「摘紀様からの連絡が緊急の要件で、こちらでの職務と重なってしまい、こちらでの事を橘さんに委託されたそうです。」
「緊急のものが重なったのか。運が悪かったな。」
「そうですね。では、お嬢様を起こしに行ってきます。ご馳走様でした。」
板橋さんに食器を渡し、お嬢様のお部屋へ向かおうとしたところで、橘さんがこちらにやってきました。
「おはようございます。」
「おはようございます、花園さん。これから華恋お嬢様を起こしに行かれますか?」
「はい。その予定ですが。」
「先程、来宇様がお屋敷を出られてからすぐに連絡がありまして、予定が1週間から1ヶ月程に伸びるそうです。」
「そんなに、ですか?」
「1ヶ月以上となる可能性もあるそうです。」
私が知る限り、当主様が1週間以上お屋敷を離れられたことはありません。
どれほど忙しくとも、少しの間でお屋敷に帰って来られていました。
今回はそれほどに大変な要件なのでしょうか?
「私はこれから執務室に戻りますので、花園さんの口からお嬢様方にお伝え願います。」
「畏まりました。」
お嬢様を起こし、朝食を摂られている時に先程の件をお伝えしました。
「お父様が1ヶ月もですか。」
「珍しいですね。」
「初めてですね。」
華恋お嬢様、麗香お嬢様、琴音お嬢様の順です。
お嬢様方はその一言だけで、当主様が不在の件の話は終わってしまいました。
親子仲は悪くありませんが、当主様は期間の差はありますが、留守にされることも多々あるため、慣れてしまったのでしょう。
おや?
「真智さん、早奈恵さん。少しの間、お願いします。」
そう告げて食堂を後にします。
メイド服のポケットの中でスマホが震えています。
仕事用のスマホですね。
「こちら、花園です。」
「あっ、未玖ちゃん?」
「摘紀様ですか?」
「ええ。来宇さんはこちらに向かってる?」
「はい。今朝方、そちらへ向かわれました。」
「そう。ならいいわ。日本だと、そろそろ朝食の時間だと思って、華恋達の声を聞きたいと思っただけだから。華恋達は元気?」
「はい。お変わりございません。」
「そう。それならいいわ。今度は来宇さんとそちらに帰るからその時に声は聞けるもの。楽しみはそれまで待っているわ。」
「畏まりました。」
「華恋達のこと、頼むわね。」
「お任せください。」
摘紀様は私が男である事に気付いていらっしゃる節があります。
当主様がお伝えしたのでしょうか?
摘紀様がご自身でお気づきになられたのかもしれません。
当主様の奥方ですから、問題はないでしょう。
私は食堂へ戻ります。
「未玖、どうかしたの?」
私が戻ってきた事にお気づきになり、華恋お嬢様が声をお掛けになってきました。
「少々朝の仕事が残っていたため、席を外させてもらいました。」
「そう。今日もありがとう。」
「仕事ですから、感謝は必要ありません。」
ああ、また悲しそうな表情を浮かべていらっしゃいます。
事実ですから仕方がないのですが。
「そろそろ行くわ。未玖。」
「畏まりました。」
華恋お嬢様の荷物をお持ちして、登校用の車両に乗り込み、学園へ向かいます。




