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メイドは今日も共に行く  作者: 緋月 夜夏
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第5話 お嬢様と学院

今日もお嬢様と学院に向かい、教室に入るとお嬢様に話しかける方がいらっしゃいました。


「おはようございます、華恋さん。」


話しかけてきたのは継野つぎや 雅樹まさき様。

茶髪に近い金髪を肩に触れる程の長さに伸ばしていて、目は茶色をしています。


「継野さん、おはようございます。」

「華恋さんに挨拶を返して貰えるなんて、今日は良い日になりそうです。」


挨拶を返すのは当然なのではないのでしょうか?

お嬢様に教養がなさそうとでも言いたいのでしょうか。


「あぁ!11月が待ち遠しいです。遂に華恋さんと婚姻を結べるなんて!」

「婚約に関しては、随分前にお断りの返事をお渡しいたしました。」


お嬢様の頰が引きつっています。

お嬢様は継野様がお嫌いですからね。

当然、私もですが。


「華恋さん、素直になって下さい!親に敬意を払うのは良い事ですが、言いなりになるのは間違っています!」

「お断りの返事は私の意思で行いました。」


何故、そのようなことが嫌われる原因と気がつかないのでしょう?


「華恋さん、私に任せて下さい。他の父や華恋さんのお義父様は僕が説得します。あとは、華恋さんが素直になるだけで良いのです!」

「先程も言いましたがーー」


華恋さんが言葉を返されようとしたところでチャイムが鳴ります。


「自身の教室にお戻りになった方が良いと思いますよ。」

「…そのようですね。失礼します。」


継野さんが踵を返します。

お嬢様にあしらわれて少し苛立っているように見えます。


「っ、どきたまえ!」


教室に入ろうとした女子生徒の肩を押そうとしています。

いくら苛立っているとはいえ、限度があると思いますが。

おや?

女子生徒の顔を確認し、私は継野様の手を上から抑えるようにして受け止めました。


「花房お嬢様、お怪我は無いでしょうか。」

「あっ、は、はい!ありがとうございます。」

「私からも感謝いたします。」

「いえいえ。芽津さんも間に合っていました。余計な真似でしたか?」

「お嬢様が無事ならば他の事は些細な事です。」

「そうですね。」


芽津さんの言葉に全面的に同意します。

お嬢様が無事ならば良いのです。

さて。


「花房お嬢様に芽津さん。授業が始まりますので席に着きましょう。」

「はい。」

「そうですね。」

「こんな事、許されると思っているのか!」


継野様が突然騒がれるので、教室内の皆様方が一斉にこちらを振り返りました。

ご迷惑をお掛けしています。


「ぼ、僕の手をはたいたうえ、無視するなど…ただで済むと思うなよ!」

「…本件は継野様に非があるのは確実です。」


私の言葉に同意するように首肯してくださる方が数名いらっしゃった。

他の方々も耳に口を寄せ合って話していらっしゃいます。


「黙れ!し、使用人の分際で、僕に逆らっていいと思っているのか!?」


先程から本性が現れていますが良いのでしょうか?

今までは華恋お嬢様の前ではお隠しになられていたのですが。

いえ、継野様がそうお考えになっていただけでしたね。

私や他の使用人が華恋お嬢様や当主様に報告していますし。


「花房お嬢様は華恋お嬢様のご友人です。花房お嬢様が傷つけば、華恋お嬢様は心を痛めます。私は華恋お嬢様の心身共に補助するために努めています。そのため、先程の継野様の行動を見過ごす事は出来ません。」

「意見をしているのか…?使用人如きが?この僕に?」

「ご理解していただけましたでしょうか?」

「巫山戯るな!」


先程よりも大声で怒鳴られています。

ところで教師の方は何をなされているのでしょう?

普段なら来ているべき時間ですが。


「職員会が長引いてしまい、遅れてしまいました。申し訳ありません。すぐに授業をーーーあら?継野さんは別の教室ではなかったですか?」


噂をすれば、という事でしょうか?

教師の方が来てくださいました。

早速継野様に気づき、教室に戻るように促しています。


「ちっ、覚えてろよ。」


そう言い残して継野様は教室から出ていきました。

授業が始まっても、華恋お嬢様と花房お嬢様はこちらを心配そうな目で伺っているようです。

軽く微笑み無事を伝えますと、安心したのか視線を前に移しました。




七限目の授業を終え、お屋敷に戻ると当主様の秘書兼専属の使用人であるたちばな ほたるさんが出迎えて下さいました。


「華恋お嬢様と花園さん。来宇様がお呼びです。」

「わかりました。」

「畏まりました。」


当主様が私達にどのような要件があるのでしょう?

橘さんは執務室の前で立ち止まり、ノックをしました。


「橘くんか?」

「はい。華恋お嬢様と花園さんをお連れしました。」

「入ってくれ。」

「失礼いたします。」


橘さんに続き、お嬢様と私も執務室に入ります。


「そこに掛けてくれ。」


お嬢様はソファに腰掛け、当主様と向かい合います。

橘さんが当主様の後ろにいらっしゃるように、私もお嬢様の後ろにつきます。


「お父様、どのような要件でしょうか。」

「ああ。継野くんの事は覚えているね?」

「はい。今日、学院でお会いしました。」

「そうか。実は先程問い合わせがあってね。」

「問い合わせ、ですか?」

「ああ。華恋の専属の使用人、花園くんを解雇してくれと言っていたよ。」

「そんな!」


お嬢様はこちらを勢いよく振り返られました。

お心遣い感謝します。


「落ち着いてくれ。私としても理由も聞かずに花園くんを解雇する事はない。」

「本当ですか!」

「当然だ。だが、何があったのかは説明してくれるね?」

「はい。勿論です!」

「華恋お嬢様、私から説明したしますか?」

「いいえ。私から説明するわ。原因は私ですもの。」

「畏まりました。」


お嬢様が説明し終えると、当主様は頷きました。

説明している間、橘さんは私を見て、大変でしたね、と目でおっしゃっているようでした。


「なるほど…花園くん、ありがとう。」

「いえ、仕事ですので。」


そう言うと、華恋お嬢様がこちらを悲しそうな目で見てきます。

お嬢様は仕事と言われるのがあまりお好きでないようです。


「そうか。それでも、ありがとう。」

「はい。」

「華恋はもう部屋に戻っていいよ。私は花園くんと話があるから、橘くんも外してくれ。」

「畏まりました。」


お嬢様を連れて、橘さんは出ていきました。

執務室には私と当主様が残されます。


「さて、改めてありがとう、未玖くん。」

「先程お伝えした通りです。」

「はは、私の前では丁寧な言葉遣いでなくてもいいんだよ?」

「いえ。こちらが私の()です。」

「…そうか。」


当主様は私の身体を爪先から頭の上まで眺めました。

当主様は私が男性であることを知っていますから、当然ですが下品な視線ではありません。


「ところで、未玖くん、誕生日はいつだったかな?」

「…4月14日です。」


そう、私は既に16歳を迎えています。

今日は9月5日ですから、あと10日程で誕生日から

5ヶ月経過したことになります。


「未玖くんは変わらないね?」

「そうですね…」


今の所、変化らしい変化はありません。

16歳を過ぎて2ヶ月から3ヶ月で髭なども生えてくるようなのですが、私にはその兆候が見られません。


「あの時、華恋に伝える事を止めたのは失敗だったかもね。」


当主様が言っているのは私の誕生日の日の事です。

私は誕生日の翌日にお嬢様に男性である事をお伝えしようとしたのですが、当主様が、その顔と身体では言われても信じられないよ、とおっしゃられたため、変化が現れるまでお伝えするのを後回しにしていました。


「まぁ、今更後悔しても遅いか。未玖くんは変化が現れ始めたら、まず私に伝えるように。では、要件はこれで終わりだ。仕事に戻ってくれ。」

「畏まりました。失礼します。」


私は執務室から出て、仕事に戻りました。

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