第35話 特訓(下)
今回の話に出てきた新キャラの受付嬢、ククリさん(今考えた)の話は次のギルピックさんのセリフまで飛ばして大丈夫です。物語の展開に関わることは書いてません。
朝食を食べ終え、組合へ向かいます。
「地下を使いたいのですが、よろしいですか?」
「あっ、訓練場ですね。ご利用は初めてですか?」
「はい。」
「訓練場はあちらの階段を降りたところにあります。訓練場の前に組合嬢がいますから代金はそちらにお願いします。」
「わかりました。」
橘さんに続いて階段へと向かいます。こちらでも多数の視線が向けられています。この格好は目立つからでしょう。
代金を渡し、扉を開けると、33人と予想以上の人数がいました。
「無限回廊はあっちにゃ。近くの記録用の職員に言えば借りれるにゃ。」
ギルピックさんの指差す方向には椅子に背を預けて天井を見ている職員、そしてその前の机に3つの蛇のような装飾の施された台にはめ込まれた水晶玉が4つ置かれています。
「ん、他は貸し出し中にゃ?」
「…」
「聞こえてるかにゃ?」
「…」
「仕事しろにゃ!」
「え!?私ですか?」
ようやく私達に気づき、目の前にあったギルピックさんの顔に驚いたのかそのまま後ろに倒れました。
「大丈夫ですか。」
「いたた…すみません…」
手を引いて立ち上がらせます。
その職員の方はお尻のところを叩いて埃を落とすとこちらに向き直りました。
「残りは貸し出し中にゃ?」
「いえ、この4つで全部です。残りは少し前に新しくできた組合に送ってしまいましたからね。使う方も減ってきましたから、私も暇だったんですよ。1日中ずっと座ってるだけの日とかざらですからね。まあ、それだけで給料がもらえるので嬉しいと言えば嬉しいんですけど。何か暇つぶしのものとか持ってこようとも思ったんですけど、5日くらい前に持ってきたら上司に怒られちゃって。次やったら減給だぞって。地図見てただけですよ?いや、これでも配慮したんですよ?最初は暇つぶしに迷宮板で遊んでたんですけどね。あっ、迷宮板って知ってます?今でも流行ってるやつなんですけどね。3週間くらい前に発売されるって事でもうその日は休みましたよ。朝早くに並んだのにもう並んでる人がたくさんいるんですよ。もうびっくりしちゃって。心の中で買えるかな?って思ってたんですけど、なんと!ぎりぎり最後の1つを変えたんですよ。いやー、もう嬉しくてね。その場で飛び跳ねちゃいましたよ。でも、ふと我に返って周りを見たらすごい目で睨んでくるわけですよ。店員さんは笑ってくださいましたけどね。でも、よく考えたら私の後ろに並んでた人は買えなかったわけじゃないですか?あっ、私空気読めてないなって。特に私の後ろに並んでたおばさんなってすごい目をしてるんですよ。もう逃げ帰るみたいに帰りましたよね。でも、それくらい嬉しかったんですよ。今回は超難易度版でしてね。今までで一番難しいって事で早速やってみようと思ったんで、家で広げてみたらもうびっくりです。9個の板を組み合わせてから遊ぶんですけど、組み立てたら私より大きいんですよ。これは時間かかるなと。そこで私考えたんです。あっ、暇な時間ならあるじゃんって。で、次の日から持ってきて遊んでたら2日目には上司に叱られたんですよ。『邪魔だ。仕事をなんだと思ってるんだ。』って、その時はイラっとしましたけど、よく考えれば確かにその通りだなって。当然机じゃ小さいから床に広げてましたし、駒に矢が刺さってはじめに戻った時は叫んだりしてましたしね。納得して3日くらいは何もせずに座ってたんですよ。でも、でもですよ。やっぱり暇じゃないですか?どうしようって思った時に気づいたんですよ。ここって殺風景だなって。そうなったらお花とか飾りたいと思うじゃないですか?それで早速お花を買いに行ったわけですよ。で、どれにしようかなーって悩んでたら、種も売ってるわけで。せっかくだし最初から育ててみようかなって思ったわけです。店員さんに聞いて肥料とかもたくさん買って植木鉢に丁寧に植えて置いておいたんですよ。早く目が出ないかなーって。そしたら今度は持ってきた日ですよ。『仕事場に余計なもの持ってくるな!』って。今度は私も言い返したわけです。『お花を飾るくらいはいいでしょ!』って。そしたら『それのどこが花だ。ただの植木鉢じゃないか』って。私は『これから花が咲くんですー』って更に言い返したわけです。そしたらなんて行ったと思います?『日も当たらないのに育つわけないだろ!』ですよ。確かにその通りだなって。あったかい方が大きくなる気がしますもんね。その日に持って帰ったから、その日の私は朝持ってきた植木鉢を帰りに持って帰った人なわけです。あれですよね。超過保護といいますか。肌身離さずって感じで。私そんな気はさらさらないんですけどね?あっ、そうそう。その植木鉢なんですけど、庭に置いて毎日出勤前に行ってくるねーって水あげながら挨拶してたら4日後。たった4日後のことですよ?朝起きて支度して、その日は寝坊しちゃって朝食は抜いたんですけどね。植木鉢をみたらですね。芽がびょこんって出てるわけですよ。もう嬉しいったらなくてですね。その後の上司のお小言なってまったく耳に入ってきませんでした!なんて言うんですか?成長の過程?なんてものを見て、思ったわけですよ。私にも母性本能があったんだって。そしたら子供作るしかないじゃないですか?でも、私には相手がいないわけです。急いで相手を探すわけですよ。でも、簡単に見つからないじゃないですか?どう探すかもわからないわけですし。それで同僚に相談したら『1人来れなくなったから代わりにくる?』って。ほら、集団でやるお見合いみたいなやつです。もうこれは神様が私を応援してくれてるって思ってですね。意気揚々と参加したわけです。男3人と私も含めて女3人で食事会をしたわけです。そしたらなんと!相手の男の中に私の幼馴染がいたんですよ。もうびっくりしちゃいましてね。あっ、私ここの生まれじゃなくてですね。結構遠くからこっちに出てきてたんですよ。そしたらこっちで地元の幼馴染に会うとは思わないじゃないですか?もうテンション下がっちゃいましてね。今回はないなーって思ってさっさと帰ろうと思ったんですよ。そしたらその幼馴染が付いてきて『この後2人で飲もうぜ。つもる話もあるしな。』とか言って顔赤くして言うんですよ。いやー、もうね。そんだけ酔っててまだ足りないのかと。誰のせいでこっちの気分が悪くなってんだと。もうね。無視。無視ですよ。なんか手を掴んでまで引き止めようとしてきましてね。あまりにしつこかったんで手を叩いて引き離そうとしたんですよ。て、叩いたんですけど全然離してくれなくて。面倒だなーって思ってたら上司が近くにいたらしくてですね。その幼馴染を引き剥がしてくれたわけです。その時の上司を見てですね。こいつまた休んでやがると思ったわけですよ。いや、お前2日前も休んでなかったかと。私の方が働いてるんじゃない?って。なんで休日にまで上司の顔を見なきゃいけないんだって。さっさと帰ったのでその後は知らないんですけど。次の日仕事に行ったら、上司が『また何かあったらすぐに言えよ』とか言うわけですよ。なんで個人的な事まで言わなきゃいけないんだと。本気で転職しようかなーとか考えるわけですよ。でも、この仕事って給料いいんですよ。他の仕事を始めるにしても1からになっちゃいますし。このままでいいかなって。?ええっと、なんの話でしたっけ?…あぁ、それで次の日も座ってるだけになるじゃないですか?その日もぼーっとしながら座ってたらお昼頃に上司がきましてね」
「長いのにゃー!!」
「痛いですっ!」
パチンとギルピックさんが組合嬢の頭を叩かれました。
「結局使っていいのにゃ!?」
「どうぞどうぞ!何個でも使ってください。」
「4個しかないのにゃー!!」
「そうでしたそうでした。全部使ってくれて結構です。いやー、久し振りににこれ使うって人が来たんでテンションが上がってしまいました。あっ、証明書はここに置いていってくださいね。無限回廊は1つで2人まで同時に使えますから、一緒に使う人がいたらあそこの同じ部屋に入ってもらって、中にある台座にはめ込んでください。はめた瞬間始まるので気をつけてくださいね。」
「どうするかにゃ。4人は確定として、ミク、マチ、サナエ、カナミが4人についたらマチとダイスケは待つことになるにゃ。」
「俺は他のやってるから気にしないでくれ。」
「なら、マチにゃ。」
「私の代わりに華恋お嬢様と入っていただきましょう。私はここでお嬢様方を待たせていただきます。」
「そうかにゃ?…まぁ、ミクは必要ないかにゃ。じゃあ、それぞれ行ってくるにゃ。私も久し振りに対人訓練やってくるにゃ。」
そう言い残してギルピックさんは入ってきたものとは別の扉の中へ入って行きました。
「他も使い方はここと同じだろ?」
「はい。分からないことがあったらそれぞれ専用の組合嬢がいますからそちらに尋ねていただけると確実だと思います。」
「板橋さんは無理して体を傷めないようにしてくださいね。」
「わかってるよ。」
「アルメルトさん、お願いしますね。」
「ああ。」
板橋さんの後ろをついていくアルメルトさん。護衛みたいですね。
「未玖、私たちも行ってくるわね。」
「どうかお気をつけて。」
「ええ。」
扉の中には誰もいないことは確認済みです。
「あのー、もしかして私の話し相手になってくれるんですか?」
「はい。ご迷惑でなければ。」
「全然!全く!迷惑じゃないですよ!むしろ嬉しいです。何分でも何時間でもお話ししましょう!」
情報収集は自然な声を聞くのも大切ですからね。




