第27話 お嬢様と盗賊団(上)
間が空いてしまい申し訳ありません。
芸の披露も終え、またしても暇を持て余してしまいます。本当に娯楽というものがありませんね。書籍でもあれば良かったのですが。
「…そういえば、本来であれば今日は学園の登校日でしたね。」
「長期間変えることができないとなると、その点も対策しなければなりませんね。」
普段は麗香お嬢様は早奈恵さん、琴音お嬢様は真智さんが勉強をみています。お嬢様方が解いた問題の丸つけをし、間違った問題を解説しているらしいです。私は学がありませんので、使用人の一人である北山さんに代わっていただいています。
「国語は難しいですね。後の教科は現在進めている単元でしたら問題ありません。」
早奈恵さんの言葉に真智さんも頷いています。となると、問題は華恋お嬢様ですね。橘さんに頼むしかないのですが。
「華蓮お嬢様には私が付きます。普段行っておりませんので、慣れてはいませんが、それでもよろしいですか?」
「ええ。よろしくお願いするわ。」
華恋お嬢様も承諾して下さりました。橘さんにも後でお礼を言わなくてはなりませんね。私が出来ていれば代わっていただく必要はなかったのですから。
「芽津さんは大丈夫ですか?」
「はい。普段も私が担当していますので、問題ありません。」
「花房お嬢様と華恋お嬢様は同じ学年ですから、内容のことで、私が芽津さんに頼ることもあると思いますからよろしくお願いします。」
「はい。遠慮なさらず聞いてください。」
そんな会話の中、琴音お嬢様は嫌そうな顔をしておられました。大変かもしれませんが頑張って頂きたく思います。
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お嬢様方が学業に励んでいらっしゃる間、私と板橋さんとアルメルトさんの3人で食材の味を確認します。安全の為にも私一人で確認作業を行いたいのですが、お二人の手前、そうするわけにもいきません。
「…茄子だな。しっかし、こいつは硬えな。柔らかくして味がどうなるかだな。」
「味は唐辛子、食感は芋だな。使えるか?」
「これは中からゼリー状で甘いです。皮は木の味ですね。」
確認していくと、葉物野菜は見た目通りの味と食感がしますから使い易そうですが、他の食材は私たちの知っている食材の味に当てはめると食感がかけ離れているものも多くあります。
ですが、何よりも重要となってくることは調味料です。香辛料などに似た粉末や塩はありましたが、さしすせその他の4つはありませんでした。バターやチーズのような乳製品もありませんから、調理の選択肢はかなり狭まりました。
「まあ、何とかなるか。」
板橋さんの頼もしい言葉に私とアルメルトさんの口元は緩んでしまいました。
因みにですが、板橋曰く、塩などの質はとても良いものなのだそうです。
食材の確認に時間をかけてしまった為、確認を終えた後すぐに調理に取りかかりました。焼くと鶏肉のような味がする肉で出汁をとり、それを炒め物やスープに使っていました。流石というべきでしょう、調味料が少ないことを感じさせない味に仕上がっていました。
夕食後、体を清め、歯を磨き、就寝の準備を整えますと、お嬢様方はすぐに眠りにつかれました。しばらくして皆さんの寝息が聞こえてきます。私もすぐに終わらせて明日に備えて眠りましょう。
私は外に出て1つ息を吐きます。昨日も今日も尾行には気をつけていましたし、そのような様子をありませんでした。ですが、現実としてお嬢様方を狙っているであろう方が12名ほどこの宿屋を囲んでおられます。その方々は統一して黒いコートのようなものを着ていらして、フードを被っていて顔を確認することはできません。
何故私たちのことを標的としているのか、どこで知ったのかはわかりません。しかし、大したことはありませんね。私が屋根の上に立っていますのに、気づく気配がありません。気づいていただけたのなら、ここから離れてからにしたのですが、仕方がありません。足音を殺して後ろから鼻と口を押さえ、首を切っていきます。
(そういえば、死体はどうしましょうか。今までのように片付けていただくことは出来ませんからね。まぁ、終えてから考えましょう。)
そして、私が最後の1人の背後に回った瞬間、私の手を避けるように前方へ動きつつ、こちらを振り返り距離をとりました。
「な、何者にゃ!?」
(にゃとはなんでしょう。)
不思議な語尾に首を傾げてしまいます。
「他の奴らとも連絡が取れないのもお前の仕業にゃ?私達に手を出したことを後悔させてやるにゃ!」
こちらへ距離を詰めてきます。両手にナイフが握られています。なかなかに速いですね。
(目的などを聞いてもいいかもしれません。1人残ったのは僥倖でしたね。)
手を伸ばしてきたところで両手首を切断し、足の筋に切れ目を入れます。これで良いでしょう。
まずはお顔を確認させていただきましょう。フードを取りますと、月の光に照らされて表れたのはとても可愛らしいお顔でした。年齢はお嬢様方と同じくらいでしょう。ですが、なによりも目を引くのは頭についている2つの猫のような耳でしょう。
そこで私はあることに気がつきました。
(なるほど。先程の不可思議な語尾と、この変装で正体を隠していたのですね。味方が殺されているにも関わらず、語尾で正体を隠していたということはあの動揺も演技だったのでしょう。思わず騙されてしまいました。)
「…覚悟はできてるにゃ。やるならさっさとやるにゃ。」
目を閉じ、口を固く結んでいます。死んでも情報は漏らさないということですか。素晴らしいプロ意識です。体が震えているのが気になりますが。
気になったことを少し試してみましょう。何故か動いている耳のようなものの片方を切り取ります。
「〜〜っ!!」
「…痛みがあるのですか。」
血も流れているようです。悪いことをしてしまったかもしれません。
「となると、本物の耳ですか。では、こちらには…」
本来であれば耳があるはずの場所はただ頭髪で覆われているだけでした。
「よくわかりませんが、話す気がないなら仕方がありませんね。」
私は彼女の鼻と口を塞ぎ、ナイフを滑らせました。




