第26話 お嬢様と暇つぶし
昼食も食べ終え、一休みします。特にすることもありません。皆様も手持ち無沙汰といった様子で、談笑の合間にちらちらと周りに目をやっていました。
(真智さんは大丈夫でしょうか。)
真智さんは先程お手洗いへ行ってから戻って来ていません。もう十数分程経ちました。
様子を確認しに行こうとして腰を上げた時、私の心配をよそに、呆気なく真智さんが戻ってきました。何故か嬉しそうな表情をなさっています。
「どうかしましたか。」
お手洗いの様子をつぶさに伝えられても困るのですが、先程気にした手前、声をかけます。
「未玖ちゃん、私の指見てて?」
「…はい。」
いきなりで驚きましたが、突拍子も無いことをするのは普段と変わりません。言葉の通りに真智さんがたてた人差し指をみます。
「行くよ?《水糸》」
言うと同時に真智さんは指をくるくると回します。そして指先から湧き出した水が新体操のリボンのように回ります。
「…もしかして、これを練習されていたんですか。」
「そう!すごくない!?」
「危険なのでやめてください。」
「…はい。」
真智さんの指から湧き続けていた水が止まります。ですが、濡れた床は戻りません。
「早く拭きましょう。」
「あっ!未玖ちゃん、これを火属性魔法で…」
「湿度が上がりますね。」
「風属性魔法で!」
「ここは室内なのですが。いいですから拭きましょう。」
「…はい。」
床を拭き終え、改めて真智さんに向き直ります。
「室内で魔法はやめて下さい。」
「うん、ごめん。気をつける。」
「お嬢様方が興味を示してしまったではないですか。」
先程からこちらをじっと見ています。
「ところで、水糸でしたか。糸という細さではない気がしますが。」
「細くもできるよ?でも、本物の糸くらいまで細くすると千切れちゃった。」
「そうですか。」
本物の糸のように使えるのであれば私も練習しようと思ったのですが、残念です。いえ、何かに使えるかもしれません。機会があれば練習しておきましょう。優先順位は低いですが。
「でも、いい考えかもしれません。」
「橘さん?」
「何もすることがなくては皆さん退屈でしょうから、何が芸でも披露するのはどうでしょうか。」
「橘さん、私は披露できるような芸なんてありませんけど。」
「…俺もだ。」
「頑張って考えて下さい。」
「橘さん、私はもういいの?」
「梨原さんは別のものをお願いします。では、順番を決めましょうか。」
橘さん、アルメルトさん、叶実さん、板橋さん、早奈恵さん、真智さん、私の順になりました。
「まずは私からですね。では、華恋お嬢様、好きな数字を2つ行っていただけますか?」
「2つ?ええっと、5と7?」
「一桁ではなくていいですよ。好きな数字をお願いします。」
「じゃあ、126と、824。」
「950ですね。では、次は西森さん。桁数を増やしてもいいので、3つ好きな数字をお願いします。」
「なら、1万2345と7万7777と9876でどうですか?」
「9万9998ですね。まあ、このような感じで暗算ができます。足し算だけですが。」
その後、お嬢様方がどんどん数を増やしていきました。最終的には正解を確認していた早奈恵さんが根を上げまして、21個で終了となりました。
橘さん曰く、
「仕事をしていたらできるようになりました。慣れると簡単ですよ。」
とのことでした。
次はアルメルトさんです。暫く悩んでいたようでしたが、軍人時代に習った武道の型を披露して下さいました。正しいのかはわかりませんでしたが、キレがあってとても良かったと思います。
次は叶実さんです。絵が得意なそうで、ボールペン一本でメモ帳に花房お嬢様を描かれていました。花房お嬢様は嬉しそうに受け取っていました。
次は板橋さんです。板橋さんは料理に関することと考えていましたが、いえ、多少は関係しているのですが、包丁でジャグリングをなさりました。お嬢様方は興奮して見ていらっしゃいましたが、私や橘さんは不安で仕方がありませんでした。6本目を加えようとしたところで止めさせていただきました。
次は早奈恵さんです。早奈恵さんは口笛で何曲か演奏されました。私は曲はあまりわかりませんが、皆様の希望を聞いて演奏していたので、かなりの種類演奏できるようです。口笛は音を変えられるのですね。
次は真智さんです。真智さんはモノマネをされていました。動物の鳴き声から芸能人の方、生活音なども再現していました。芸能人はわかりませんでしたが、動物や生活音などは本物と大差ないと思いました。ですが、中でも人気だったのは『毒に苦しむ人』でした。当然です。実際に死なない程度の毒を含んでいましたから。解毒剤も口に含んで最後はしっかりと解毒していました。
さて、最後は私ですが、皆さんのものを見ている間に1つ考えつきました。板橋さんから包丁を2本受け取り、隣から食材の1つを持ってきます。形は大根とほぼ変わりませんし、名前も太根ともう大根でいいのではと思いますが、その太根の、私の芸には邪魔な、上下の部分を切り、円柱型にします。
「いきます。《第一ノ矛|加速《acceleration》》」
言葉と共に回転しないよう上に放ります。それと同時に両手に1本ずつ持った包丁を振るいます。
形を崩さないよう、丁寧に、速く。
重力に従って落ちてきた太根を手の甲を下にして受け止めます。そして、そのままゆっくりとまな板に寝かせ、指で少し押します。
「高速いちょう切りです。」
私の切った部分同士が離れ、まな板に広がります。これは板橋さんに夕食で利用してもらいましょう。皆様を驚かすことができて満足です。
「…花園ちゃんの芸、練習してみるか…」
そんな板橋さんの呟きが聞こえました。




