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メイドは今日も共に行く  作者: 緋月 夜夏
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第23話 初依頼(中)

 部屋に入りますと、想像していたよりも広い部屋でした。倉庫として使われているためか、武器以外のものも転がっています。武器は種類ごとに仕分けられているようです。


「あんたで最後だな。自由に選んでくれていいぞ。他のやつももう選び始めてる。」


 扉の近くに立っていらした男性がそう仰りました。見るとお嬢様方は実際に手に持って試しているようです。


「ありがとうございます。大まかな武器の種類をお聞きしてもよろしいですか。」

「大まかって言ってもな…ほとんどは剣だぞ。」


 確かに大きさや形状に違いはありますが、9割程は剣の類いのようです。


「剣以外に弓などもあるようですね。」

「あぁ。まぁ、あるにはあるんだが、弓は経験がものをいうからな。使うにしても練習してからだろ。」

「そうですね。では、あそこにあるものはなんでしょう。」

「杖だろ?」

「杖ですよね。杖術に使うのですか。」

「杖術?あぁ、それなら別の杖だな。あそこらへんのは魔法杖だ。」

「魔法杖ですか。」

「あんたらの中に魔法師はいるのか?」

「そもそも魔法とはなんでしょう。」


 私のアレと同じようなものでしょうか。


「は?あー、そういやなんかそんなこと言われてたような。常識のない奴らが来るとか。」

「失礼な方ですね。」

「まぁ、実際そうにしか見えないけどな。逆に魔法を知らないでどうやって生きて来たのか不思議なくらいだ。」

「色々あるのですよ。魔法を使えない方もいらっしゃるのですか。」

「日常生活なら困ることはほとんどないが、戦闘用として考えると向き不向きがある。魔法師になるなら、神殿で診てもらってこいよ。」

「何をでしょう。」

「適性だよ。本当なら成人の儀の時に済ませるのが普通だけど、魔法も知らないなら済ませてないだろ。先にそっちに行って来たらどうだ?」

「わかりました。ありがとうございます。」


 まずは橘さんにお伝えしましょう。橘さんの元まで行き、耳元に口を近づけます。


「橘さん。少しいいですか。」

「どうかしましたか?」

「扉の前の方に教えていただいたのですが、この世界では魔法というものが一般的に使用されているようです。」

「…はい?」


 橘さんは目を丸くしながらこちらに振り向き、顔を近づけていた私と至近距離で見つめ合うことになりました。


「あっ…失礼しました。それで、魔法ですか。それは花園さんのものと同じということですか?」

「わかりません。ですが、適正もあるそうで、それを確認するために一度神殿に行かれてはどうかと薦められました。」

「…私だけでは判断しかねます。皆さんにも尋ねてみましょうか。」


 お嬢様方を除き、橘さんにした説明をします。


「魔法!?あの雷とか出すやつだよね!?」

「雷より火じゃない?何か丸焦げにしたり。」

「マジで別の世界ってことか?冗談じゃねぇぞ。」

「…魔法?」

「私達にも使えるってことですか?」

「得手不得手はあるそうですが、誰でも使えるようです。」

「真智さんと早奈恵さんは魔法って聞いただけでよくわかりますね?」

「いや、わかるでしょ?映画とかでよくあるし。」

「私は映画は観ませんから。」

「そういえば私と真智ちゃんが映画観に行くときもずっと断られてたね。何か理由があるの?」

「長い間外出するのは難しいので。」

「どれだけ心配症なの?1日くらい大丈夫でしょ。」

「大丈夫でなかったら責任が取れません。」

「未玖ちゃんって出不精?」

「面倒という理由で外出しないわけではありません。」

「面倒って理由は少しもないの?」

「…無いとは言えません。」

「なら、外出しなければいいよね?」

「まぁ、それなら構いません。」

「じゃあ、それで決まり!」

「…あの、西森さん、梨原さん、花園さん。話を戻しても良いでしょうか?」


 橘さんは少し呆れているようでした。


「魔法が私達の知る映画などのフィクションで用いられている魔法と同じならば、使えるようになるべきでしょう。ですが、お嬢様方が使うという話ならどうでしょう?」

「橘さんは反対なのですか。」

「いえ、私もお嬢様方が魔法を使えるようになれば今まで以上に安全な生活を送れるとも思います。ですが、反対意見もあるのでは無いかと思いまして。」

「私は私達の負担が減るし、いいと思います。」

「負担って…真智ちゃん…」

「いや、言い方は悪いかもだけど、実際そうじゃない?」

「そうですね。現状では全員が固まって行動を起こさなければなりませんから、非効率と言わざる終えません。」

「ほら、未玖ちゃんもこう言ってるよ?」

「そうね。」

「まぁ、お嬢様方にも分別ってもんはあるだろ。駄目だったらその時に考えようぜ。」

「アルメルトさんはどうですか。」

「魔法とはなんだ?」

「そこから話について来ていなかったのですね…えっと、未智さん、お願いします。」

「わ、私?えっと…えー、マジック?」

「その意味を聞いているんじゃないかしら?超常現象とか?」

「説明するとなると難しいですね…」

「…手品か?」

「似たようなものだと思います。私達の認識が正しいとも限りませんが。」

「一瞬で拳銃を出す手品が得意なやつもいた。」

「軍人時代にでしょうか。」

「そうだ。結局俺には出来なかった。」

「まぁ、奥の手って意味では同じかも?剣があるってことは魔法だけが使われるわけじゃないんだろうし。」

「そうね。使えたら便利くらいに考えておいた方がいいかもしれないわ。」

「では、皆さんも賛成ということでよろしいですね。では、お嬢様方にも伝えましょう。」


 お嬢様方には橘さんが伝えてくださりました。やはり戸惑っていましたが、琴音お嬢様と花房お嬢様は興奮しているようにも見えました。






 先程の扉の前に立っていた男性に道順を教えていただき、無事に神殿へとやってきました。礼拝目的なのでしょうか、神殿の近くは賑わいを見せていました。私の想像していた神殿とは少し違い、礼拝堂のように見えます。あまり違いはないのかもしれませんが、私は無宗教ですから詳しくありません。

 中に入りますと、礼拝している最中のようです。しばらく待ちますと、おそらく神官であろう方がこちらに気づき、話しかけてきました。


「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「魔法の適正を調べていただきたいのですが。」

「適性鑑定ですか。可能ですよ。鑑定なさる方はどなたでしょう?」

「全員なのですが。」

「全員、ですか?」


 訝しげな様子でこちらを一瞥しましたが、すぐに笑顔に戻りました。やはり私達の年齢で鑑定を受けるというのは珍しいのかもしれません。


「もしかして、皆さんは1つのパーティなのでしょうか?」

「はい。最近登録したばかりですが。」

「なるほど。成長と共に変化していることもありますからね。では、こちらについてきていただけますか。」


 案内されるまま付いて行きますと、別の神官の方がいらっしゃいました。案内を終えると先程の神官の方は戻られて行きました。


「代金は1人銀貨1枚になります。」


 そろそろどれがどの程度の価値なのか知っておくべきでしょう。現状では、鉄貨以外は判別できません。この街に入る際や宿での宿泊料金も鉄貨で済んでしまいました。


(今更ですが、橘さんは私の力について知っていらっしゃるのですから、橘さんの衣服のポケットにもものが入るようにしておけばよかったですね。帰ったら相談してみましょう。)


 私は昨日のように橘さんに硬貨をお見せしました。


「橘さん、わかりますか。」

「当然わかりません。鉄貨の件にしても運の要素が大部分を占めていましたし。」


 仕方ありません。


「《第ニノ盾|観測《observation》》」


『鉄貨:木貨5枚分の価値』

『銅貨:鉄貨2枚分の価値』

『銀貨:銅貨5枚分の価値』

『金貨:銀貨2枚分の価値』

『霊貨:金貨5枚分の価値』

『聖貨:霊貨2枚分の価値』

『王貨:聖貨5枚分の価値』


(2枚と5枚の繰り返しですか。日本円と同じですね。覚えるのにそれほど苦労はないかもしれません。)


「橘さん。これを渡していただけますか。」

「わかりました。これでよろしいでしょうか?」

「はい。金貨2枚と銀貨1枚ですね。確かに受け取りました。では、鑑定に入りますので、1人ずつこちらの椅子に座っていただけますか。」

「じゃあ、俺からでいいか?」


 最初に名乗りを上げたのは板橋さんでした。私を最初にしていただこうと考えていたのですが、大丈夫でしょう。


「では、あなたから。こちらの紙に手を置いてください。」

「こうか?」


 神官の方の指示通りに板橋さんは紙に手を置きました。


「《鑑定》」


(…これが魔法ですか。)


 私の力と大差ないようで、力を使う際に用いるエネルギーも同じようです。


「これで終了です。すでに自分のステータスが確認できるはずです。」

「…ああ。わかる。なんか色々書いてあるが。」

「あなたの適性属性は風と土ですね。土属性の方が少し適性が高いようですね。私にわかるのはここまでです。」

「ん?他にもいくつも見えてるが?」

「それは本人にしか見えません。私のしていることは穴をあけるようなものです。そしてその穴から出たものをその紙によって本人に見えるようにしています。ですから、私が見えるのはどの属性に適性があるかだけです。」

「ふ〜ん、簡単な仕事だな。」


(少し失礼ではありませんか。)


「あはは、仰る通りです。適性鑑定の料金もほとんどはその紙代で消えてしまうんですよ。」

「まぁいいか。よっこいしょっと。」


 板橋さんは椅子から立ち上がると、壁まで歩き、壁を背にして目を瞑りました。問題はなさそうですね。


「次はどうしましょうか。」

「私が行きます。」


 次に橘さんが椅子に座り、その次は華恋お嬢様と全員が無事に鑑定を終えることができました。






 鑑定を終えた後、再び武器を選ぶために戻りました。適性属性は、華恋お嬢様が風属性と光属性、麗華お嬢様は水属性と風属性と光属性、板橋さんは風属性と土属性、アルメルトさんは火属性と土属性、早奈恵さんは火属性と風属性と土属性と闇属性、橘さんは水属性と風属性と闇属性でした。しかし、琴音お嬢様は光属性に加え獣属性、花房お嬢様は風属性に加え花属性、叶実さんは水属性と土属性に加え雷属性、私は水属性と風属性と闇属性に加えて氷属性と判断されました。

 魔法の属性には基本属性と呼ばれる火属性・水属性・風属性・土属性・光属性・闇属性の6種類に加え、特殊属性と呼ばれる雷属性・氷属性・花属性・獣属性・毒属性・血属性の6種類があるそうです。

 適性は基本は1つか2つなのだそうで、3つある時点で珍しく、更に特殊属性に適性がある人が1度に複数来たことに驚いたそうです。神殿の鑑定役の中には1度も特殊属性を見ることなく退職した方もいると大変喜んでいるようでした。

 そして、一番喜ばれていたのは真智さんを鑑定した時でした。真智さんは特殊属性には適性がありませんでしたが、基本属性の6種類全てに適性があるそうです。その時、鑑定役の方は神官らしく神に泣きながら感謝を述べていました。


「花園さん?どうかされましたか?」

「いえ、なんでもありません。」


 私の手が止まっていることに気づかれた橘さんが私に声をかけてくださりました。


「橘さんは決まりましたか。」

「はい。私は魔法杖にしようと思います。」


 見ると手には杖が握られていました。部屋を見渡してみますと、お嬢様方全員と叶実さんに橘さんは魔法杖を、板橋さんにアルメルトさん、早苗さんに真智さんは剣を持っていました。


「皆さん決めるのが早いですね。」

「未玖ちゃんがぼーっとしてるからだよ。」

「そうね。どうかした?」


 手に剣を持った真智さんと早奈恵さんが話に加わってきました。


「いえ。なんでもありません。ところで、真智さんは剣で良かったのですか。」

「うん。まぁ、今回はね。剣の方が少なかったし。」

「確かにそうですね。私も剣にした方が良いかもしれません。」


 私も近くにある剣を手に取ります。

 …もう少し短い方が使いやすいかもしれません。


「真智さん、これよりも短いものを見ましたか。」

「えっ?えっと…早奈恵ちゃん?」

「なかったと思うけど。」

「そうですか。」


 普段ナイフを使っているせいでしょうね。緊急時には携帯しているナイフを使用すれば良いですが、基本的にはこちらにあるものから選ぶべきでしょう。


「短い剣なら、あちらの端の方にありましたよ。面白い形のものはあった気がしますけど、普通のはどうでしょう…?」

「見てきますね。」


(この木箱の中でしょうか。)


 蓋を開けると重なるように短剣が積まれていました。


(諸刃ばかりですね。片刃のものはありません。)


 レッグシースもありますが、スカートの丈が長いので取り出すのに時間がかかってしまいます。腰に巻くものも探すと、奥の方に1つだけ見つけることができました。左右に1本ずつ短剣が刺さっていますが、これで良いでしょう。


「花園さんはそれで良いのですか?」

「はい。一先ずはこれにします。」

「わかりました。神殿に行ったりして時間がかかってしまったので、すぐに依頼を決め、目的地に向かいましょう。」


 橘さんの言葉に従い、部屋から出ると、受付の方のアドバイスを聞きつつ、依頼を見繕いました。

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