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メイドは今日も共に行く  作者: 緋月 夜夏
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第22話 初依頼(上)

またまた期間が空いてしまいました。

 お嬢様方の身支度を終え、板橋さんとアルメルトさんも起きられたところで朝食を摂ります。お嬢様方の中でも特に琴音お嬢様は現状を楽しんでいるように見えます。小旅行と同じくらいに考えているのかもしれません。琴音お嬢様も何かしらの不安もあるのでしょうが、そのような中で自分や周りの人の不安を取り除くかのように行動できることは素晴らしいことです。意識してなのか無意識なのかはわかりませんが、どちらであってもなかなかできることではありません。成長している様が垣間見えて嬉しくなります。

 そのような感傷に浸っておりますと、橘さんがフォークを置かれました。


「今回も食事中ではありますが、話し合いたいことがあります。手を止める必要はありませんから、そのまま聞いてください。本日の予定ですが、候補として、別の宿泊施設を見て回ること、冒険者組合へ行き資金を集めること、情報を集めること、これは図書館などがあればそこで、ない場合は本を購入し、その本を読み、その後内容を共有します。どれも昼食前には終えて、その後は部屋から出ないようにしてください。」

「それは俺たちもか?」

「はい。板橋さんは特にですね。必要なことがあれば絶対に出ないように強制はできませんが、代わりが務まるなら私に伝えてくだされば、私が行います。」

「いや、逆だろ?俺が代わりにするべきじゃねぇのか?」

「いえ、板橋さんは今後本職の方でしていただくことがあります。」

「本職?」

「昼食と夕食、あとは余裕があれば間食の用意を頼みます。」

「それだけか?」

「はい。それでも板橋さんが一番大変かもしれません。すべきこともした方が良いこともほとんどわかっていない状況ですから。そして…アルメルトさんも板橋さんと行動を共にしていただけますか。」

「ああ。」

「おいおい、貴重な男手を使わない気か?俺の方はまぁ了解したが、コイツは別のことさせた方がいいだろ。」

「本当にすることがないんですよ。ですから、何かするべきことが決まったらしていただきます。それまでは板橋さんと共に行動してください。それとも、板橋さんは不服ですか?」

「いや、そんなことはねぇけどよぉ…コイツとの話は面白いしな。」

「でしたらいいですね。さて、話を戻しますが、宿泊施設と資金、情報の中から本日行うことを決めましょう。お嬢様方も考えてください。」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「決まりましたか?では、宿泊施設を探すことを優先すべきと考える人は挙手してください。」


 挙手されたのは琴音お嬢様、花房お嬢様、板橋さんの3名です。


「次に冒険者組合で資金を集めることを優先すべきと考える人。」


 挙手されたのは麗香お嬢様、早奈恵さん、真智さん、叶実さん、アルメルトさんの5名です。


「では、残りは情報を集めることを優先ということでよろしいですね。多数決で資金集めとなります。各々理由はあると思いますが、決定した以上従ってください。朝食を食べ終え次第、冒険者組合へ向かいましょう。」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 冒険者組合へ向かう途中にも商店が多く開かれています。置かれている食材は初めて見るものばかりで板橋さんの目が輝いています。


「宿に戻る時に購入すると思いますよ。」

「ああ。今から楽しみだ。」

「…馴染みのないものだとお腹を崩すこともあるので気をつけてくださいね。」

「それに関しては大丈夫だ。俺とアルの2人で毒味するからな。」

「何も大丈夫ではないのですが。」

「心配しなくても大丈夫だ。俺もいろんな食材は食べ慣れてるし、アルのやつも軍人時代に色々食ったらしいからな。」

「いつのまにかアルメルトさんと仲良くなられたのですか。」

「ん?どこの国のやつだろうと美味い料理を食いたいと思うのは当然だからな。料理の話してたら互いに遠慮がなくなってたぜ。」

「板橋さんらしいですね。」

「おうよ。」

「…板橋さん。正直に答えていただきたいのですが、お体の調子はいかがですか。」

「…お見通しってわけかい。」

「私でなくても気づく人はいるはずですよ。」

「あんまり言いたくはねぇが、昨日のあれが効いたみたいだな。」

「お嬢様方を運んでいただいたことですか。」

「ああ。やっぱり年なのかねぇ。腰が痛くてよ。」

「無茶なさるからです。そもそも板橋さんは普段から何か重いものを運んだりはしないでしょう。」

「それってお嬢様が重いって言ってるのと同じじゃねえのか?」

「当然重いでしょう。お嬢様がというよりは人である以上、重いものです。」

「そうだな。昔だったら軽々持てたはずなんだがなぁ…」

「人間、年には勝てませんよ。」

「ひでぇ言い方だな。その通りなんだけどよぉ…」

「歩く分には問題ありませんか。」

「ああ。段差があれば別だけどな。」

「もし辛くなったら誰でもいいので声をかけてください。悪化されては困ります。」

「なんかよぉ…この状況って祖父を心配する孫みたいだな。」

「私と板橋さんではそのくらいの年齢差がありますからね。」

「その割には落ち着き過ぎてる孫だなぁ。」

「そんなことはありませんよ。」

「花園ちゃんはそこらの大人よりよほどしっかりしてるよ。俺が子供だった頃とは大違いだ。」

「子供は育った環境が全てですから。私は私の育った環境に適したように育ち、板橋さんもその環境に適するように育ったに過ぎません。そこに優劣の差はありませんよ。」

「…花園ちゃんのその優しさも育った環境ってことかい。」

「私は優しいつもりはありませんけどね。もう目の前ですね。お疲れ様でした。」

「話してたら気が紛れて気にならなかったぜ。ありがとな。」

「いえ。こちらこそ。」


 冒険者組合の入り口の扉を開き、中へと入ります。本日も賑わっているようです。昨日とあまり変わらない光景が広がっています。


「とりあえず受付へ向かいましょう。」


 橘さんの言葉に従って移動します。やはり人数が多いためなのでしょうか、こちらに注目していらっしゃる方が多くいます。私が視線を向けると自然に目をそらしますが。やましい事でもあるのでしょう。


「こんにちは。」

「…ああ。依頼?」

「冒険者は依頼をこなすという事で良いのですか?」

「…質問を返されても困るんだが。」

「申し訳ありません。」

「はぁ…登録を済ませた時に説明を受けなかったのか?」

「詳しく説明は受けていません。私達も急いでいて、時間を取れませんでしたので。」

「…そうかい。じゃあ、説明させていただきますよ。」


 受付の方は曲げていた背筋を伸ばしました。


「冒険者は依頼を達成し、報酬を受け取る事で生計を立てるんだよ。まぁ、副業としてやっている人もいるけどね。依頼の難易度によって当然報酬も変わって、困難なものほど高く、簡単なものほど安くって感じに。魔物を狩ったり、要人の護衛だったりね。」

「魔物とは何でしょうか?」

「魔物は魔物だろう?」

「…?」

「…あんたらどんだけ箱入りだったんだよ。いや、どんだけ箱入りのお嬢様でも知ってるはずなんだけど。魔物ってのは、えっと、人間に害のある動物?」

「害獣ということでしょうか?」

「…まぁ、そんなところだ。で、害獣より強い。」

「それを魔物と言うんですね。」

「まぁ、それでいいや。で、冒険者にはランクがあって、そのランクによって受けられる難易度があるんだよ。下から白、黄、緑、赤、青、紫、黒の順に。あんたらは白だから受けられる依頼の難易度は黄までだな。まぁ、白から黄、緑はすぐに上がれるのから、難易度の高いものを受けたいなら数をこなすしかないな。後、緑以降は依頼とは別に試験を受けないと次のランクに進めない。…こんなところだな。あぁ、後、死なないでくれよな。そのあとの対応が面倒だから。」

「は、はぁ…」

「…とりあえず、武器とか揃えてきたらどうだ?貸すこともできるけど、慣れるためにも最初から自分で決めて買った方がいいぞ。まぁ、これはオレの経験則だけどね。」

「貴女も冒険者だったのですか?」

「青まではいったんだけどね。まぁ、色々あったんだよ。…さて、どうするんだ?依頼受けるのか?」

「武器は貸していただけるのですよね?」

「あっちだね。あそこに立ってる人いるだろ?そこで冒険証見せれば入れてくれるから。」

「ありがとうございます。」


 橘さんに続き、受付の方が教えてくださった部屋へ向かいます。


「なぁ。」


 何故か私だけ呼び止められてしまいました。


「…あぁ、あんたらは先に行っていいよ。オレが用あるのこの人だけだから。」

「板橋さんとアルメルトさんは先に行っていてください。」

「…あぁ。」

「…」


 お2人はこちらを気にしながらも橘さん達が入っていった部屋の中へ入りました。


「私に何の用でしょう。」

「…いや、身構える必要はないぜ?ちょっと聞きたいことがあってな。」

「なんでしょうか。」

「あの中で一番あんたが腕たつだろ?」

「わかりますか。」

「なんとなくだけどね。直感ってやつ。」

「素晴らしいですね。大切にしてください。」

「…なんか調子が狂うね。まぁいいや。それで、あんたらのパーティって女ばっかりじゃない?」

「そうですね。ほとんどが女性です。」

「女のあんたに忠告するのもどうかと思うんだけどさ。あんたが一番しっかりしてそうだから。どこであっても女1人で出歩かせちゃダメだ。街中でもな。あと、魔物を狩ってる時に近づいてくるやつは警戒しろ。魔物に殺されそうなところへ助けに入るなら別だが、魔物と戦ってる時に近づいてくるのはマナー違反だ。」

「敵は魔物だけではない、と言うことでしょうか。」

「簡単に言えばそうだな。魔物を知らないってだけで甘い考えしかなさそうだからな。一応忠告をって思ってよ。」

「ありがとうございます。私からも注意を促しておきます。」

「ああ。引き留めて悪かったな。あんたの連れも待ってるだろうから行ってやれ。」

「はい。」


 言葉遣いは良くありませんでしたが、優しい方なのかもしれません。彼女もかなり動けるようでしたし、ここの方はなかなかに侮れはしないようです。


(さて、私も入りましょうか。)


 遅ればせながらも、お嬢様方が先に入られた部屋の扉を開きました。

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