第19話 お嬢様と当主様の代理
遅いうえに短くて申し訳ありません。
横になってからしばらく経っても橘さんの寝息が聞こえてくることはありません。
「眠れないのですか。」
「…はい。」
「お使いになりますか。」
「何をですか?」
「睡眠薬です。」
橘さんは起きあがろうとされましたが、再び寝転がりました。
「これ以上私を疲れさせないでください。」
「失礼しました。」
「なんでこんなことになってしまったのでしょうか。」
「継野様が隠し持っていた物に原因があると思います。」
橘さんは今度こそ起き上がり、私の顔を見つめてきました。
「結局、継野様は…」
「はい。王城にいらっしゃいます。」
「こちらとは合流されないのですか?」
橘さんには私達のことをお伝えしたのでしたね。
「はい。正直に申しますと、継野様は足手まといですから。」
「厳しいのですね。」
「お嬢様方の安全が第一です。」
「それなのに芽津さんや花房様は助けるのですか?」
「…」
正直、橘さんがそう仰られたことにとても驚きました。確かに先程私が言った「お嬢様方」の中に花房お嬢様と芽津さんは含めてはいませんでした。橘さんに私の驚きが伝わってしまったのか苦笑いをされました。
「私は見て通り花園さんよりもだいぶ歳上ですからね。優先順位は分かっているつもりですよ。」
「失礼しました。」
「謝る必要はないですよ。継野様の話を聞いてから考えたことですから。それで、花房様と芽津さん、そして継野様にどのような違いがあるのですか。」
「いくつかありますが、全部挙げていると長くなってしまうので…橘さんは眠らなくて良いのですか。」
「…今夜は駄目ですね。眠れる気がしてきませんから起きていようと思います。」
「大丈夫ですか。」
「以前から徹夜も月に数回はしていましたからね。花園さんは大丈夫なのですか?」
「私も徹夜はそう珍しいことではありませんから大丈夫ですが…」
橘さんには眠っていただけないと困ります。
「橘さん、少し夜風にあたりに行きませんか。」
「突然どうされたんですか?」
「いえ、気分転換も悪くないかと。今夜は暖かいですから。」
「ですが、お嬢様方は寝ていらっしゃいますし…」
「はい。起こさずに行きましょう。」
「ですが…」
「橘さんが詳しく知りたがっていることも私が知る限りお伝えします。」
「…」
「そして、私からも橘さんに伝えなければならないことがあります。」
「それは、私だけにということですか?」
「はい。橘さんが当主様の一時的な代理であると判断し、伝えなければならないことがあります。」
「…わかりました。行きましょう。」
橘さんは起き上がり、軽く服の皺を直しました。私も立ち上がり玄関へと向かいます。
「板橋さんは大丈夫ですよね?」
「大丈夫です。アルメルトさんがわざわざ危害を加える理由がありませんから。」
その場合への対策も済ませてあります。
「行きましょう。」
玄関の扉を閉め、2つの扉に《第一ノ盾閉鎖》を使っておきます。そうして私達は夜の街へと繰り出して行きました。




