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メイドは今日も共に行く  作者: 緋月 夜夏
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第16話 お嬢様と組合(中)

間が空いてしまい申し訳ありません。

 店員の方に冒険者組合の場所を聞き、料金も少し多めに払っておきます。


「未玖ちゃんも会計済ませちゃったの!?」

「これから冒険者組合へ行かなくてはなりません。諦めましょう。」

「そんなぁ…」

「早奈恵さんはもう立ち直っていますよ。」

「そうだけどさぁ…」

「…冒険者組合への加入が素早く済めば、少し時間が空くかもしれませんね。」

「橘さん、急ぎましょう。」

「は、はい。」



 真智さんも手のひら返しが早いようで。橘さんも驚かれているではないですか。


「真智さんも、お嬢様方から離れてどうするのですか。」

「う、ごめんなさい。」

「早奈恵さんも真智さんのことお願いしますね。」

「ええ。いつものことだもの。」


 真智さんは早奈恵さんに連れて行かれ、お嬢様方の後ろに着きました。入れ替わるようにして叶実さんが前に来ます。それと同時に橘さんが耳打ちをされました。


「芽津さんも突然のことで多少は緊張なされているはずですから、私も後ろに移動しますね。」

「わかりました。」


 橘さんも後ろへ向かい、お嬢様方の前は私と芽津さんの2人になりました。


「気を遣わせてしまいましたよね。」


 苦笑いなさりながら叶実さんはおっしゃります。


「突然のことでしたからね。」

「未玖さんも同じですよ。」

「そうですね。もしかしたら、気がついていないだけで私も緊張しているのかもしれません。」

「そんな風には見えないですね。余裕があるように見えます。」

「そんなことありませんよ。お嬢様方に危害が加わらないよう、注意しなくてはなりませんから。」

「それって、未玖さんなら1人で何とかできるってことじゃないですか?」


 なるほど。確かに驕っていたかもしれませんね。


「私も、皆さんも。未玖さんにだけ負担を強いるつもりはありませんよ。」

「ありがとうございます。」

「まぁ、私に武力はありませんから、荒事に頼っていただいても困りますけどね。」

「叶実さんも護身術はできるのではないですか。」

「西森さんや梨原さんを見てしまうとそのようには言えません。そのお2人に頼られる未玖さんもですけどね。」


 苦笑いを浮かべ、軽く俯く叶実さん。


「そのようなことありませんよ。叶実さんも今日まで花房お嬢様を護っていらしたんですから。」

「ありがとうございます。」

「事実ですからね。」

「はぁ…慰められちゃいましたね。緊張もいつの間にかなくなっていました。」


 こちらを見る顔には先程とは毛色の違う苦笑いを浮かべられています。


「失礼だと思いますけど、未玖さんと話しているとおばあちゃんと話していると気分になります。」

「叶実さんのお祖母様ですか。」

「はい。成人する少し前に死んでしまったんですけど、小さい頃はお世話になっていました。」

「おばあちゃん子だったのですね。」

「はい。両親からもそう言われました。おばあちゃんといると嫌なことがあっても穏やかな気持ちになって、頭を撫でてもらうとすぐ機嫌を直す単純な子供だったみたいです。」

「私は代わりにはなれませんが、お役に立てたのなら良かったです。」

「ありがとうございます。ごめんなさい、突然私の身の上話をしてしまって。」

「構いませんよ。私も聞けて嬉しかったですから。」

「本当におばあちゃんと話しているみたいです。」

「…頭を撫でましょうか。」

「さすがにそこまで甘えられませんよ。まして、私より若い未玖さんには。」

「気にすることはないと思いますけどね。」

「私が気にします。あっ、未玖さん、あそこではないですか?」

「そうですね。到着です。」

「入りましょう。」


 叶実さんに続いて私も冒険者組合の建物へと入りました。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


side:橘 蛍



 お嬢様方の後ろへ移動し、前に目を向けた時には花園さんと芽津さんは会話を始めていました。お嬢様方も興奮した様子で周りの風景を見渡しています。


「あれ?橘さんもこっちに来たんですか?」

「はい。梨原さんの監督をしなくてはいけませんから。」

「良かったね、真智ちゃん。」

「良くないよ…」


 やはりお2人も仲睦まじいようですね。板橋さんとアルメルトさんも意外にも会話が弾んでいますね。食材の話でしょうか。アルメルトさん何故そのようなことに詳しいのでしょうか?


「そういえば…」


先程のお2人の発言について尋ねたいことがありました。


「梨原さん、西森さん。」

「橘さん?私、何もしてませんよ。」

「私にも声をかけているんだから怒っているわけではないでしょう。」

「はい。ところで、お2人は以前使用人の教育機関へ通われていたんですよね?」

「はい。私も真智ちゃんも通っていましたよ。」

「お2人とも主席で卒業されたのですよね。」

「はい。聖家の雇用条件の1つが主席または次席での卒業でしたから。」

「そうだったのですか…」


 使用人の雇用に関しては何も知らされていませんでしたが、そのような厳しい条件があったのですね。


「西森さんと同期で次席の方は聖家へ志願しなかったのですか?」

「いえ。そんなことはないと思いますよ。聖家の給料や待遇は他と比べても破格ですから。」

「西森さんと同時期に来られた方はいませんでしたよね?」

「不採用と判断されたのでしょう。」

「雇用条件は満たされているのでは?」

「雇用条件の1つは、ですね。先程お伝えしたものに加えてもう1つ、試験官の方の誰か1人を倒すというものがあります。」

「はい?」

「お嬢様を守る力があるかの判断ですね。後から知ったことですが、試験官の方は聖家の使用人が務めていたようです。」

「こんな身近に私の知らないことがあったとは…」


 そんな殺伐としたことをされていたのですか。いえ、ある程度護衛役としても雇われているとは知っていましたが…


「試験官はえっと、7、8人でしたか?」

「私の時は10人くらいいたと思うけど…」


 そういえば、毎年一度だけ数人が休むことがありましたね。その日元々休みだった方と合わせて試験官をされていたのかもしれません。


「そこで初めて未玖ちゃんにお会いしました。」

「花園さんも試験官をされていたのですか。」

「華恋お嬢様の専属として試験官をされているみたいです。」

「私の時もいましたね。」

「花園さんも苦労されていますね。」

「最初は驚きましたよ。まだ10歳程の子供が試験官の方に並んでいるんですよ。思わず未玖ちゃん本人に尋ねてしまいました。」

「早奈恵ちゃんの時もあったんだ。私の時も同じことがあったよ。」

「花園さんはお若いですからね。」

「そうなんですよ。ですから私も含め未玖さんに殺到してしまって…その時は他の試験官の方が苦笑いしているのは自分のところへ1人も来ていないからだと思っていたのですけど、良く考えるべきでした。」

「その言い方では、主席であるお2人でも倒せなかったのですか?」

「はい。ハンデも貰ったんですけどね。『私はあなたの最初の攻撃を受け止めも受け流しもしますが、避けはしません。』と言われました。当時は主席で卒業と悦に入っていた部分もあり、舐められたものだと思ったんですけど、それでもダメでした。」

「それは、花園さんがかなり不利だと思いますが…」

「それでも、です。私は『約束は守ってくださいね。』と紅茶を用意して未玖ちゃんに渡しました。もちろん強力な毒を入れて。」

「…はい?」


 (ど、毒?私、何人かの使用人が護身用として睡眠導入剤のようなものを持っていると聞いたことはありましたけど…)


「致死性の毒でしたから、もちろん手遅れになる前に解毒剤は渡すつもりでしたよ。」

「いえ、当然といった顔でそのようなことを仰るあなたの方が怖いのですけど。」

「まぁ、むかしのことですから。」

「…その後、どうなったのですか?」

「約束を守り、未玖ちゃんはそれを飲みました。」

「はい?」

「その後、アドバイスをされました。」

「…」

「『毒を入れる紅茶も選ぶべきでしたね。これでは味ですぐに気がつかれてしまいます。味を試したことはありますか?もしないなら実際に試してみてはいかがでしょうか。珍しい毒ではありますが、解毒剤も存在しますし、すぐに解毒剤を摂取すれば、後遺症も残りません。違和感の少ない組み合わせを見つけてはいかがでしょう。』と言われました。」

「それは…」

「私はその時に敵わないと悟りまして、すぐに謝りながら解毒剤を渡そうとすると『試験ですからお気になさらず。解毒剤は勿体無いから結構ですよ。』と言われ、当然信じられず、解毒剤を渡そうとしたんですが、いつまでも効いてくる様子がなかったため部屋を出ようとしました。ですが、30分経つか試験官を倒さないと部屋の出口が開かない仕組みでしたので、その場に立ち尽くしていたんですよ。」

「それは…気まずそうですね。」

「いえ、すぐに未玖ちゃんが『そういえばまだ開かないのでしたね。時間もありますから、あとは普通に紅茶を楽しみましょうか。』と言いまして…」

「楽しめたのですか?」

「はい。とても楽しかったですし、紅茶も美味しかったです。」

「…何者なのでしょう?」

「さぁ…私の中の10歳像が崩れた瞬間でした。」

「私の時も紅茶飲みました。私の場合はナイフと銃で真っ向から戦って負けましたけど。」

「だから先程頼りになると仰ってたんですね。この話をした後すぐに花園さんが怒っていたのは何故ですか?」

「お嬢様方に知られてはならないので。もちろん緊急時は別ですが。」

「お嬢様方に怖がられて専属から外されたら本末転倒だからね。」

「大変なんですね。」

「そういえば思い出しましたけど、私と未玖ちゃんが紅茶を飲んでいるときに、『聖家では当主様の専属の方が最も強いですよ。当然私よりも。』と聞かされて本当に背筋が凍る思いでした。」

「なんですかそれは!」


 いきなりのことに驚きました。そんなわけがありません。私は一般的な力しかありません。ナイフや銃なんて持ったこともありませんし、毒も扱ったことはありません。

 そのことを話すとお2人とも驚いていましたが、専属使用人ではなく秘書という扱いになっていて銃などを持たないのでは、という結論になりました。銃などを持っている方がいるということ自体が驚きなのですが、庭師や料理人などお嬢様方とあまり関わりのない方以外の使用人は全員がもっているそうです。


 私が知らなかっただけで、私はかなり怖いところにいたのですね…

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