第15話 お嬢様と組合(上)
間が空いてしまい申し訳ありません。
店員に頼んでいた料理が運ばれてきます。飲み物が全員に配られたところで橘さんが話し始めました。
「お嬢様方も食べながらで良いので聞いてください。現状、私達はお屋敷に帰る手段がわかっていません。道も土を固めただけのもの以外見かけておりませんし、車の音も聞いておりません。何より現在地がわかりません。」
「それって、大丈夫なんですか?」
琴音お嬢様が不安そうに尋ねられます。
「…しばらくはここで生活していただくことになります。そのためには組合に所属し、身分証を作らなくてはならないようです。」
「組合、ですか?」
「はい。組合の種類は冒険者組合・薬師組合・商人組合・鍛冶屋組合・警備組合の5つあるそうですが、どれに加入しても構わないそうです。」
「組合…ギルドのことですね!」
「れ、麗香お嬢様?」
「あっ、いえ、失礼しました…」
一体どうされたのでしょう。早奈恵さんが声をかけなければ、私が声をかけるところでした。
「ギルド、ですか。まぁ、意味は間違っていませんけど…」
「いえ、あの、橘さんも忘れてください。」
ギルドというと昔の組合の呼び方でしたか。わざわざ呼び方を変える必要もありませんし、麗香お嬢様の言葉通りに忘れておきましょう。
「話を進めます。組合の加盟の条件は特にないようですから、どれを選んでも構わないそうです。」
「なら、俺は…商人か?その中で料理を振る舞うなら多分それだろ。」
「板橋さんがそうされたいのもわかりますが、私は全員が同じ組合に加盟するのが良いと思います。」
「ん?どうしてだ?」
「組合ということは集会があるかもしれません。そのような時に個々で別々の組合に所属していると何が起こるかわかりません。心配のし過ぎかもしれませんが、想定しておくに損はありません。」
「あー、確かにな。」
「それに、この国はあまり治安が良いとは言えませんからね。」
「花園さん、そうなのですか?」
「はい。私達がよそ者とわかったのか何度か物を盗ろうと考えておられました。」
「大丈夫でしたか?」
「もちろんです。お金のこともありますから、手を伸ばしてきたところで指を握っておきました。」
「そ、そうでしたか。花園さんもこうおっしゃっていますから、1つの組合に全員で加盟するのが良いと思います。」
「そういうことならしかたねぇな。」
「構わない。」
「私も大丈夫です。」
「私もよくわからなかったけど、なんでもいいです。」
「わ、私も大丈夫です。」
「…」
「華恋お嬢様はいかがですか。」
「えっ…ええ。問題ないわ。」
「叶実さんも問題ないでしょうか。」
「はい。」
「では、全員で1つの組合に加入することにしましょう。皆さんはどの組合が良いとお考えのですか?」
「安全面なら商人じゃねぇか?外に出る必要もないだろ。」
「板橋さん…全ての商人が店舗を持てるわけではありません。」
板橋さんだけなら問題ないのでしょうが。
「なら全員で1つの店で働けばいいだろ?」
「そこが安全である保証がありません。」
「どの組合にも保証はないだろ?」
「そもそも、この人数が働ける場所を探すのに時間がかかります。」
「それは、確かにな。」
「それでは薬師組合と鍛冶屋組合も除外でしょうか。」
「警備組合に関してはこちらが警備してほしい側ですからね。」
板橋さんと橘さんが中心となっているため、他の方は口を挟まないようにしていましたが、真智さんが話に加わります。
「全員で行動するなら冒険者組合ってことですか?」
「一番『ない』選択肢じゃねぇか?」
「板橋さんのいう通りです。具体的な内容はわかりませんが、他の4つと比べても危険であると考えます。」
「冒険者なんですから、宝物を探すんじゃないんですか?」
「どれほど宝物があるのですか?組合となっている以上、かなりの方が加盟しているはずです。その方々が全員、毎日宝物を発見できますか?そして、宝物といっても金銀財宝だけではありません。歴史的価値のあるものも宝物とするならば収益が入らない可能性もあります。」
「未玖ちゃんがたくさん貰ってきたんですよね?」
「ですが、いつかは尽きるでしょう。…ですよね?」
私に尋ねられましてもわかりません。
「それに安全面なら全く問題ないですよね?」
「何故ですか?」
「何故って…ねぇ?」
真智さんが早奈恵さんへ同意を求めるように目を向けると、早奈恵さんも頷きます。
「「未玖ちゃんの側が一番安全|(です。)」」
いきなり何をいうのですか。
橘さんも板橋さんもこちらを振り向かなくて結構です。
「梨原さん。」
「どうしたの未玖ちゃん?あと、なんで苗字呼び?」
「後でお話がありますので時間を空けておいて下さい。」
「えっ?ちょっと未玖ちゃん?こ、怖いよ?」
「真智ちゃんの自業自得ね。」
「早奈恵ちゃん!?ここで手のひら返しはないでしょ!?」
「早奈恵さんもですからね。」
「えっ!?」
「早奈恵ちゃんの自業自得ね。」
「真智ちゃん、声真似のつもり?全然似てないからね。」
「…今すぐにしましょうか。」
「もー、未玖ちゃん冗談きついよー。」
「…」
「あはは…えっ、うそ?うそだよね!?」
「…いってらっしゃい。」
「貴女もです。」
「…ごめんなさい。」
「すみません、橘さん。少し席を外します。」
「は、はい。」
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「ただいま戻りました。」
「おかえりな…無事ですか?」
「はい…」
「…大丈夫です…」
「お2人とも、演技はそこまでにしましょう。」
少し注意のようなものをしただけなのですから、そのような過剰な疲労を抱えているような表情をしないでください。勘違いされてしまいます。
「演技じゃないんだけど…?」
「頭痛い…」
「…」
「お2人のことはひとまずおいておきましょう。花園さん、最終的に冒険者組合に全員で加入することに決定しました。」
「…正気ですか?」
思わず口に出てしましいました。
「失礼しました。ですが、危険すぎるのではないでしょうか?」
「今は暫定です。第1に優先すべきは全員で行動を共にすることです。冒険というからには1人で行動することはないでしょう。」
「…確かにそうですが…私達はともかく、失礼にあたるでしょうが、お嬢様方が満足にこなせるとは思いません。」
お嬢様方は体を鍛えるということは一切しておりません。お嬢様であられるのですから当然とも言えます。
「お嬢様方にも確認はとりました。過半数に承諾を得ていますから、花園さんも了解してください。」
「…。はい。」
お嬢様方が落ち着きがなかったのはそのせいだったようです。
「では、早速向かいましょうか。」
「あの…橘さん?私達の分の食事はどこですか?」
真智さんが恐る恐る尋ねます。
「私達で片付けておきました。」
「うそですよね?私、美味しそうなものを最後に残しておいたんですけど…」
「美味しくいただきました。」
「私の分も…」
真智さんに続いて早奈恵さんも崩れ落ちました。
「…向かいましょうか。」
「はい。」