第14話 お嬢様と現状確認
橘さんが聞いてきたところによりますと、組合は5種類あるそうで、同時に所属可能なのは2つまでということです。
「組合を決定する前に休憩を入れましょう。全員でテーブルを囲める飲食店も教えていただきました。」
案内された飲食店に入り、店員さんに案内され席に着きます。
「いらっしゃいませ。お決まりになったらお呼びください。」
メニュー表を置き、別のお客様に呼ばれていってしまいました。
「ところで早奈恵さん、お嬢様方はどのくらいで起きられますか。」
「そこまで強くないはずなので、少し強めに肩を揺らしたりすれば起きるはずだけど…」
「ここでしばらく眠っていただきましょうか。いきなりのことで落ち着かれるまでに時間が必要かもしれません。」
「なぁ、花園ちゃん。」
「どうかされましたか。」
メニュー表を開き、沈黙を保っていた板橋さんが話しかけてきました。私に話しかけたのは私が隣に座っているからでしょう。
「これ、なんて書いてあるかわかるか?」
「ゴブリンの骨つき肉では?」
「そうだよな。」
「なぜそんな質問を?」
「いや、こんな文字見たことがない。」
「文字ですか?」
板橋さんの言葉で再びメニュー表に目を落とします。
「これは…見たことがありませんね?」
「だよな。でも、読めたよな?」
「…橘さん、メニュー表を見ましたか。」
「メニュー表ですか?」
「どこの文字かわかりますか。」
「これは…気持ちが悪いですね。何を書いてあるのかは理解できますが、文字自体は見たことがありません。」
橘さんは当主様と共に多くの国へ訪問していますし、板橋さんは珍しい食材を食べることを趣味になさっている関係で、多くの国の言語を覚えているとおっしゃっていました。
そのお二人がわからないとなると、とても珍しいのではないのでしょうか
「この町限定ですと、町というよりは集落や民族と言った方が良いかもしれませんね。」
「そうだな。俺達が知らないだけかもしれないが、民族言語の可能性が高いな。」
「板橋さん、軍用言語の可能性もあるのではないですか。」
「板橋さんと花園さんのどちらであっても内容は理解できますから問題がないといえばないですが、書くことはできませんね。」
「そういえば、橘さん、よくあれが鉄貨だとわかりましたね。」
「模様の複雑さでおおよその価値を仮定して、あとは勘で選びました。」
「凄いですね。」
「ああ。あんな自信満々な表情だったのに実は勘だったのか。」
「慣れていますからね。」
会話が一区切りし、他の方々の様子を窺うと、真智さんと早奈恵さん、そして叶実さんは談笑されていて、アルメルトさんはメニュー表を眺めていました。
「アルメルトさんも見たことありませんか。」
「…ああ。食材も、聞いたことがない。」
「そうだ!!」
いきなり目を輝かせた板橋さんが立ち上がりました。
「見たこともない食材があるかもしれねぇ!」
「板橋さん、とりあえず座ってください。」
周りの方々が不審そうな顔でこちらを見ています。
「そのような余裕がありますか?来宇様とも連絡がつきません。というより、電波が来ていません。」
「ここがどこかもわかりませんからね。私達では食べることができない食材もある可能性がありますから、無闇に手を出すのは控えるべきでしょう。」
「そんなぁ…」
板橋さんがテーブルに突っ伏されました。橘さんが呆れたような目をしているのは気のせいではないでしょう。
「花園さん、この硬貨は何処で?」
「王様と『交渉』していただきました。」
「そ、そうですか。ちなみにどのくらいでしょうか。」
「かなり多いのでここでは出さない方が良いと思います。」
「そんなにですか?一体何処に?」
「橘さん達は私と別行動になってから兵士に会いましたか?」
「4人だけでした。殆どの方が花園さんの方にいたのでしょう。」
「兵士の方に何かおかしな点はありませんでしたか。」
「私にはなんとも。すぐに梨原さんと西森さんが対処されましたので。」
「そうでしたか。梨原さん。真智さん。」
「どうかした?」
「どうかしましたか?」
「兵士の方におかしな点はありませんでしたか?」
「特に気がつきませんでした。」
「私も特に…あっ!」
真智さんが何かに気がついたのか声をあげました。
「そういえば、兵士の武器がすごく重かった。」
「重いですか?」
「そう。私じゃ一瞬持っただけで落としちゃった。」
「それって真智ちゃんが力が弱いだけじゃない?」
「私はか弱い女の子だからね!」
「か弱いって…それに女の子って歳でもないでしょう…」
「そういうこと言わないで〜!」
「はいはい。それで、真面目な話、そこまで重かったの?」
「少なくとも私じゃ持つので一苦労かな。構えたりも難しそう。」
「200kgくらいありそうですか。」
「多分それよりも重いと思う。」
「…それって…」
「…」
「真智さんがゴリラ並みってことですか?」
「未玖ちゃん!?冗談でもひどいよ!?」
「少し場の空気を和ませようかと思いまして…」
「それを言ったら2人だってそのくらい持てるでしょ!?」
「私はそこまでじゃないけど?」
「私もですね。」
「ここで裏切るの!?」
このような状況ですが、思わず笑みが溢れます。絶望してなんていられませんからね。
「私が対応した兵士の方々も不思議なことをしてきました。」
「不思議なことって?」
「まず、靄のようなものを方向性を持たせて放って来たり、植物が動いたりしていました。」
「…つ、疲れてるとかじゃなくて?」
「そういうことにしておきますか?」
「ごめん、現実逃避したくなった。」
「私も真智ちゃんと同じ。未玖ちゃんが嘘をつかないのは知ってるけど、非現実過ぎる。」
「…そうですね。」
(あのような力を見たのは初めてですし、あれほど数がいたことには驚かせられました。)
「そんなことがあったのによく未玖ちゃん大丈夫だったね。」
「ええ。運が良かったです。」
「あの、それで花園さん?お金の件はどうなったのでしょう?」
「ああ、その件でしたね。」
(ひとまずは誤魔化しておきましょう。)
「あの王様が細工をしてくださって、私の服のポケットの中にかなりの量の物が入れられるようになりまして、」
「ポケットに入る物の量が増える細工ですか?」
「ええ。そのようなこと普通では考えられません。ですが、実際にそうなってしまっています。ですから、皆さんにおかしな点を尋ねました。」
「成る程…」
橘さんは納得してくださったのか、1つ頷きました。
「なんか変なことになったな。」
「…今はそのことについて深く考えることは保留にしましょう。お嬢様方を起こしてくださいますか。」
お嬢様の肩を揺らすと、目をこすりながら目を覚ましました。真智さんに早奈恵さん、叶実さんもそれぞれお嬢様を起こしています。
橘さんがお嬢様方が目を覚まされたのを確認します。
「目を覚まされたばかりで申し訳ありませんが、食事にしましょう。マナー違反にはなりますが、食事をとりながら今後のことについて話し合いましょう。」
お嬢様方は不思議そうな顔をされましたが、お腹が空いてらっしゃったのか、メニュー表を開きその文字に不思議そうな表情を浮かべたものの、構わず料理を頼んでいました。