第13話 お嬢様と城下町へ
王様についていきますと、廊下の突き当たりに案内されました。
「その魔法紋の上へ…」
「いつまでも辛気臭い顔をなさらないでください。」
「…」
(どの口が言うんだ、と心の声が聞こえてきそうですね。)
王様が指差している床には家紋のようなものが描かれています。
「この上に立てば良いのですか?」
「はい。そこから1階の魔法紋まで行くことができます。」
(《契約》で手出しは出来なくなっているはずですが、もしかしたら何らかの手段によって反故にされているかもしれません。)
「あなたから先にお願い頂けますか。」
「は、はぁ…構いませんが。」
躊躇うことなくそこに立たれます。私の身に危険が及ぶ可能性は無いとは言えませんが、そんなことを言っていては何も変わりません。
私も王様にならい、その上に立ちます。王様はそれを確認すると、靴のつま先で床を叩きます。それと同時に床に描かれていた模様が光りました。
一瞬のうちに目の前の光景が変化していました。置かれている壺や、部屋の位置が変わっています。
(…なるほど。)
兵士の方々を相手にした時も思いましたが、私の知らないことがこの屋敷の中には多くあるようです。
「さぁ、こちらです。」
そこまで急がなくても良いでしょうに。早く出て行って欲しいのはわかりますが。
(窓から出ても良いのですが…)
折角ですから、最後まで案内していただきましょう。
案内に沿って進むと、大きな扉がありました。
「では、お気をつけて。」
「案内ありがとうございました。」
一応感謝の言葉を伝え、扉を開けました。
「あっ!未玖ちゃん!」
「花園さん、お疲れ様です。」
「お疲れ様。」
「未玖さん、ご無事で良かったです。」
玄関先で待ってくださっていたようです。
「ありがとうございます。皆さんもご無事で良かったです。」
お嬢様方は眠っていらっしゃるようですので、少し声を抑えます。
「とりあえず、ここから離れましょうか。」
橘さんの提案に同意し、私達は屋敷から離れました。そう遠くないところに建築物が建ち並んでいます。ざっと100mほどでしょうか。
板橋さんは華恋お嬢様と麗香お嬢様を両脇に抱えられています。ちょうど半分くらいですね。
「板橋さん、変わりましょうか。」
「いや、花園ちゃんも頑張ったんだろ?こういうときに男が頑張らなくてどうするよ!」
(このような状況ですから、私の性別を明かしても良いとも思いますが、その事はまたの機会にしましょう。お嬢様も眠っておられますし、これ以上に皆さんを混乱させるわけには行けませんからね。)
「…そうですか。ありがとうございます。」
「おうよ!」
お2人は板橋に任せましょう。板橋さんと同じようにして琴音お嬢様と花房お嬢様を抱えている黒人の方へ歩み寄ります。
「変わりましょうか。」
「…大丈夫だ。」
「私はあなたに、大切なことを聞いておかなければなりません。」
その言葉に黒人の方は私に顔を向けます。そしてしっかりと目を合わせました。私も目をそらすことなく、言葉を発しました。
「お名前はなんとおっしゃるのですか。」
「は?」
黒人の方が思わずといった表情で声を上げました。
「ですから、お名前です。お呼びする時に不便ですからね。」
「…アルメルトだ。アルメルト=ティムベル。」
「アルメルトさんですね。それにしても、日本語お上手ですね。」
「…5歳から日本に住んでいる。」
「あまり喋られなかったのは、やはり継野様にでしょうか。」
「ああ。必要なこと以外は喋るなと。」
「そうでしたか。」
「お話しの途中失礼します。」
「橘さん。どうかされましたか。」
「いえ、その…継野様はどちらに?」
「ああ。それでしたら…」
そこで言葉を区切り、私は屋敷の方へ振り返りました。
「気絶されていましたので、邪魔になるかと思い残してきました。」
「…」
「どうかされましたか。」
「…いえ…」
皆さん、そんな引きつった表情をされないでください。
町の入り口に着きますと、門の両脇に立っていらした方々の一方が寄ってきました。敵意も無いようで、橘さんが対応してくださいます。
「失礼します。身分証はお持ちですか?」
「身分証ですか?」
「入門するには身分証が必要になります。盗賊も少なくありませんので。」
「身分証は持っていません。」
「失礼ですが、あなた方は王族やそれに準ずる上流階級の方でしょうか?」
「いえ。…平民です。」
王族に上流階級ということから判断したのでしょうか。
「そうでしたか。でしたら、後日、組合で身分証を発行してもらい、私どものところまで持ってきていただけますか。その場合、お1人につき金貨1枚を預からせていただきます。。」
「金貨ですか?」
橘さんは金貨を持っていません。私は小声で話しかけます。
(橘さん、これを。)
(これは…どこで?)
(後ほど詳しく説明いたします。)
(わかりました。)
橘さんにポケットから取り出した7種類の硬貨を見せます。
(王様に名称を聞いておくべきでしたね。)
橘さんは7種類の硬貨を睨むように観察して、1つの硬貨を指差しました。
(花園さん、これをあと10枚お願いします。)
(はい。)
再びポケットの中に手を入れ、橘さんの選ばれた種類の硬貨を10枚取り出します。
(どうぞ。)
(ありがとうございます。)
「これで良いでしょうか?」
「はい。11枚ありますね。では、一人一人こちらの審判札に触れていただけますか。」
「わかりました。」
橘さんが指示通りに札に触れましたが、何も変化しません。
「はい。大丈夫ですね。」
私達も順番に触れていきます。当然といえば当然ですが、皆さんが触れても変化はありませんでした。
(私にも反応しないのは何故でしょうか。…気にしても仕方がありませんか。)
「では、入門を許可します。《開門》」
その言葉に反応して門が開きました。
(誰かがやってくるとその都度門を開けているのでしょうか。大変な業務ですね。)
門番の方に見送られ、私達はようやく町の中へ入ることができます。目に見える限り、建材には木のみを用いており、レンガやコンクリートは見当たりません。
(町というよりは集落なのでしょうか。)
「まずは組合という場所へ向かいましょう。」
「板橋さん、アルメルトさん。もうしばらくお願いします。」
「おう!」「…」
「ところで…橘さんと未玖ちゃんは組合の場所わかります?」
早奈恵さんの言葉に動きが止まります。
「…花園さん、わかりますか?」
「存じ上げません。」
「…私が尋ねてきますので、少し待っていてください。」
「お願いします。」