第12話 お嬢様と王城脱出(後)
再び蔦のようなものを出される前に4人の兵士に近づきます。ちょうど四角のような形に立たれていて、私に近い方の二人は槍を、遠い方の二人は丸い水晶のようなものが取り付けられた杖をこちらに向けています。先程の蔦が生える前と棘のようなものが出てくる前にそれが光っていたので、仕掛けはあの水晶でしょう。そして、光ってから発生まで先程の同じ時間差があるのでしたら大したことはありません。
二人の兵士が持つ槍は十文字槍など横に伸びる刃があるわけでもなく、また振っても何かを斬ることができるわけでもない槍です。あれでは私に致命傷を与えられる可能性があるのは刺突のみでしょう。脳天に振られれば危ないかもしれませんが。
私はナイフの間合いまで一気に近づきます。そしてそのまま槍を持つ二人の間に入り、左手で逆手に握ったナイフを左側、真横に突き出します。私一人が相手ということもあってか槍を持つ二人の間はそう離れていません。頸動脈へ突き刺さったナイフを、私の体ごと回転させるようにしながら一人目の前方へと滑らせます。その勢いのまま、今度はもう一人の槍を持つ方の前方から後方へと首を断ち切ります。そしてナイフを順手に持ち替え、左の頸動脈に突き刺します。首の皮と肉をノコの方で無理矢理引き千切り、最後の方は右の頸動脈、首の骨、左の頸動脈を通すように突き刺します。
これは私の叔父にあたる人に教えていただきました。教えていただいていたものの極限られた場合でしか使用できないため使う機会は滅多にありません。叔父はナイフの軌道が数字の『2』に見えるので洒落で「にぎり」と呼んでいました。叔父はこのようなものばかり教えてくださったので、当時は実際に使うことはないと思っていましたが予想より使い易いです。
4人の血がかかる前に次へと向かいます。
あと13人です。槍を持つ方が6人、杖を持つ方が4人、両手にナイフを持つ方が2人、そして王様がいます。
面倒そうな杖の方を優先しましょう。母のナイフは十分にあります。口を開けて呆けている2人はまだ経験が浅いのでしょう。口のナイフを投げ、首の後ろへと貫通させます。その2人は同時に膝をつき、そして上半身は後ろへと倒れおかしな格好となっています。残りの2人のうち1人は何かを唱えていて、1人は持っている杖の水晶のが光っています。何かを唱えている方へナイフを軽く投げます。飛んでくるナイフで気をそらし、私はもう1人の方へ走ります。今度は蔦ではなく壁のようなものが生えてきました。床から徐々に高さを増していくようなのですぐに飛び越えてしまいます。杖を奪い、側頭部に蹴りを入れると頭部がボールのように飛んでいき、壁へとぶつかり潰れました。最後の1人に向かおうとすると比較的軽装備であった両手にナイフを持つ2人が迫ってきています。ナイフも節約しましょう。ナイフを持ち突き出してくる手をうまく曲げ、互いにの心臓へと誘導します。
ついでに両肩を外し、いただいたナイフで最後の杖を持った方の額を貫きます。
また、この間槍を持たれている方に邪魔をされていません。案の定動きが鈍く、助けに来れていません。
あとは槍を持ち、重装備をされている方と王様だけです。すぐに終わらせましょう。
「さて、あなたで最後ですよ。」
兵士の方々はすでに事切れています。
「ば、化け物が…」
呻きながらも言葉を返してくるのは人の上に立つものの意地でしょうか?
足の腱は切られ、右腕のついていた場所にはすでに何も存在しません。左腕はバネのような形になっています。それでも彼はこちらを睨みつけています。
このまま放置すれば、彼も兵士の方々と同じ道を行くのでしょう。それ手段の1つではありますが、私はメイドですからね。主人の利益が一番です。
「…助けて欲しいですか?」
「っ!?あ、ああ!」
私の言葉に希望を持ったのでしょう。先程までの睨む目とは打って変わって縋るような目をし始めました。あの態度からすると普段はしないようですし、彼に媚びてくる方もいたのでしょうから、そこから学んだのかもしれません。
(とても気持ち悪いですね。)
当然、このようなことは臆面にも出しません。
「私の力を使えば、貴方の身体は完治します。今までと変わらない暮らしを送れるでしょう。」
「頼む!助けてくれ!俺にできることならなんでもする!」
そんなことは当然ではないですか。
「当然、条件があります。第1に今後、私達の関係者に一切手出しをしないこと。第2に賠償金を支払うこと。第3に私達のことを他者に伝達しないこと。以上が私が貴方や兵士の方々の先程の行動に対して求めるものです。」
「ああ!わかった!わかったから早く治してくれ!」
「…何を仰っているのですか。ちゃんと聞いていなかったのですか?」
「聞いていた!約束する!だから早く!」
「ですから…今あげた3つの中には貴方を助ける対価は含まれていません。」
「っ…」
「そんな絶望した顔をしないでください。」
その表情は見飽きました。
「貴方は私が貴方の傷を癒すのにどのような対価を支払いますか?」
「…この屋敷にある、財産の半分を…」
「貴方の価値はその程度ですか?」
「…な、7割…」
「…」
「…8割なら…」
「…」
「こ、これ以上は無理だ。私の生活が…」
「貴方の今後の生活が続けられるかどうかはこの対価によって決まりますが?」
「くっ…9割だ!」
再び睨みつけるような目を向けられます。しかし、今回は先程のように痛みによる涙ではないようですが。
「冗談です。私は悪魔ではないのですから。」
「ほ、本当か!」
「ええ。この屋敷内の貨幣及び宝石類の全てで結構です。」
「なっ!」
「どうかされましたか?先程貴方が提案したのは財産の9割だったのです。それに対して私が提案したのは貨幣と宝石類のみ。屋敷そのものや置物などは貴方のものです。それらを売れば財産の1割はゆうに超えるでしょう。」
「そんな!すぐに値がつくわけでは…」
「食料などの心配をされているのですか?ですから食料も残して差し上げます。数日は十分な食事が取れるでしょう。」
「そ、そうか…」
「納得いただけて良かったです。では、あと2つ条件をつけます。」
「これ以上何を要求する気だ!」
「少し長くなってしまいましたが、これで本当に最後です。そろそろ貴方も苦しいでしょう?」
希望によって意識を繋いでいるのでしょうが、そろそろ限界でしょう。
「残りの2つは大したことではありません。この契約を他者へ伝達しないこと。そして『契約を締結する』と声に出してください。」
「契約を、締結する。」
「では、《第五ノ盾:契約》」
私の指先から王様の胸へ白色の線が伸び、消えました。
「これで契約は終了です。もし破った場合はどうなるかお分かりですね?」
涙目で頷かれました。
「私も契約を果たしましょうか。《第八ノ盾:再生》」
私がそれを唱えると同時に王様の右腕腕が生えてきます。グロテスクな生え方はせず、生えている最中は光っています。左腕は時間を巻き戻すかのように私が捻った逆に進みます。
光が収まると元どおりに腕は存在しています。
「お、おぉ…腕が…私の腕が…!」
「そのようなことはどうでも良いです。早くしないならば、今度は貴方の足も…」
「わ、わかりました!こちらです!」
私の言葉を遮られたのは癪に障りますが、良しとしましょう。
ある一室に案内され、中を覗くと相当貯め込んでいらっしゃったのか、硬貨が大量に詰め込まれています。付近には宝石類も置かれています。一室に集められているのは手間が省けて良いですね。
「ではいただきますね。」
「あっ…そ、そうだ!全ては持ちきれないでしょう。私が後日お渡しするというのはどうでしょうか?」
「いえ、結構です。《第ニノ盾:収納》」
一切を残さずしまっていきます。
「これで終わりですね。」
「…」
呆然、といった表情をしていますが、貴方も了承したことでしょうに。
「出口までご案内いただけますか?」
「はい。」
「《第四ノ盾発見》」
お嬢様方は無事に外に出ることができたようですね。
一刻も早く合流しましょう。