第11話お嬢様と王城脱出(中)
〜〜side:聖 華恋〜〜
「離して!離してったら!」
私は今、橘に抱えられている。何度抗議の声をあげても、無理矢理抜け出そうとしても上手くいかない。
「お嬢様、あまり、暴れないで、ください。」
「そんなこと言われたって!」
疲れによる絶え絶えの声に反論する。
「どうして未玖だけ置いていったの!?未玖があの人数から逃げられるわけないじゃない!」
「…」
「何か答えなさいよ!」
「…お嬢様。…仕方がありませんね。西森さん。」
「はい。」
橘の声に西森が答えるが早いか、口元をハンカチで抑えられる。
(っ…睡眠薬!?)
推理小説などで読んだことがある。まさか実際に私が経験する、なんて…
〜〜side:橘 蛍〜〜
「眠られたようですね。」
「麗香お嬢様も、失礼します。」
「…はい。」
「琴音お嬢様、失礼します。」
「苦しくないよね?」
「はい。ご安心ください。」
麗香お嬢様は落ち着いていられるようですね。琴音お嬢様も少し慌てているようでしたが、特に問題ないようです。花房お嬢様も躊躇っていましたが、同じように眠りにつかれました。
「早奈恵ちゃん、やっぱりまだいたみたいだね。」
「はい。板橋さん、麗香お嬢様をお願いします。」
「黒人さん、琴音お嬢様をお願いします。」
「…それは…いえ、何でもありません。」
止めようかとも思いましたが、この状況で彼が何かをするメリットはないでしょう。
「早奈恵ちゃん、大丈夫?」
「ええ。腕は鈍っていないはずよ。」
「この前体重増えたっていってなかったっけ?」
「そ、それは関係ないでしょ!」
(お二人の会話を聞いていると気が抜けてしまいそうになりますね…それはともかく、兵士に対しては、あの様子だと何とかなるでしょう。おそらく。…本当に大丈夫ですよね?お嬢様専属の使用人はある程度護衛的な役割を果たせるよう訓練されているとは聞きましたが、装備の差は歴然な気がしますが。…気にしても仕方がありません。私にできることをしましょう。まず、この道であっているでしょうか。)
来宇様と取引されている相手の屋敷や主要な建物などの間取りなどは記憶していますが、この屋敷の間取りは当然記憶にありません。この方向に下の階へ降りる階段はあるのでしょうか。
(そもそも何故エレベーターがないのでしょう?)
仮にあったとしても停止されているでしょうが、問題はそこではありません。廊下の窓から見える景色から判断すると、全ての階がこの階と同じ天井の高さであれば3階、仮に違ったとしても4階が精々でしょう。それにもかかわらずエレベーターのようなものは見当たりません。
(見えないようになっている?いえ、そもそも存在していないのかもしれません。装飾品や床、天井などを見る限り古さは感じません。改築されている可能性もありますが、古い部分も一部も残してしないとなるとエレベーターがない事は不自然です。…一体どういうことなのでしょう?)
廊下の突き当たりを左折すると、ようやく階段が見つかりました。階段を下りますが…
(どうしてこれだけなのですか!?)
一階分のみの階段しか存在せず、また探さなければならないようです。
「おい、いたぞ!」
「こっちだ!」
「行くよ、早奈恵ちゃん。」
「了解!」
梨原さんと西森さんは同時に走り出しました。
華恋お嬢様を預かっていますし、あちらの対応はお二人に任せましょう。
私が今すべきは次の進む道を予想することです。
最悪、窓から飛び降りても良いですが、黒人の彼はともかく、板橋さんが不安です。足を負傷した場合、屋敷を抜け出した後が更に大変なものとなるでしょう。
しかし、どうしても頭の片隅で花園さんのことを考えてしまいます。来宇様からあの2人よりも優秀であるとはお聞きしていますが、あの人数です。
どうかご無事で…
〜〜side:梨原 真智〜〜
「早奈恵ちゃん、勝負しようか。」
「勝負?」
「そう。どっちが多く相手を倒せるか。」
「…4人しかいないけど?」
「先に3人倒せばいいじゃん。」
「そんなことしている場合?」
相手の間合いまでは、あと10歩くらい?
「それに理由がないわ。」
「そっか…」
「…また今度ね。」
「あっ、うん!」
私も早奈恵ちゃんもまだ武器は出してない。相手もそれに気づいているから、私達のこと油断してるみたい。それだけで程度が知れる。
相手の間合いまではあと2歩。
私は拳銃とナイフを取り出す。これはお嬢様専属のメイドには必ず渡されているもの。早奈恵ちゃんもほぼ同時に取り出してる。
手始めに1人目の頭を撃ち抜く。
(やっぱり威力がすごいね。)
私が聖家に仕える前に訓練で使用していたものとは比べものにならない。これの調整にも未玖ちゃんが関わってるっていうんだから本当に頭が上がらない。
「…真智ちゃん。弾は温存しなさい。」
「え?あっ、そっか!」
銃弾は常備している数しか持ってない。この後、どこかで仕入れられるかな。
そう考えているうちに早奈恵ちゃんは鎧の間からナイフを目に刺して、首に足をかけ、そのまま首の骨を折ってる。兵士たちは銃音に驚いて、慌てているみたい。
「ま、まぁ、牽制?って事で。」
「…確実に今考えたわよね。」
やっぱりバレちゃった。そういえば、なんでこの人たち鎧なんて着てるんだろ?甲冑みたいに全身覆ってるから動きが遅くて狙い放題。時代錯誤にもほどがある。
(ナイフも銃もいらないよね。)
ポケットにしまって兵士から武器を奪って捨てる。一瞬持っただけで重かった。
(これでも力はある方なんだけど…?)
多少疑問は残ったけど、気にしない気にしない。
早奈恵ちゃんも、終わったみたい。
橘さん達の方を見ると、すぐそこまで来ていた。板橋の口が開いてる。板橋さんは知らなかったのかな?
すると、早奈恵ちゃんが私の耳に顔を寄せる。
「真智ちゃんのせいで待たせちゃったじゃない。」
「え、私のせいなの!?」
「無駄話ばかりしてるから。」
「早奈恵ちゃんも共犯でしょ〜!?」
「…梨原さんも西森さんも話は後にしてください。」
「「はい、すみません。」」