第10話 お嬢様と王城脱出(前)
再開します。
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
騎士達が武器を構えたのを見て、継野様が勢い良くこちらに振り返りました。
「馬鹿なのか、お前は!?」
「継野様に暴言を吐かれる謂れはないのですが…何かお気に障りましたか?」
「な、何を言って…」
この間にも騎士達は少しずつ私達を囲むように動いています。
私は橘さん達の方へ振り返りました。
「お嬢様方をお連れして逃げてください。」
「花園さん!?」
「お嬢様方に何かがあってはいけません。ここは私がなんとかしますので。」
「で、ですが…」
「橘さん。」
橘さんの目を見つめます。
驚いた顔から一転、いつものように凛々しい顔になられました。
「すみません。ここはお任せします。」
「はい。早菜恵さん、真智さん。それから、叶実さん。後で合流しましょう。」
「絶対ですよ?」
「私は紅茶1杯ね!」
「なら、私は2杯!」
「はい。また後で。」
それぞれ仕えるお嬢様方を抱えるようにして出口に向かいました。
華恋お嬢様は橘さんが抱えてくださったようです。
「動くんじゃない!」
「通すと思っているのか!」
出口の前にいた騎士達が先頭を走っていた叶実さんに向かって槍を構えました。
「邪魔だ!」
「…どけ。」
叶実さんの横を追い抜くようにして走った板橋さん、そして継野様の護衛の方が騎士を蹴り飛ばしました。
「ま、待て!おい!雇ってやったのは俺だぞ!」
「…もうあんたといても意味がない。」
そう言うと黒人の方はこちらを向き、頷かれました。
それを見て、私は頭を下げます。
ほぼ同時に板橋さんによって扉が開かれました。
「ちょ、ちょっと!未玖!」
「お嬢様、暫くお側を離れます。」
「未玖!!」
黒人の方が扉を閉められたことで、お嬢様の声が聞こえなくなりました。
(それにしても…あの方、日本語話せたのですね。)
何故話されなかったのでしょうか。
そのことも踏まえて、今度色々聞いてみましょう。
そのようなことを考えていると、騎士の1人が指示を出されました。
「何をしている!奴らを追え!」
「申し訳ありませんが、止めさせていただきます。《第一ノ盾:閉鎖》」
《閉鎖》は私がよく使っている力で、簡単に言ってしまえば、あらゆるものを閉じる力です。
もう1つの力《開放》と同時に習得します。容易に覚えられるうえ、力の使用者以外が開ける方法は、使用者を殺すこと、又は力を掛けられた物を壊すことの2つしか存在しておらず、力の使用者が異なる場合は、たとえ《開放》の力を使用しても開けることはできません。
また、《閉鎖》を使用した物は強度が上がるため、壊すことは容易ではありません。因みに、今回はお嬢様方が出ていかれた扉だけではなく、この部屋全体に掛けましたから窓からも出られないようになっています。
「団長!出られません!」
「くっ、どういうことだ!?」
混乱に便乗して、手近な人からさくさくと、ころ…
…倒していきます。
「先にそいつからだ!」
とてもありがたいです。万が一にでも扉が壊されてしまったら…
とても面倒ですから。
先ほどまで沈黙を保っていらした王様が突然立ち上がりました。
(?どうされたのでしょう?)
「《勅令:平伏》」
「?なんなのでしょうか?」
王様の伸ばされた右手から紫色の靄の様なものが流れて来ます。いえ、飛んで来ているという方が正しいのかもしれません。明らかに方向性を持っています。
「《第六ノ盾:反射》」
「なっ!」
そのまま跳ね返すと、速度が上がった靄は王様に当たります。紫色の靄は王様を包み込み、それと同時に両手と頭を床へと同時つけられました。
(…放っておきましょう。)
頭のおかしい人に付き合っている場合ではありませんね。一刻も早くお嬢様方と合流しなくては。
「そっちに行ったぞ!」
「は、速すぎる…」
騎士の方は鎧を着ているため面倒です。叩き割る事もできますが、ナイフに傷でもついては大変です。微塵切りにしてしまうかもしれませんし、先に4人集まっている方へ行きましょうか。
「行くぞ!《自然:束縛》」
言葉とともに床が光りましたので、とりあえず横に飛びます。すると何かが飛んできました。
(なかなかに凄いのでは…そうでもないみたいです。)
私の行動を予測したのかと思いましたが、反対側にも何かが飛んできています。その間にも光っていた床から蔦の様なものが這い出てきました。
(動きが少々気持ち悪いですね。)
飛来物は先程と同じで構わないのでしょうが…
「仕方がないですね。《第七ノ盾:消失》
纏めて消して差し上げました。
「き、消えた…?」
こちらの世界には私の様な力を持った人が多いようです。王様が特別なのかとも思いましたが、この方たちも使えるとなると、かなりの人が使えるのではないでしょうか。
「では、遠慮は必要ありませんね。」
この作品では初の戦闘です!
次回も戦闘シーンになります。