異世界で始まっちゃったお話。
かなり短めで、試作段階の拙い文ではありますが、
それでも読んでくださる心の広い方以外はブラウザバック推奨です(><
『魔王』とは何であるか?
その質問・疑問に対する答えは千差万別である。
人によっては
『魔獣の王』
種族によっては
『魔法の王』
研究者によっては
『魔界の王』
国家によっては
『魔族の王』
等々様々である。
それぞれ似たような物に思えるだろうが、これらは似て非なるものだ。
『魔獣』とは言ってしまえば害獣であり、多種多様に、世界中に存在する化け物の総称である。
『魔法』とは説明するまでも無いので詳しい説明は省くが、一言で言うなれば『訳の判らない技であり法』である。
『魔界』とは魔獣を生みだし、現世へと送ってくる魔獣の母体である、『クイーン』が居ると言われている別世界である。
『魔族』とは世界…ここで言う現世の3分の1の領土をを占有する種族である。
それ以外にも種族や立場、眉唾モノではあるが目撃したとされる人物からの談によって様々な情報や憶測がある。
自称魔王や、他称魔王も数多く存在したらしいがそこは問題では無い。
問題があるのは、その中でも唯一存在が事実と確認されており
さらにはその在り方が特異であると断言できる『魔族の王』が
世界に広く知れ渡って居る事である。
少々前置きが長くなってしまったが、私なりの『魔王』に対する見解は一言で事足りる。
こことは異なる世界、異世界より来た私、河野 聡に言わせれば『魔王』とは
『一芸に秀で過ぎた大馬鹿者』である。
森の中にある一軒家、傍から見れば幻想的なのであろう真っ白いログハウスの庭に設置されたテーブルセット。
そこに腰掛けた僕たち二人はお茶が注いであるカップを前に会話をしていた。
「・・・っていう文献が残ってる。」
目の前の少女はそう言って締め括り、冷めきってしまったお茶を口に含んだ。
たなびく金色の長髪、健康的で赤味がかった、それでいて儚さも感じさせる雰囲気がある彼女は言った。
「いや、初対面で貴女が言う所の異世界人である僕に『魔王』の話をされても反応に困るんですが…」
僕は理解不能と言う思いを隠さず目の前の少女に対してそう言った。
「だからこそ」
言いながら彼女は空になったティーカップにお茶を注ぐ。
「私は魔に連なる者、魔族。
『魔族の王』とは『魔に連なる者を統べる王』」
そう言いながら僕のティーカップにもお茶を注いでくれる。
ありがたく思いながらも、僕は尋ねた。
「君が魔族だって言うのも、さっき言ってた文献の著者がどう考えても日本人だって言うのも気になるけど…
『一芸に秀で過ぎた大馬鹿者』って書いている文献を引用した上でそう言うって事は、
『魔族の王』もまたそういう存在だって言う事かな?」
「ん、それで合ってる。
歴代魔王は全員、『何か』を『狂気』としか言えない程に愛していた、らしい」
そう言いながら横に置いてあったバスケットから袋…こじんまりとした白い、綺麗な袋を取り出した。
「現在、『魔族の王』は居ない。候補者も居ない。成りたいっていう魔族も、居ない。」
「居ないの!?」
ついそう言ってしまった。
っていうか曲がりなりにも王なんだから、権力とか、お金とか付いてくるんじゃないだろうか?
美人の嫁さん貰って退廃的に暮らしたい!っていう魔族の人とか居そうだと思う、偏見だけども。
彼女は溜息をつきながら僕に言う。
「そもそも『魔王』が居なくても魔族の世界は平和」
「平和なんだ・・・」
なんだろう、人間やそれ以外の種族と戦争!って言うのは無さそうで安心ではあるけれど、ちょっと肩透かしだ。
「町や村ごとにちゃんと長が居て、統治してるし」
話ながら袋に包まれたクッキーらしき物とお皿を取り出し、さらに彼女は語る。
「それ以前に、歴代魔王が問題過ぎた」
お皿の上に綺麗なシートを載せて
「魔法・料理・剣術・人形」
流れるように綺麗にクッキーを積み重ねる。
「服飾・旅行・ニート」
「ん…?」
見た目鮮やかに。
「幼女・熟女・うなじ」
「…はい?」
僕の声など聞こえないかのように。
「SM・CMFN・○○○」
「絶対に後半オカシイよね!?最後の2つは判らないけどイカガワシイ事なのはわかったよ!」
思わず椅子から腰を浮かせながら彼女にツッコむ。
そんな僕の剣幕を知った事か、とでも言うように、涼しげに見返して彼女は言う。
「それ以外にも色々…まぁ色々居たらしいけど…そんな趣味を公言して憚らなかった魔王が大勢居た。
そして『魔王』=『変態魔族の王』とまで言われる今、後を喜んで継ごうなんて魔族は居ない。」
「そりゃそうだろうね!例え何かメリットが合ってもお断りだよね!」
後今更だけどニートって狂気に走ってまでやる事なの!?」
「37代魔王であるニーナ・トルナードは、物心付いてから死ぬまでの期間、部屋から出た回数は3回らしい。
母の葬式、父の葬式、死んで埋葬された時以外は自分の部屋から外に出なかったと言われている。」
「筋金入りの駄目魔王じゃないか!?ああいや両親の葬式に出た事だけは評価できる・・・のか?」
「ちなみに彼女は絶世の美女で、当時の世界で伝説となった騎士と結婚した。」
突っ込み所はあるけど羨ましいな…
「そして自分の部屋で挙げた盛大な結婚式と、気が付いたら部屋で死んでた魔王として今も伝説が残っている。」
「結婚式を自分の部屋で!?っていうか孤独死なのか!?」
「そんなにニートが気になるならまたの機会に話す。
今、重要なのは別の話。」
彼女は袋から摘み出したクッキーの一個を弄びながら続けようとしたが
「いやニートが気になるとかじゃなくて突っ込み所が多すぎて困ってるんだよ!?」
僕の台詞で遮られた。
彼女は首を傾げながら、本当に不思議そうに僕を見つめる。
いや確かにどんな結婚式だったんだ!?とか死因は?!とか、どこでそんな彼氏捕まえたんだよ!?とか
疑問は尽きないんだけれども…!
「まぁ、いい。話を進める。最も重要なのは
『魔族』はある程度の自制と理性があるとは言え、全体的に欲望に忠実な種族。
そして『魔族の王』はその中でも欲望が強大で自制も理性も自重もぶっ飛んだ『魔族』だと言う事。」
「ソレが僕との話で重要だって言うのが理解出来ないけど…」
「ううん、異世界人の貴方には一番重要な事。
初代魔王にして建国者、魔族の始祖、『救世の魔王』と呼ばれたのは貴方と同じ、異世界人だった。」
「は?」
「そしてまたの名を『吸精の魔王』『ショタ狂い魔王』『悪食の魔王』」
うん、幾つか言いたい事があるけども…これだけは言いたい。
「突っ込み所多すぎだろ!?」
そう言われるのには慣れている、と言いたげな、達観した彼女の視線が痛かった。
今更ではあるが現在に至るまでの説明をしよう。
・日課である早朝の散歩をしていた(一人で)
・公園にある林の奥に人影を見て、気になったので入った(一人で)
・気が付いたら森の中で優雅にお茶してるゴスロリ少女と出会ってお茶してた。
そして現在の魔王談義へと至っているわけである。
何故か彼女は僕が異世界から来たのだと断言し、前置きも無く魔王談義が始まった。
その結果…歴代魔王のとんでもない趣味を暴露され、頭を抱えているわけだ。
100歩譲ってここが僕の居た地球とは別の世界で。
魔法も亜人も普通に居るファンタジーな世界なのはいいとしても。
何でこんなしょうも無い話を聞いて叫ばなきゃならないんだ!?
「気にする事は無い」
彼女突然テーブルに突っ伏して動かなくなった僕にそう言ってきた。
今まで何の抑揚も無く淡々と口に出していた言葉と違って、何だか温かみを感じる口調で…
「連綿と続く狂気の歴史の中には『ツッコミ』もあった」
「どこに気にする必要の無い要素があるんだ?!むしろ余計気になったよ!」
え、何?『狂気』とか偉そうに言ってるけど何なの?
実はただの趣味とか性癖じゃないのかソレ!?
等と考えながら天を仰いでいると
「56代続いた『魔族の王』の歴史に置いて他に例を見ない双子の『魔王』が居た。」
あ、なんかオチが読めた。
『ツッコミ』で『双子』の魔王ってもうアレ以外思いつかない。
「その『魔王』達は先代から続く戦争に異を唱え、争い続ける事、憎しみ続ける事の愚かさを魔族に説いた」
歌うように、語りかけるように、彼女は透き通る声で続けた。
「そう、人々に笑顔をもたらす『ボケ』と『ツッコミ』による『漫才』を自ら行い、
自らが人々の前で興行を行う事によって利益と笑顔を取り戻した」
「いい話かな?と思ったけど利益の一言で台無しだよ!?」
「彼達は人種も種族も世界すら超えて興行を行ったと伝えられている」
「凄い、凄いけど結局は漫才だよね!?」
「他には…」
と、彼女は続けようとしたが僕は色んな意味で(精神的にも咽喉的にも)耐えられそうになかったので
焦って話しを進めようと割り込んだ。
「ありがとう!もう十分判ったから!
結局は僕に何が言いたいのか教えて欲しいかな!」
「む、判った」
そう言いながら彼女は椅子から立ち上がり、僕の真横に来て続けた
「最初は貴方に現状と、この世界における異世界人の扱いについて説明するつもりだった」
ここが元居た世界じゃ無いって言うのは話を聞きながら回りを見渡して、
光さえ届かず、視線を遮る深い森の中だった事を理解して納得していた。
少なくともここに来る前の公園にこんなでかい森は無かった。
「でも、話を続けてるうちに貴方に惹かれた。」
「へ?」
思っても居なかった事を言われて間抜けな音が口から出てしまう。
「今はまだ頼り無く、戦力と言うには厳しいけれど
貴方の才能に光る物を感じた。」
そう言われると照れるけど、いままでの会話で僕の才能が判る場面があっただろうか?
微妙に嫌な予感がするけど、そんな事はお構いなしに彼女は続ける。
「そう、今は一本調子で叫ぶ事で誤魔化している感じはあるけれど
才能…何よりもノリと勢いを感じた。」
「ノリと勢い…?」
何だろうこのデジャブ。
嫌な予感っていうよりも嫌な悪寒になってきた。
が、それでもあえて言おう、オチが読めた。
「そう、即ち『ツッコミ』の才能。」
「やっぱりか!予想はしてたけど実際に言われると困るね!」
うんうん、と彼女は眼を閉じながら頷き、
「やはり単調ではあるけれど、躊躇いの無い勢いがある。
しかもちゃんと私に手で『ツッコミ』を入れている所に才能を感じさせる」
確かに気が付けば僕も椅子から立ち上がり、手の甲を彼女の胸(の寸前)にビシッ!とツッコミを入れていた。
まさか…僕が『ツッコミ』だと言うのなら彼女は…!!!
「そう、この私こそが『ボケ』」
そう言って彼女は果てしないドヤ顔(無表情)を決めながら、僕の視線に対して斜め四五度の角度をキープしている。
「そうだったのか…!つまりこれは…この出会いは…!」
恐れ慄き彼女の言葉を受け止めてしまった。
後になって考えれば…真に受けてしまったとも言うかもしれない。
「紛れも無く運命。そして私の『狂気』とはただの『漫才』ではない」
「な、何だって~!?」
ってつい某アレのように言ってしまったが内心では冷静である。冷めてるとも言うが。
いや、普通にこれもオチが読めてるんですけれども。
ついつい付き合ってノってしまうこれが彼女の言う『ツッコミ』なのかも知れない。
「今はまだ私も貴方も未熟であれど、お互いがお互いを引っ張り合い成長すれば
何時か辿り着けるかもしれない境地。」
そう言って彼女はバスケットからハリセンを取り出し僕に渡してきた。
僕はそれを、まるで姫から授けられる聖剣のように。
これから一生をかけて守り抜く誓いを立てる騎士のように。
「そう、今だかつて誰も成し遂げて居ない、『夫婦漫才』の極地に」
そう言って右手を太陽に向かって掲げながら(無表情)で言う彼女に僕は…
「なんでやねん!!!」
全力で振り下ろした。
スッパァァァァァァァアアアアン!!!
と言う軽快な音をさせた彼女は音源である頭を両手で抱えながら蹲る。
思ったより威力があったようだ…
「予想以上の破壊力があってちょっと悪かったと思うけど言わせて貰う!
…あ、これツッコミじゃないからね!」
ビシッとハリセンで彼女を指しながら言う。
「さっきまでの話の流れからして、その行き着く先は『魔王』だよね!?
それも『夫婦漫才の魔王』!」
ちょっと涙目になりながらも嬉しそうな雰囲気を出し彼女はうんうん、と頷いた。
「色々言いたい事があるけどこれだけはハッキリキッパリスッパリ聞かせて欲しい!
あれだけ酷評?してた『魔王』になりたいって事!?」
「え、そこ?」
微妙に彼女の表情が動いた気がするけど
「当たり前です!さっきまでの話が本当なら『魔王』って完全にイロモノじゃないか!
むしろ体を張る芸人みたいだと思うけど!?」
「その認識で合ってる。でも私としてはプロポーズも同然な台詞に注目して欲しい」
あっさりと肯定されてしまったがそれでも僕は止まらない。
「あれだけ世間からの風当たりが強そうな話を聞かされて、僕が
『やった、可愛い嫁さんと相方同時にゲットだぜ♪』」
とでも言うと思った!?」
「思った。」
これまたあっさり肯定された。
そこまで自分に自信があると言うのか…
これが『ボケ』の恐ろしさ!と戦慄してしまった。
「ああうん、もう言いたい事聞きたい事ツッコミたい事が山のようにあるけれど。
これだけは言わせて貰う。」
そう言いながら僕はハリセンを上段に構え、可能な限りお腹に力を込めて言い放った。
「出会った瞬間のトキメキを返せぇええええ!!!!」
ハリセンが当たる瞬間に見えた彼女のキラキラした目。
吹っ飛ぶ瞬間の、『あれ、そこなの?むしろときめいてたの?』とでも言いたげに変わった目。
再度森の中に響く大音量。
まぁこれもアリかなぁと吹っ飛んだ彼女を見て思った。
後に彼と彼女は57代魔王、となり、魔族の世界のみならず人間世界、亜人世界にも名を轟かす
『夫婦漫才の魔王』となる。
更にその子供である58代魔王と共に、『親子漫才』をも実現したと伝えられている。
最後まで読んでくださった方に感謝を。