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★レシピ★ * 8 * 看板娘目をつけられる


気になる事は、確かめよう。


タバサはいつまでも、ぐだぐだ引きずるのは好きではありません。

だから、きっぱり・はっきりさせましょうや・・・。


『金持ちケンカせず』だったんじゃないのか、タバサよ?

 

 ――ほぅら。二人とも、見えるか?御輿(みこし)に乗っていらっしゃるのが、今年の『春の乙女』様だよ。

 

 うん、見えるよ〜!お花がいっぱいね、キレイね!

 

 ――そうだな。キレイだな・・・・・・。

 

 ・・・・・・どうしたの、父さん?何で、泣きそうなの?!

 

 ――お前達の母さんも、昔なぁ。ああやって、乙女に選ばれて街中を祝して回ったんだぞ。

 

 その時、ヒトメボレしちゃったってヤツ?――あ、父さん、泣かないで〜〜!!

 

 ★ ☆ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ☆ ★  

 

 しばし、お互いの視線が絡み合ったまま、微動だにしなかったタバサとウォレーンだったが――。

 

「・・・別に何にもないならいいわ。私の気のせいだったのでしょう?悪かったわね、変な言いがかりつけたりして。――じゃ、帰るから」

 タバサはすっくと立ち上がる。目線を合わせてくれていた、チェイズとオオカミさんを見下ろす格好になった。

「・・・・・・いや」

 タバサの強く、そして潔い謝罪に押されたのか『弟』はいくらかたじろいだ様だった。

 それでも、タバサの前に立ちはだかったまま除け様とはしない。いぶかしんで見上げたが、そのまま。

「な、なぁに?まだ何か用なの?私、早く帰らないと・・・心配させる・・・」

 父さんとララサ、そしてルカ(にぃ)に。そこはなぜか、言いかけたがすんでのところで飲み込んだ。

 

 何というか。彼らには知られたくない、と思った。巻き込みたくはないと、咄嗟に浮かんだ思いがタバサにそうさせたのだ。

 

 。・:★:・。:☆:・。:☆:・。:★:・。:☆:・。:☆:・。:★:・。

 

 いつまで見上げて視線でどいてくれと訴えても、目の前の黒壁は立ちはだかったまま動く気配すらない。

 タバサが不安になって振り返ると、チェイズとオオカミさんも立ち上がっていた。

 

 チェイズ・ロットと名乗った青年が気遣わしげに、タバサに語りかける。相変らず、目線を合わせるために少し(かが)んで。

「嬢ちゃん。ウォレーンの奴の、言葉が足りなくてごめんな。コイツはこんな調子だから、ララサ嬢ちゃんも・・・・・・。」

「――チェイズ。余計なお世話だ」

「そうよ。チェイズさんが謝る事じゃないわ」

 言いかけたチェイズをきっぱりと()ね付けたのは、二人ほぼ同時だった。

 

「何だよ・・・二人とも」

 そうは言っても、チェイズは人のいい笑みを張り付けたままだった。何てお人好しなのか。

 タバサは感心した。私ならこんな友人、すぐに見捨てる。そんな友人想いの彼に免じて、タバサは踏みとどまった。

 

「チェイズさん、ウ、ウォレーンさん?が誤解されやすいのはわかったわ。確かに、この調子じゃね。でも、私どうせなら当の本人から聞きたいわ。謝罪でも弁明でも何でもね。そうでしょ?ウォレーンさん?――ララサがなぁに。あのコ、どうしたの?何かあった?私に何が訊きたいの?ちゃんと説明してくれる?!」

 タバサは丁寧かつ、真剣に『お願い』した。これが最後の機会とばかりに、彼に向き合ったのだが――。

「・・・・・・一度にまくし立てるな」

 ウォレーンが、うるさそうに顎をしゃくる。その様子にタバサは一瞬かっとなったが、それもすぐに引いた。

 

(――うん。これは、まともに相手しても無駄・無駄・無駄!帰ろうっと。それがいいね!)

 

【・・・・・・ウォレーン。】

「そりゃないだろ!!ウォレーン!」

 

 今まで黙って見守っていたオオカミさんも、非難がましい声で弟の名を呼んだ。チェイズも同じく。

 

「私、帰ります〜。オオカミさん、チェイズさん、ごきげんよう〜」

 タバサは素早く、ウォレーンに背を向けると二人に挨拶した。可愛らしく、小首をかしげてにっこりと微笑んで。

 ウォレーンに対しては、あっかんべ〜〜だっ!と舌を出してやった・・・のは想像(あたま)の中だけが精一杯だったが、そうした。

 (何に腹立てて、ぶんむくれてるか知りませんけどねぇ〜〜え?何でよ、ただの八つ当たりじゃないコレ!大方ララサにフラレたんでしょ。ふ〜〜んだ)

 

 さ、帰ろ帰ろ。お腹もすいたし。そう強引にタバサは黒ずくめ集団を走り抜けようとした。

 そして神殿の入り口付近に、見知った人影に気がついてほっとした。それと同時に、どきっとした。

 人影が昨日と同じく、ルカ(にぃ)とその弟のタリムだったからだ。ひょろりと長い手足の兄と、まだ小柄な弟。

 大丈夫だからと先ほど告げて来たのだが、なかなかタバサが報告に現われないのを心配して来てくれたに違いない。

 

 この状況であっては何が『大丈夫』なのか。また要らぬ心配をかけるではないかぁ!もう。どいてよどいてよ、さっさとどいて!!慌てふためいたが、強く引っ張られてタバサは振り返る。身動きが取れない。

「悪い!嬢ちゃん、もうちょっと待った!」

 ――駆け抜けようとしたタバサの肩を、チェイズが取り押さえていた。

「待たない!ほら、もう!あんまり時間くってるから、昨日みたいにルカ兄とタリムが迎えに来たじゃないのよ。心配させたくないから、その手を放して!!」

「ごめん、嬢ちゃん。今出て行かれると、困るんだ。もう、ちょっと待って。な?」

「やだ・やだ!待たないー!」

「・・・・・だよなぁ。――隊長。副・隊長。スミマセンが嬢ちゃん『拘束』します」

【・・・・・・。】「・・・・・・。」

 同時に兄と弟が無言で頷いたのを見届けると、チェイズも頷く。

「なっ、なんで二人に許可取るの!取るならまず、私に確認とるのが先でしょ、道理でしょう!?」

 ごめんなぁ、嬢ちゃん――。そう言いながら、チェイズに後ろから腰に手を回されると、がっちりと固定された。

 ひょいっと持ち上げられたので、つま先が浮く。その格好で、タバサはじたばた・じたばた・もがいたが、抜け出せそうも無かった。

 

 仕方がない。タバサはそう、判断した。関係のないルカ兄とタリムには、申し訳ないが仕方がない。だから、叫んだ。

「うわああん!!ルカ兄ィ―ー―ー!!タ〜リ〜ム〜ゥ!!」

 力いっぱい、大声で助けを呼んだ。チェイズがすまなそうなので『人さらい〜』とか。『助けて〜』とか。そういった類の言葉は控えたが。

 

 ・。:★:・。:☆:・。:☆:・。:★:・。:☆:・。:☆:・。:★

 

「・・・・・・!?――ルカ兄?――タリム?」

 

 タバサは腰を抱きかかえられて、身体を二つ折りにしたまま手足をバタつかせるのを止めた。

 不審に思ったからだ。おかしい。これだけ、叫んでいるのに。こんなに、近くにまで二人とも来ているのに。

 確かにタリムのメガネの奥の瞳と、タバサの視線が一瞬絡み合ったのに――。

 タバサは大人しくなって、息を呑んで状況を見守った。確かに届く声は、耳によく馴染んだ兄弟のもの。

 

 お  か  し  い  な  。  タ  バ  サ  の  奴  。  も  う  、  帰  っ  た  の  か  ?

 

 そ  う  み  た  い  だ  ね  。  タ  バ  サ  ち  ゃ  ん  、  大  丈  夫  か  な  ?

 

 しかしどこか遠い、その会話にタバサは違和感を覚えた。驚きのあまり、言葉を掛けることさえ躊躇われた。

 

 二人とも、こちらに気がついていない。見えていない。聞こえてもいない。こちらからは見えているし、聞こえてもいるのに。

 

 ★ ☆ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ☆ ★

 

 ルカ兄とタリムが立ち去るのを、抱えられたまま見送る――。

 タバサはより一層、逃れようともがいた。恐怖からではない。何か、得体の知れないものに晒されている。

 その感覚がガマンならないほど、不愉快だったからだ。確かにこれは『異常』。空気がそれを物語る。

 霧にまかれた様に、いいように目くらましに遭っている。そんな状況を仕方なしと、甘んじて大人しくする気などない。

 

「ちょっと、やめてよね!オオカミさん。何をしてくれたのか解らないけどコレ、オオカミさんの仕業ね?」

【・・・・・・!?】

 キロリっとハチミツ色のきれいな(まなこ)が、鋭く光ってタバサを射る。

「そんな目で見られても。私だって説明なんかつけられないよ!でも、解る(・・)。オオカミさんの周りを取り巻く空気が、気配が違うもの――!」

【タバサ・・・・・・君は、解ってしまうんだね。その上、私の声までもその耳に届くのだね】

 一瞬息を詰めてから、ため息混じりにオオカミさんは呟いた。嬉しそうでいて、どこか哀しそうな響きだった。

 そして。ごくごく小さく付け足された言葉を、タバサの耳は拾い上げていた。

かわいそうに(・・・・・・)

 

 かわいそう?誰が?私が?なぜ?タバサがそう、疑問を言葉にするよりも早く。

 

【タバサ・フォリウム嬢。君を“春の乙女”候補とするよ】

 

 ――オオカミさんは宣告した。

 

 



しかし、感じ悪いですね。ウォレーン。


タバサの読みは、だいたい当たり。ただの八つ当たりです。


それはそれで、何て感じ悪いんだ!!大丈夫か、ウォレーン。

タバサのほうが、精神的に大人です。

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