★レシピ★ * 5 * 女神様のまえ〜ハニー・キャンディー〜
どうやらオオカミさんは『隊長』さんのようです。
――さ、お前たち。女神様に、この父さんのキャンディーをお供えしなさい。
うん。はぁい。
――お前たち、どうした・・・・・・?
ねぇ!やっぱり女神様、母さんにそっくりよ!父さんの
『母さんは女神様だから、俺たち凡人とはいられなくなったんだよ』
って言うのも、あながちウソじゃないのかも!!
――本当に、声がでかいよ!!お前たち!!
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ☆ ★
タバサは座り込んだまま、向かってくる若者とオオカミとを見比べた。
そうしていると、オオカミと同じ目線になる。タバサはしげしげと、その琥珀色の瞳を覗き込んだ。
(キレイなあめ玉みたい・・・透明で・・・それなのに、中心と縁のところはハチミツ色。うん。うちのハチミツ・キャンディーに引けを取らないわ)
タバサは何だか嬉しくなった。オオカミさんの弟も、同じ色をしているのだろうか?
それを確かめようと、眼差しを上げる。
向かってくる青年達は明らかに『人間』だ。つかつかと迷い無く、どんどんと近づいて来る。もちろん、二本の足でだ。
(弟、人だよね。――でも、兄弟なんだ?まぁ、色々事情もあるんだろうし)
今タバサがこだわるのは、そこではなかった。それよりも、近付くにつれて嫌でも目に入る黒――。
それは、威圧的で好きになれない。昔から、どうしても。
見覚えのある黒ずくめの出で立ちに、タバサは思わず身構える。
自然、傍に置いていたバスケットに手を掛けて、引き寄せた。それを膝に上げると、両手でぎゅっと抱きしめる。
本当は――。このステキにツヤツヤ・ピカピカの毛並みにすがり付きたい所だが、そこはガマンした。
(さすがに、いきなり、ねぇ?『護衛隊長殿』に抱きつくなんて・・・・・・ねぇ?)
失礼だろう。そうわかってはいるが、思わず抱きついてしまいそうだ。
(だって。ツヤツヤなんだもん)
より強く、バスケットを抱える腕に力を込める。
それを、不安の現われと受け止めたのか。
オオカミが、横目でタバサを窺う。タバサも同じく横目で尋ねる。
――なぁに?オオカミさんは、『神殿まえ広場の護衛隊』の『隊長』さんなの?、と。
。・★・。:・。☆・。:★:・。:・。☆。・:★:・。
【・・・・・・。】
オオカミは無言のまま、一歩前に出た。そうやって、タバサを背に庇うようにして若者二人を迎える。
「――兄上・・・・・・」
「隊長、抜け駆けは無しですよ」
【何がだ?チェイズ】
黒い装束に身を包んだ青年に、真っ黒い毛並みのオオカミ。
タバサは二人の制服の胸元にある、刺繍に注目していた。白と黒の蛇が絡み合う紋章を、目ざとく確認する。
間違いなく、この二人は『神殿直属の護衛団』に所属している青年だ。
(抜け駆け、ねぇ。・・・・・・読めてきた。ララサ、あんた。こりゃ、悩むね)
性質の悪いのに目を付けられちゃったねぇ。・・・・・・ララサ、かわいいものね。
そんな思いはおくびにも出さぬままタバサは、うっすらと微笑み浮かべてさえいる。
だが、心中は穏やかではいられなかった。
しばらく、何か言いたそうな青年達と無言で見つめあった。
一方と目が合う。彼は愛想の良い笑みを浮かべながら、小さく手を振って見せた。
明るい赤み掛かった茶髪。それと同じ色の瞳を、人懐っこそうに眇めて笑う。それは無条件で、好感が持てる。
――ルカ兄みたいだ、と思った。この若者は、商人でもやっていけるのじゃないのだろうか。
「よう、嬢ちゃん。お疲れ様!」
「・・・・・・。」
タバサもにっこりと、よりいっそう微笑んで応える。しかし、あえて会話はないまま進めようと思った。
だから、無言のままだ。話せば、ぼろが出るだろうと踏んでいる。タバサは唇を引き結んだ。
見た目は笑みの形に、見せてはいる。相手を油断させるためでもある。
だが実際は、目標が定まったからだ。ここに来た目的を、タバサは忘れてはいない。
(問題は・・・オオカミさんを、『兄上』と呼んだこっちの無愛想な若造だ!)
自分も彼に比べたらまぁ、同じくらい若輩者なのだろうが。それはこの際、置いておく事にした。
要は気に入らないのである。
女神様の御前で――。こうも偏見たっぷりで、申し訳ない。だが、間違いないと確信している。
何を根拠にしているのかと訊かれたら・・・『双子の』に加えて『女の』勘でしかない所は女神様も呆れるだろうが、見捨てないでいただきたい。
・・・・・・何分、未熟なものですから。
(――弟。あんたでしょう、うちのララサを悩ましている者は!)
タバサは先ほどから視線を感じて、そちらに真向かうのだが――。そうすると、すぐさま弟の方は視線を外す。
その割りに、タバサが視線を外した途端にじっと凝視してくる。
声を掛けてくるでもなし、微笑み掛けてくるでもなしに。
(弟も目の色、ハチミツ色なんだね。オオカミさんと同じ。・・・・・・なんか悔しい)
先ほどハチミツ・キャンディーと遜色無しと、大賛辞したばかりである。
その舌の根の乾かぬうちに、けなす事などありえない。ちぇ、と内心舌打ちはしても。
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
こうやって、オオカミの背越しに身を潜めるようにして、様子をみようと思った。
さて、どう出るかな弟?そして、タバサよ?
ララサなら、本当はこんな風に――。挑むような眼差しを向けたりなんて、しないのだが思わず地が出た。
弟がかわそうとしたその瞳を、逃すものかとしっかと見据えてしまったのだ。
視線が絡み合う。
タバサはやや勝気な色を浮かべて、満面の笑みで迎え撃つ。
沈黙の中、先に口火を切ったのは――。
「・・・・・・違うな。オマエは『ララサ』じゃないな。誰だ、オマエ?」
「・・・・・・。」
「え!?そうなのか?じゃあ嬢ちゃん、誰なワケ?」
それはこっちの台詞だよ。
タバサは、笑み浮かべたままだ。
ハニー・ハニー・キャンディー。
これも、双子の父のご自慢の一品。
さて。どうもお互い、『気に入らない』所は気が合っている(?)模様のタバサとウォレーンです。
・・・・・・バトル開始です。