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★レシピ★ * 33 * いつまでも平行線の二人

むむ。


どちらも手ごわい。

 



 ―― よぉ?


 何だ。


 ―― 俺はルカだ。知ってるだろ?


 ああ。


 ―― ちびっこはあんまり構いすぎるな。逆効果だから。


 何?


 ―― それだけ~じゃあな~!



 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★



「タバサ」


 ようやくその無事を確信できて心から安堵する。

 それなのに。


「ルカ兄?」


 その名を呼ばれて、信じられないくらい腹が立った。


「違う」


 責めるようにぶっきらぼうに言い放てば、タバサの身体が震え出した。


「オオカミさん?」


 違いないが違う。


「ウォレス、だ」


 タバサの身体が強張ったのが解った。

 無性に腹が立つ。


 追いかけると少女はいつも逃げかわすのだ。

 いつも頼るのは幼馴染達で、自分には見向きもしない。


 そんな苛立ちから少年は実に子供じみた行動で、少女の気を引こうとしたのだ。

 例えそれが一時のものであっても、自分だけを見てくれている。

 思考をいっぱいにしてくれているのが嬉しかった。


 実に子供だった。


 そんな事をしても、完璧なまでに避けられるだけだと気が付く頃には何もかもが遅かった。


 それからの彼は変わろうと努力してきた。

 時間と苦い経験を味方にして、自分は変われた気でいたのに。


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


「タバサ」

「嫌」

「タバサ、すまない」


 後ろから手を回され、胸のすぐ下と腰回りをがっちりと固定されている。

 それがどれほど恐ろしいか。

 この彼にはわかるまい。

 しかも左の首筋を伝って項に顔をうずめられている。

 彼の吐息も体温も近すぎる。

 しかも暗闇の中とあって視界が限られるせいか、余計にそれだけに集中してしまう。


「嫌!」

「タバサ」


 嫌だと言っているのに聞こえないのだろうか。

 いや、聞く気が無いのか。

 嫌だと訴えるたびに腕に力が込められて行く。

 押し返してもびくともしない頑丈さに慄きながらも、毅然と振舞うよう意識して声を出した。


「もう放して下さい。わたし、イキナリこんな事されるの嫌です!」

「すまない」

「本当にそう思ってるのなら放してったら!」

「嫌だ」

「~~~~~もうっ!!」


 タバサは何とか自由な足をバタつかせてもみたが、腕に込められた力はちっとも緩んではくれなかった。


「タバサ、無事で本当に良かった」


「・・・おかげ様で」


 元はといえば、この彼のせいのような気がしないでもないが。

 そう思うせいか言葉にややトゲがあり、皮肉っぽく響いた。

 しかし彼は気にも留めていないようで、ずっとタバサの耳元で無事を喜ぶ安堵の言葉を呟き続けている。


「タバサを攫われて寿命が縮まった」

「それを言うならわたしの方こそ、縮まりましたよ!ええ!確実に」

「本当に悪かった。守れなかった」

「いいですよ、もう。気にしないで下さい」

「いいや。一生気にする」

「ええ?そんなに気にしないで下さいよ!そんな事言われたら、わたしの方が気になるじゃないですか」

「うん。そうしてくれ」

「何ゆえですかっ!?」


 埒が明かないとは正にこのことなのかもしれない、とタバサは唸った。


 要は彼はこうする事で、タバサの無事を確かめて安心しているのかもしれない。

 だったら彼の気の済むまでこうしているより他にあるまい。

 ・・・他に選択肢は無いのが何ともはや。


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


「オオカミさ~ん?そろそろいいですか?気が済みましたか~?」

「・・・・・・。」


 無言でぎゅうっと抱き返された。

 それが答えという事か。


「オオカミさ~ん、カンベンして下さいよ、もう。わたし、くたびれました。それに眠たいです」

 眠いというより脱力感が酷くて、身体が辛いのだ。

 可能ならば、今すぐにだって横になりたいくらいだ。

「オオカミ、じゃない」

「隊長さん?」

「違う」

「・・・・・・。」


 出ましたよ、駄々っ子。

 諦めにも似た気持で、ため息と共にその名を呼んだ。


「ウォレスさま」


「様はいらない」


「必要不可欠です」


「タバサ」


「何ですか」

「いいかげん返事を聞かせてくれないか?」

「お返事なら最初からもう済ませておりますが」

「聞いていない」

「ひどいです」

「何とでも。どうか春の乙女役を引き受けてくれ」

「ですから、他を当たって下さい」

「嫌だ」


「わ、わたしがうんと言うまでこの拘束は続くんでしょうか?」

「うん」

「ご勘弁願います」


 何の根競べでしょうか。

 負けたくは無いが負けそうな自分が嫌だな、とタバサは思った。

 既に疲労のためか、頷いてしまいそうになる自分がいるのもまた確かなのだ。

 しかしそれもどうかと思うので、もう少し粘ろうとも思う。


「オオカミ、さん。オオカミさん、ですよね?えっと、今は人の姿ですけれどもツヤピカ毛並のオオカミさんですよね?」


 上手く言葉が紡げないままに尋ねた。


「そうだよ」

「さっき、ララサと一緒にいたオオカミは、ウォレーン?」

「そうだ」

「どちらが本当のオオカミさんなの?」

「どちらもウォレスだよ、タバサ。気味が悪い?」

「いいえ」


 すぐさま答えたら、横頭に頬を押し当てられたようだった。

 首が大きく傾いで肩にくっつきそうになる。


「ありがとう」

「・・・どういたしまして?あの、オオカミさんは変身できるって事ですよね?」

「そうだよ。ロウニア家の獣筋と呼ばれている。一族の中でまれにこの力を授かる者が出るんだ。そう遠くも無い先祖に、間違いなく獣の血が入っているからね」

「獣の血ってダグレス様のような?」

「そうかもしれないね」

「だから変身できるのですか?」

「そうだよ。なってみせようか?」

「オオカミさんに!?」


 すごい。


 タバサは素直に感動したから、彼の笑い声が何故こうもいたずらっぽく響くのか何て気にならなかった。





張り切った割には未消化です。


ぷっしゅぅ~~~。


タバサは疲れきっているし、ウォレスもとりあえず安心しちゃって まったり。


このままタバサにべったりでいたいらしい。


引き剥がせなかったです。


タバサ、それはちっと固めだけど背もたれつきの椅子と思うといいよ。うん。


そんな風に思っていたら、オオカミめ!


――そんな 次回です。


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