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★レシピ★ * 31 * 祭典前から浮かれる人達

二ヶ月ぶりですね!


一ヶ月以上間を空けてはならないだろう・・・。


自分目標 ↑ 。


 

 いよっし決めた!タバサ、ララサ。ここを俺たちの隠れ家にしようぜ!


 ――いいね!うん、いいね!ルカ(にぃ)


 オトナには内緒な


 ――もちろん!何だか楽しいね。わくわくする~


 じゃ、早速活動しよーぜ。俺、店に戻ってタリム連れてくるわ。


 ――私たち、お菓子と飲み物を取ってくるね!



 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


 タバサは答えなければならないのだと、ようやく混乱した頭で判断付けた。

 ここではっきり意思表示しなければ、解放はまずありえないだろう。

(いや、もう何回も何回も何回もお断りしてきたんですけどね?)

 ちら、とオオカミさんを見れば前足をお行儀良く揃えながらも、小さく足踏みしていた。

(あぅぅ!)

 タバサは内心そのもじもじした様子に身もだえした。

 あまりにも可愛らしすぎて、うっかりほだされそうになる。危険だ。

 タバサは怯んだ。


『どうか春の乙女役に、そして俺をその騎士と任命しておくれ』


 どうか、どうか、うんと言ってくれと、祈りにも似た気持ちで見られる視線は熱い。

 どうにも頬が火照って仕方がない。

 そのセリフを何度も何度も、しかも人前であろうとなかろうと言い続けるオオカミさんに、今更ながら赤面ものだと思い当たる。


(どうせ・・・お断りします、って言っても聞かないくせに)


 ふんだ、と異常に火照る頬を背けてみれば、また別の種類の熱を感じる。


 『祭典のお手伝いをしてくれる?ララサちゃんと一緒に!』


 かわいい子馬だ。でも言う事なすことはオトナ。でも可愛い!

 ものすごく可愛くて神秘的な生き物が、きらっきらした瞳でタバサを見つめている。

 期待に満ち満ちた紫の瞳は深く、それでいて澄んで輝き放っているかのように見える。

 よく見慣れたララサとも、自分の眼差しともまた少し違うけれども、妙に心地よくてそれでいてくすぐったい。


 タバサの心は揺れ動いた。

 同時に頭の中で、売り子と乙女を両立できないものかという算段をしてみた。

 どう頑張っても無理である。

 祭典の日は朝から大忙しだ。だから手伝いはもちろん無理だ。

 それなのにこの瞳を曇らせたくない、と思ってしまうのだ。

 そのために言葉に詰まる。


 父さん、ララサ、どうしよう!?


 そんな思いで二人に視線を向けたのだが、二人は揃ってタバサの事を静かに見つめ返すだけだった。

 父は腕を組んで少し眉根を寄せて、困ったようなそれでいて諦めたような表情を見せている。

 姉は傍らのオオカミの首を横抱きにして、無表情のままだ。

 その瞳だけがタバサの動向を見守っている。

 自分で決めろ、という事なのだろう。

 それはすなわち、タバサの好きにしていいんだよという事に他ならない。

 ララサ辺りはタバサの取り決めに倣うつもりだろう。


 タバサに注ぐ熱い期待に、様々な想いがのしかかって来て押し潰されてしまいそうだ。

 何だかまた泣けてきた――。


 恥ずかしいのだ。たまらなく。

 こんなに一度に、人様に見守られてタバサは言葉がなかなか出てこないのだ。

 麻痺してしまって言いたい言葉も、言うべき言葉も見つからない。

 だから黙り込んでしまう。早くしなくちゃと自分自身でも焦ってしまう。

 焦れば焦るほど、胸でつかえてしまう。

 タバサはぎゅ、と胸元と咽喉元をそれぞれ両手で握り締めていた。

 瞳も固く閉じると、せっかく遮断したにも関わらず浮かぶのは蜂蜜キャンディーの熱い眼差し。

 蕩けそうな、蕩けさせられてしまうかもしれない、と思わせる瞳が怖い。


 早く早くと返事を急かし、それをなじるオオカミさんの物言いと視線にも、いたく傷つく自分が嫌になってきていた。


 ””タバサ””


 優しく頭を小突かれて、気が付けば白いふわふわの毛並がもっふりと身を寄せてきてくれていた。

 暖かい。少しだけ緊張がほぐれる。


 ””タバサ、守る””

 ””タバサ、攫う””

 ””タバサ、泣いてる””

 ””タバサ、守る””

 ””タバサ、攫う””


 二頭は互いに顔を見合わせては、交互に言葉を交し合っている。

 その間にも慰めてくれるかのように、二頭は身体を押し付けてくる。


 ””タバサ、泣いてるから守る””

 ””タバサ、守るから攫う””


 ””タバサ、守るために攫う””


 そう言葉を交わしあった後、二頭はうなずき合ったようだった。

 さっさとタバサを一頭の背に鼻先だけで押し上げると、あとは一目散に駆け出していた。


 ねぇ、リゼライ。紅孔雀。『シャルザム』と『アクリム』の様子がおかしいわ。


 そんな子馬の呟きですら、タバサにはとうに彼方だった。


(またですか!?また、この展開ですかぁ―――!!)


 攫われるのは日に一度までにしていただきたい。

 いや、一生に一度だってあってはならんでしょうよとタバサは叫んだ。

 ちゃんと叫べた自信は無いが。


 駆け出した白ふわの獣様の背に揺られながら、振り落とされないようにするだけでもう精一杯である。


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


 かつての術の主人のお馬サマに、今こころの手綱を持つリゼ。

 加えて見境無く獣とあれば魅了してしまう『紅孔雀』の存在。

 そこにタバサと言う存在。

 色々な意味合いを持つ3人の術者が『こだわっている』タバサは、ある意味一番の優先せれるべき存在となったようだ。


「リゼ。オマエ何やったんだ」


 後を追うためにいち早く駆け出した、甥っ子の後姿はもう闇に溶けて見えない。

 かつての同僚とその娘、もう一人の甥っ子もそれに続く。

 子馬の姿の現同僚も楽しそうにいなないてから、一瞥くれて空を駆け出して行ってしまった。


「今は」リゼが暴走したようにも見える、彼らの手綱の持ち主だったはずだ。


 ギルムードは無表情を装う小柄な部下を見下ろした。

 咎めると言うよりも、確認を取ろうとしてだ。

 悔しいがこの娘の方が術者としては長けている。


 さり気なさを装いつつも、リゼライはいつだって誰かの世話をする。

 その性格的に保護者体質なのだ。

 父親を亡くした後、弟妹と母を支える長女にギルムードはこっそりと敬意を払っている。

 自分にも姉という存在がいるだけに、ギルムードは姉という生き物にはどこか敵わないとも思っている。


 何だかんだと面倒見がよく、能率や効率にこだわる割りに、己の事に関してはあまり要領が良いとは思えない行動をする所など実姉にそっくりなのだ。

 この娘は、ぶつくさ言いながらもギルムードのばかげたお遊びにも付き合ってくれる。

 あくまで報酬つきの時間外労働という形で。

 だから名目上、ギルムードはリゼライの雇い主としてわがままを通せるのだ。


 それはかつて、ギルムードの獣でいてくれたダグレスも同じらしい。


 こちらも無関心を装いながらも、その耳はしっかりとこちらに(そばだ)てられているのを見逃さない。

 その事も興味深くはあった。

 だから問い掛けるのをやめない。


 その答えにかの誇り高き獣はどう反応するのだろうか。


(それに、俺自身もだ)


「リ~ゼ~?おまえは何やったんだ?」

「別に何も」

「だったら何で嬢ちゃん、かっ攫われるんだ?あのシャルザムとアクリムに」

「ですから別段何もいたしておりません」


 シラを切りとおす姿勢のリゼライに、シビレを切らしかけたギルムードは内心(俺はオトナ。オトナの男。しかも上司)と呪文を繰り返していた。

 これ以上しつこくすると、かなりの確率でリゼライが本気で怒り出すだろう。

 そうなったらなったで男の(つまらない)プライドが、リゼライを部下としてやり込めてしまうだろう。

 要は権力をかざして上からモノを言い、自分の良い様にリゼライを扱うのだ。

 どうしたってその後味の悪さを何度も体験しておきながら、今また同じ轍を踏もうとしている己にも気が付いている。

 気が付いてはいるのだが、制止はかなわないのも把握済みだ。

 甥っ子のやり方を見ていて居たたまれなくなりアレコレ口出ししたが、恐らく今の状態を甥っ子に見られれば、同じようにアレコレ口出しされるだろう。


 だが知りたい。

 だいたいの察しは付いているが、リゼライの口から語って聞かせて欲しい。

 何故、初対面の人の恋路にまで世話を焼いてやる気になったのか。

 最高に気になるではないか!

 リゼライは巫女の中でも抜きん出て整った造作をした見てくれをしている。

 強い光を放つ金髪が眩い。眩すぎて神々しいとまで、正直思ったこともあった。

 それと揃いの眼差しは凛として涼やかだが、豊かなまつげがそれを縁取ってそりゃあ小憎らしいほどに、可愛らしいのも癪に障る。

 小柄な割りに女らしい曲線を描く肢体は、幼いようでいて妖艶な危うい色香を醸し出している。


(ヤツは無関心を装っているようだがダグレスも、ありゃあ魅了されてると思うぞ?)


 身体的な特徴以外にも、彼女の誠実な言葉使いや仕草はすこぶる評判が良い。

 一見冷たく事務的なようでいて、実は親しみ安かったりもする。

 誰にも変わらぬ態度で分け隔てなく接するからだ。

 駄目なものはダメ。良い物はいい。そんな筋の通った姿勢はこちらが怯むほど。

 何せこのギルムードにさえ、歯に衣着せぬ物言いをするのだ。

 その無礼とも取れる態度に最初は憤慨したギルムード自身でさえ、それが誠実さの現われだと理解するのにそんなに時間は掛からなかった。

 彼女は媚びずにまっすぐに切り込んで来てくれる、貴重な存在だったりもする。

 今まで巫女王の実弟であるギルムードに、真っ向から意見するものはいなかったのだ。

 希薄な人間関係しか築いていない結果がこれだと、ギルムードは思い当たった次第である。

(まぁ、人気あるんだよなーコイツ。にも関わらず、自覚無しってヤツだしな)

 しかもスキも無い。可愛げのない事だ、とギルムードは少しだけむっとした。


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


『リッゼ!おまえ、祭典の日はどう過ごすんだ?』


 さり気なく聞いてみた。


『仕事です』

『わかってるよ!そうだが、何もその日まるまる詰める訳じゃないだろう?交代で祭典を見学していいと、許可が出ているんだからな』

『見学くらいはそりゃ、しますけど?』


 予想通り返事は素っ気無かった。


『そうじゃなくてだな~おまえは!わからんヤツだな、察しろよ!おまえと祭典に落ち合いたくて仕方が無い騎士団のヤロウの気持ちを』


 それにも関わらず、彼女自身に浮ついた所は一切見受けられず、明らかに自分とは関わり無い話だと言いだしかねない勢いなのだ。


『ええと?ワタシに何を察しろと仰るのかが、根本的によくわかりません』


 部下の私情を覗き込もうとしてる暇があるなら、おっさん!さっさと仕事を終わらせたらいかがですか。


 彼女の言葉を脳内で変換するとそのような意味に化ける。

 うむ。間違いない。

 ギルムードは『いい若いもんが、華を咲かせる前に枯れやがって!』という悪態を付いた。

 もちろん罵倒は脳内に留め置いた。

 これ以上くだらない事でいちゃもんを付け続けると今後、最低一ヶ月は無駄口を利いてくれなくなると学習済みだからだ。


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


 実際、そんな調子で撃退されたのも記憶に新しい。

 だから、余計に気になって仕方が無い。

 そんな好奇心を我ながら子供でしょうもない、とギルムードは思った。


 リゼライはギルムードの年齢から言えば、娘くらいの年と表現するのが相応しいのだろう。

 独身のギルムードには娘と言われてもその感覚が解らないが、だからといって妹にしては無理がある。


 彼女は可愛い。そして生意気で小憎たらしい。そして可愛い。

 もちろん、一人の女性としてではなく部下としてだ。

 リゼライが年頃の娘らしく、胸の奥底に秘めた相手がいるのならいくらでもお膳立てしてやりたい。

 いないならいないで、その機会を作ってやりたいと思っている。

 いらぬ世話だと解ってはいるが、その一人で家族のために奮闘する様を何とかしてやりたいと思うのが自然だろう。

 彼女の支えとなる者が傍らにいれば完璧だ等とも思う。

 稼ぎの良い頼りになる男性がいれば、リゼライも肩肘張って生きていかなくても良くなるだろう。


 お互い腕を組んで、探るように睨みあった。

 先に腕を解いたのはリゼライだった。


「ここで立ち話もなんですし」


 そう切り出して、少し眠そうにリゼライは微笑んだ。

 しょうがないですねぇとでも言いたいような、微かな嘆息と共に紡がれた言葉にギルムードは惚けた。

 きっとアレだ。

 リゼライにしてみたら、自分は駄々をこねる弟と同じに見えているに違いない。


「ギルムード様。もう帰りましょうよ。そうしたらきちんとご報告いたしますから。ね?」


 ギルムードは、やに下がりそうになる己の顔を引締めながら答えた。


「いいだろう。その代わり寝酒に付き合えよ」

「お酌くらいならしてあげない事もありませんよ。別料金で」


 ダグレスは尾を一振りすると、不満そうにその場を蹴り上げる。


 それがギルムードを何ともいえない優越感に浸してくれて、気分が良かった。



『リゼライの計らい』


仮タイトルです。


やっと次回はメイン二人きりの、りりかるぅ~あまずっぱぃ~シーンだ!!


張り切れ、ワタシ。


実は(どうでもいいのはわかってます。)リゼライを巡る、おっさんと獣様を書くのが楽しいのです。


先々ものすごく出張ってくるシーンはもう書き溜まってる始末。


こんな調子ですが、お付き合いいただけたら光栄です。


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