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★レシピ★ * 29 * 皆が注目する春の乙女候補


『お久しぶりでございます』


なので点呼、行きます。


タバサちゃん、 「はい」

ウォレスくん、 【ああ】 

ディーナ嬢、  「ふふ」

ダグレス    ”ふん”

ギルムードおじさま、 「おお」

リゼライ、   「なに」

ヅゥォランにヨウラン、 ””うん””

白ふわちゃんたち!   ”・・・。”


多すぎだろ、と一人つっこみ。まだまだいるんだよ、と一人遠い目。


 

 まぁいいから付き合えやーウォレス。たまにはいいだろ。

 

 ――伯父上。昼間から何ですか。

 

 たまにはいいだろ?

 

 ――「たまには?」

 

 ははは。ルシンダ、こいつには果実酒。度数が一番弱いやつな!

 

 ――伯父上!

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ 

 

 孔雀を肩に休ませながら、美少女が怪しいまでに優雅に微笑みかける。

 それはナゼかタバサに向けられた笑みのような錯覚すら覚えた。

 それは闇に向っての方向の定まらなさが見せる、都合のいい幻影なのかもしれない。

 ゆったりとさえずりだすのを心待ちにしながら、その薄く開かれた唇を見つめてしまう。

 その様は同性のタバサであってすら、何やら胸騒ぎを覚えたほどだ。どぎまぎする。

 それに完璧なまでに悩殺されてしまったらしいのが、オオカミさんのおじ様だ。

 まぁ、今さらといった所かもしれない。元より彼は孔雀に魅せられていることだろう。

 今日また改めて強力なまでに魅せ付けられてしまった、という方が適切なのかもしれない。

 

 それははたから見ていてもあからさまなほど明らかで、少しは落ち着かれますようにというリゼの言葉を受けても笑みは絶えず、両手を広げて今にも己の腕に迎え入れようと踏み出した。

 好きで好きでたまらないのだろうな、とタバサはぼんやりと思った。

 周りが冷静に受け止めている分、その浮かれ具合はやたらと浮くものだと思うほどに。

 足取りも軽く迷い無く進み出るギルの前に、一羽の孔雀が舞い降りた。

 

 右目でおじ様を睨みつけるようにし、身体と羽根を大きく膨らませている。

 尾羽を広げて、ディーナ嬢の姿が晒されないようにという配慮なのだろう。

「ありがとうね、ヨウラン。大丈夫だから控えてちょうだい。心配ならばそのステキな尾羽をしまうだけでいいから」

 ””承知しました、嬢様。このまま立ち位置は譲りませんので。() し か ら ず ””

 語尾は嫌に区切りよくしながら、孔雀はひげ面の男を見据えた。

 ええ、とディーナ嬢は甘えるヅゥォランの頭を掻いてやりながら頷く。

 

 タバサの覚えが確かならば、このヨウランと呼ばれた孔雀の方が進んで意思を口にするのを初めて聞いた。

 もう一方のヅゥォランがいつも会話を先に進め、その後に付いてくる形でやり取りしていたのだから、よほど警戒しているのだろう。

 

 それを鼻で笑いながら伯父さん事、ギルはいちべつくれただけで受け流す。

 

「相変らずの紅孔雀ぶりですなディーナ嬢!貴女様の騎士(けもの)の鉄壁の守りは、この俺には少々高うございますな」

「でしたら速やかにお引取り下さいますればいいでしょうに。お忙しい身の上でらっしゃるのでしょう?

 これから神殿の方で執り行われる、祭典儀式のご準備などもあるのでは?」

「何。かえって乗り越えがいがあると言うものです。祭典の準備なんぞは、まあ、それはそれですよ。なぁ、リゼ?」

「だからワタクシめにふらないで下さい」

 実に優雅に『帰れ。』と面と向って言うディーナ嬢を、タバサは眩しい気持ちで見守った。

 嫌味なのに、全然嫌みったらしいねちっこさを感じさせないのはナゼだろう?

 それは彼女の気品と機転がなせるワザなのかもしれないと羨ましく思った。

 自分も是非、見習いたいものだと密かに願う。

(うん。そしたらもっと上手にねぇ。色々とさ〜)

 ちらり、と思わず当たり前のように、自分の側に居座るオオカミさんを見てしまう。

【何だい、タバサ?どうかした】

 さすが。目ざといと言うか素早いと言うか。油断もスキもありゃしませんと言うか。

 タバサの視線を後頭部辺りであっても、すぐさま察知したらしいオオカミさんが振り返った。

 しゃがみ込んでいる分、またもろにその蜂蜜色の瞳と目が合った。

 

(どうもこうも別に・何もありませんよ――だ?)

 そう答える代わりに、白ふわ獣たちをまた抱き寄せたタバサである。

 その二頭の首筋をいっぺんに抱きかかえて、オオカミさんとは距離を取ろうとしたのは、ほとんど無意識でだった。

(だって。近付いてこようとするんだもん。オオカミさん、ずるいよ)

 タバサの瞳を捕らえつつもさり気なく、彼がこちらに寄ったのがわかったから身を引いたのだ。

 またその素晴らしい毛並を押し付けて懐柔しようと言う魂胆だな、と思ったから。

 そうしたらタバサは『オオカミさんの何もかも』を許してしまうだろう。

 認めたくは無いが、そんな自分にとっくに気が付いてしまっているタバサである。

 その諦めつつも受け入れてしまう態勢が何なのか、説明は付かないのがまた癪に障る。

 元々そんなに本気を出して怒ってはいないのだって、バレバレだろう。

 今までの事はモチロンの事、これから先に彼が何をしても。押し進めても。多分タバサは許してしまう。

 彼が心の底から悪かったと思って詫びてくれているのは解る。

 だが、これとそれは別なのだ。

 オオカミさんはすかさず見逃さず、確実にいい気になるだろう。

 調子よく付け上がるタイプだろうな、というのがタバサの読みである。

 それすらもタバサは許容してしまいつつあるのだ。やはり何ゆえそんなに寛大になれるのかが言葉に出来ない。

 今はまだそんな自分を認めたばかりだ。恐らくはあのディーナ嬢の発言辺りで気が付いた。

 というよりも気付かされた、と言った方が正しいか。

『タバサちゃんを泣かせる悪いオオカミなんて、ダグレスにやっつけてもらえばいいじゃない』

 アレは意外なほどタバサを驚愕させた。心細さで泣き出したのではなくて、彼が心配だったからだ。

 そんな自分にも驚いて混乱してしまった。

 オオカミさんがダグレスに蹴散らされでもしたらと思ったら、タバサは気が気じゃあなかった。

 

 ★ ☆ ☆  ★ ☆ ☆ ★

 

 彼はタバサを諦めちゃくれないだろう。

 自惚れもいいところとは思うが、彼の執着は結構深いようでかなり引く。

『どうか春の乙女役を』

 不毛なやり取りを繰り返したくは無いのだ。流されたくも無い。

 そうするための対処の仕方がわからない。だからタバサは黙り込んで身を固くして引く。

 それを頑なと受け取ったのだろう。オオカミさんが明らかにむっとしたのがわかった。

【タバサ。俺はちゃんと謝っているのに、どうして何も言ってくれないんだ?】

 明らかに彼なりの焦りもあるだろうが、タバサを責めるような響きに胸が詰まった。

 ズシンと重みが増してきつい。

(はぁ・・・やっぱりな。ロウニア家の若様め。アナタ様こそどうしてそう、高慢ちきなのか教えてくださいよ)

 自分の思い通りに人が反応しないと機嫌を損ねるなんて、ただの子供じゃないかとタバサは一気に脱力した。

 (人の気持ちは思い通りにならないものなんですよ?アアタはかしずかれて甘やかされてきたようですねー)

 【タバサ、いい加減に答えてくれないか?】

 そんな風に言われると、また哀しくなるのはナゼだろうか。

 込みあがってくるのが怒りだったらいいのに、とタバサは思う。

 それなら顔を真っ赤にしながら怒鳴るとか、地団駄を踏むとかして暴れてやれるのだが。

 やはりオオカミさんと話しているとぐったり来るばかりだ。

 タバサがうな垂れると、頭に何かがやわらかく押し付けられた。

 思わず見上げるとそれは、タバサに寄り添ってくれている白いふわもこ獣の鼻先だった。

 どうやら慰めてくれているらしい。

 見上げると真っ黒いくりくりお目目が気遣わしげに潤んで見えた。

 その優しさが嬉しくて、タバサの瞳も潤み出す。

 獣がタバサの頬を舐めた。きっと涙が零れ落ちそうだったのだろう。そうなるよりも早く獣はそうしてくれたらしい。

 

【タバサ!何とか言ったらどうだ!黙っているだけじゃわからない】

 オオカミさんが苛立ちを隠しきれない様子でタバサに近付いてきた。

 そのとたんすっくと立ち上がり割って入ったのは、タバサが抱えていた右の方の白い獣である。

 それを忌々しそうに睨み、オオカミさんが唸った。白い牙がのぞく。

「きらい」

 瞬間口を付いて出た言葉は、自分でも驚くほど平坦だった。

【え?】

「オオカミさんなんてきらい。あっちへ行って」

【タバサ】

 オオカミさんの耳が、しっぽが、しゅんとへたれてしまった。

 タバサの胸の痛みと重みがまた増してしまうのはナゼだろう。

 蜂蜜キャンディーはもう二度と口に出来そうも無いな、と思うのもナゼなのだろうか。

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★

 

 ダグレスの耳がピクリと震え、こちらに向けられたのにタバサは気が付いていないようだ。

 しかもそれだけではない。

 前後左右自在に操れるダグレスの耳が解りやすいだけで、その他の注目ならぬ聞き耳にウォレスは気が付いていた。

 

 お っ さ ん の 甥 っ 子 も 子 供 で す ね ―― 。

 

「 も 」 っ て 何 だ 、「 も 」 っ て 。 リ ゼ 。

 

 ま っ た く だ 。

 

 ダ グ レ ス 。 貴 様 ま で 。

 

 ふ ふ 。

 

 お お デ ィ ー ナ 嬢 。 お 見 苦 し い と こ ろ を 。 

 で す が 少 々 大 目 に 見 て や っ て 下 さ い 。

 が ん ば れ ウ ォ レ ス 。 我 が 甥 。

 心 配 し な く と も 後 で ち ゃ ん と 慰 め て や る か ら な !

 

 そんな潜めた声が届くのは、ウォレスの耳だけのようである。

 面白がっているのだけは伝わってくる。

(【外野うるさい!そっちはそっちでやってろ!】)

 そんな思いを込めてウォレスが睨むと、外野はそろって知らん顔をした。

 完璧に野次馬に囲まれていると思うと腹が立って仕方が無い。

 

 ★ ☆ ☆ ★  ☆ ☆ ★

 

「ところで私に用とは何でございましょうか?」

 ディーナ嬢が切り出すと、ギルは大げさに手を叩いてから膝を折った。

 左手は胸に当て右手を差し出す。

「よくぞお尋ねくださいました、ディーナ嬢!どうか此度の春の祭典の乙女役を引き受けて頂きたい。

 このギルムードが騎士として貴女様に付き従いましょうぞ。貴女こそ春の乙女に相応しい。皆に春の祝福を願います、乙女よ。どうかこの手をお取り下さい」

【伯父上!?】

 大声で叫んだのは他でもないオオカミさんだった。

 タバサも驚く。その声の大きさにもだが、何と言うか。

 ディーナ嬢にそう申し込むためにこのような企てをして骨折ったらしい、オオカミさんのおじさんにもだ。

 しかもこれだけ人がいるのに彼は怯み無く堂々としている。

「まぁ。だってその日は神殿仕えの皆様にしてみたら一大事。ギルムード殿もそうではありませんか?お戯れを」

 ディーナ嬢が孔雀に頬ずりしながら、流し目を寄こす。流石のディーナ嬢も苦笑しているらしい。

 それだけ、このおじさまの言い出したことは突拍子も無い事なのだろう。

 タバサは皆をぐるりと見回した。

 

「祭典の日は俺は非番ですからご心配には及びませんよ」

「おっさん。――何を言い出す。そういう問題じゃない。正気でらっしゃいますか?」

 ア ア タ 様 は 巫 女 王 様 直 々 の 筆 頭 護 衛 騎 士 で し ょ う が っ !!

 ―― 腐っても一応な。とギルの傍らに立つリゼが、呆れたように口を挟んだ。

「腐ってもは余計だ!何だリゼ?よしよし妬いているんだな?悪いが俺は本当に休みを勝ち取ったんだ。んん?

 何だその疑わしそうな目は。上司はもっと敬いたまえ、リゼライ君!」

「敬いようがありませんよ、ギル様。ナ・ゼ!妬かねばなりませんか、おっさん?冗談も程ほどになさって下さい」

「何だよ!俺はナァ、その日の休みを勝ち取るために、この三ヶ月間休み無しでがんばっているんだぞ!現在進行中でだ!ちったぁ(ねぎら)え!」

「あ〜それはそれは。ご苦労様な事ですね。だから何ですか?ワタクシが申し上げている問題は休み云々ではない事くらいお分かりになりますよねぇ?とぼけるのも大概にして下さい!」

「こっら!リゼ!上司に『ご苦労様』は無いだろう!『お疲れ様です』って言うんだぞ、こういう時は」

「部下に労いの言葉を求めたのはアアタ様でしょうが!紅孔雀に乙女役を申し込むその気が知れないって言ってるの!」

 すかさず入る指導に、にべも無く返る正論の応戦。

 この二人が一緒に祭典の準備をするといいと思う。

 それか二人が乙女と騎士役でもいいのでは、と思うタバサだったがもちろん黙っていた。

 間違いなくリゼライから怒鳴られるだろうから。

 それと何となくなのだが、素直じゃないなとも感じてしまう。

(素直じゃないな、このオオカミさんのおじさん。本当に誘いたいのは、きっと)

 ちらとうかがうと、不機嫌そうに眇められた瞳と目が合ってしまった。

「何?お嬢さん?何か言いたそうね」

 滅相もございません!

 慌てて思考はそこで断ち切り、精一杯首を横に振ってみせる。

 

「そうですわ。リゼライさんの仰る通りです、ギルムード殿。

 しかも、その女神様の御前で裁きを待つ身と致しましては、お受けするわけには参りませんわ!それに」

「それに?」

「春の乙女と騎士役の正式な候補者ならこちらに」

 

 ディーナ嬢がいたずらっぽくこちらに笑いかける。タバサはどきりとした。己の胸を押さえつけるほど。

 それは色っぽい事この上ない、流し目を差し向けられたからだけではなさそうだ。

「ねぇ、そうでしょう?二人とも」

「何だよ!ウォレス、そういう事なのか?んん!?この伯父を差し置くとはやるな!」

「じゃ、おっさんは引いた方がいいね。完膚なきまでにディーナ嬢にフラれる前に。今ならまだ間に合う五秒前」

「うるせぇぞ!リゼ」

(うっわ。なんでしょうか、皆さん!して、何を私に言わせたいのですか!?)

 タバサは急に恥ずかしくなって顔が火照るのを感じた。

 思わず白ふわ獣の毛並に顔をうずめてしまうタバサである。

 おまけに頬だけではなく、もう一方から向けられているであろう視線が――熱いと言うよりも、痛い。

 



『もう 本当に』


お付き合いありがとうございます!


今回実にまとまらず苦戦。

キャラ過密すぎ。

ですが次回はもっと多い。

うわ〜〜〜〜!!!ガンバレ!

ざっつ。えんたていめんとぉ!

すみません、言ってみたかっただけです。


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