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★レシピ★ * 2 * 出張店〜仕入れ中〜


お疲れ様でした。の、言葉無くともねぎらい合う広場は、たそがれ時です。


――ありがとう、を素直に言えるのも商人(に限らず)のいいところです〜。


 

 ――『改名』だとう!うちはな、老舗なんだぞ!そんな事できるかっ!

 

 へぇ。それも初耳だよ。初代がさ、いかにも『まあ、あめ売ってるからあめ屋でいっか。そのまんまで〜』・・・的な安直さが感じられるのは私だけ?

 

 私もそう思っちゃうかも〜。もう少ぅしだけでも、ひねりが欲しかったよね〜。

 

 ――・・・・・・ぅ・・・ぅむ・・・・・・。

 

 ★ ☆ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ☆ ★

 

 広場の鐘が夕刻を告げる。もう、そんな時間か・・・・・・。タバサは、神殿横の商工会議所を見上げた。

 時計台の下に鐘があり、会議所勤めのおいちゃんが鳴らしてくれているのだ。

 しばらく見守って、響き渡る鐘の音に耳を傾けた。いつもより近くで聞こえるのも、また新鮮なものだった。

 

 おいちゃんが手を休めたのを見計らって、タバサは右手を高く振って見せた。子供の時からこうしてよく、ララサとも手を振ったものだ。

 おいちゃんもそういう子供達がいるのを、よぅく心得てくれている。だからこうして必ず、にこやかに応えてくれるのだ。

 お互いよく働きました。お疲れ様。さ、一休みしてまた明日。――そう(ねぎら)い合う気持ちの込められた、儀式だと思う。

 

 見上げたおいちゃんは、少しも変わらない笑顔で応えてくれている。それどころか、もっとうんと優しい笑顔のような。

 おいちゃんの目じりが、昔よりも下がっているせいだろうか。

 タバサは、自分の気のせいではない気がした。

 

 何だかおいちゃんが、こじんまりしてしまったようなのも。見上げた時計台が、そんなに大げさなほどそびえ立ってはいないようなのも。

 

(私、・・・・・・大きくなったんだね。本当に久しぶりに来たんだな、ここに)

 

 その間に自分の体の造りも変化していたらしい。確実に。気がつかなかっただけで。

 少しばかり、もの寂しい感じは否めないまま、ゆっくりと手を下ろした。

 足元に落ちる自分の影が長い――。

 陽が傾いてきたのだ。広場も昼間よりも人がまばらだ。市の商人達も、夕飯前の買い物客の相手をしつつ、片付け始めている。

 

(いけない、おつかい済ませなきゃ。あと、神殿にご挨拶も・・・・・・)

 

 タバサは少しだけ肌寒さを感じながら、テントの張り出された方を目指した。

 

 .・。.・。★.・。☆.。・.★.・。.・。.

 

 

「こんにちわ」

「はい、いらしゃい!ララサちゃん」

「・・・・・・こんにちわぁ」

 タバサは小さく、ふふふと笑いながらもう一度挨拶した。そうだった。今日はララサとして、こちらに乗り込んだのだった。

 正直な所、あまりに何事も無く仕事も終わり――すっかり忘れていたが。

 いけない、いけない。まだまだ。この広場から出て、無事に家に着くまでは油断出来ない。

 

「今日は何が欲しいんだい?」

 おばちゃんが、片付ける手を休めて笑顔を向けた。

 籠にずらりと並べられた果物を見渡しながら、タバサは紅い果実を指差した。

「このリンゴをみっつ、と・・・ペパーミントとカモミールを一袋づつ。――お願いします」

「はいよ。ミントとカモミラはどうする?どっち?」

乾燥(ドライ)の方で」

「まいど!ちょっと、待ってなね」

 おばちゃんは腰をトントンと叩きながら、店の奥へと引っ込んで行った。あれだけ細いのに、こんなに重そうな荷を平気で担ぎ上げるのだ。

 腰が痛むのも仕方なかろう。

 

 父に頼まれたものは、焼き菓子とお茶用なのだ。大量に必要なので、おばちゃんの店の物を頼っている。

 (フレッシュ)の方は自宅の、畑から摘めばまかなえる。

 もっともそんなに大きな畑ではなく、家族分採れればいい目的のものだ。

(うん。ここもいい香りだね。・・・・・・うちもいい香りだけどさ)

 タバサは店自体に溢れ漂う、乾燥された薬草や新鮮な果物の香りに安堵した。その快くブレンドされた香りを、吸い込みながら待つ。

 

「ぉおう!ちびっこ、お疲れ。そして、まいど!」

 

 背後から声を掛けられ、タバサは振り返った。

 ひょろりと背の高い、見覚えのある顔に一瞬だけ考え込む。

「・・・・・・お疲れ様、ルカ(にい)。ちびじゃないよ、もう」

「ちびじゃん」

 悪びれもせずニカッと笑いながら、ルカ兄はタバサの頭を押さえつけるように撫で回した。

「ルカにぃが背が高すぎるの!」

「まぁな。・・・・・・何だ、元気じゃねえか」

「?」

「おめえ、ここの所元気がなかったみたいだからさ」

 タバサはルカの手のひらの下で、心臓がどきり、とした。真剣な顔で尋ねる。

「・・・・・・()、元気なかった?」

「まぁな。そう見えたぜ」

 ルカ兄が、タバサの頭をぽんぽん叩きながら頷く。

「――なんでかなぁ?」

「知るか。俺の方が訊きたいよ!」

「そっか。・・・・・・心配してくれてたんだ。ありがとうね」

「べっ、別に、そんなんじゃぁねぇよ」

 慌てたように、ルカ兄が背を向けた。幼い頃からの面倒見の良さは、変わっていないようだ。

 それに、素直にお礼を言われると照れてすぐ、ぶっきらぼうに振舞うところも。

 

 ふふふ、とタバサは嬉しくなって笑った。優しい気持ちに触れて、何だか胸の辺りが温かくなる。少し、くすぐったいような。

 

「――お待たせ、ララサちゃん。おばちゃんもそう思ってたから、良かったよ。どうしたのって訊いても、何でも無いのってしかアンタ言わないんだもの」

 言いながらおばちゃんは手馴れたように、タバサの持つバスケットに注文の品を詰め込んでくれた。

 そして当たり前のように、青いりんごもおまけに入れてくれた。――みっつ。

「・・・・・・ありがとうね、おばちゃん」

「どういたしまして。うちのお得意さんだもん、礼なんていいってことよ」

 おばちゃんはルカ兄と、同じようにニカッと笑った。こうして並ぶとよく似ている。

 ひょろっと背が高くて、赤茶色の明るい髪と瞳と。やや、切れ長の眼差しをひとなつっこく細めて笑うから、ますます細くなる所も。

 

 タバサは改めて礼を言うと背を向け、神殿の方を目指した。

 

(よかったね、ララサ。あんた、ここでちゃんと歓迎されているみたいだよ。)

 

 商人たちの結束は固い。仲間と認めたならば、面倒を()あう――。

 タバサはほっとする。しばらくご無沙汰していたけれども、みんな根本的な所は決して変わらない。それがよくわかった。

 例えこれが、『ララサ』に向けられているものだとしても。――同じものを『タバサ』にも、向けるだろうから。

 

 ★ ☆ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ☆ ★

 

「あれ!?今の、って・・・?」

「おう、ちびすけ!おかえりぃ!」

「ただいま・・・って。もう、ちびすけでもないでしょ、ルカ兄」

「つい、な。いいじゃねえか、ちびなんだから」

「あのね・・・。兄さんが背が高すぎるの」

 眼鏡越しに、弟のタリムが睨んだ。

「――なんだよう。さっきのララサも、オマエもさぁ・・・」

「え。今すれ違ったのって、タバサちゃんじゃないの?!」

 

 母と長男は顔を見合わせる。それから、タリムを見た。弟は頷いた。

 

「あれは間違いなく、タバサ。だって瞳の色が紫紺だったよ。――見分けようよ、二人ともさぁ」

 

「「ぇえええ――!?」」

 

 それから。なんだアイツ黙ってんなよ!だとか。何なんだよ、ララサちゃんどうしちゃったんだよう、とか。

 思い思いにわぁわぁ叫んだ。



フルーツ&ハーブのフレッシュ&ドライどちらもそろってます!


商うのは店主夫妻と、跡取り息子たちです。


兄は、ルカ。背が高い。かわいいものは何でもかんでも、『ちび』呼ばわりする愛情表現の持ち主・・・。


弟は、タリム。インテリで★メガネです。視力は弱いが、洞察力は優れております。

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