表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/38

★レシピ★ * 27 * おあずけをくらうオオカミ。


『おあずけ〜』


オオカミはいつだって本当は腹ペコなのが、物語の王道(?)でしょう!


そして、やせ我慢が得意。


・・・・・・な、はず。


 

 

 ――『星のカケラ』?

 

 そうよ。『星のカケラ』よ。

 

 ――本当にお星さまのカケラなの?

 

 そうかもしれないし、そうでもないのかもしれない。

 

 ――どっち?

 

 どちらでも。タバサの好きなように。

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ 

 

「じゃあ後は君に任せたから、がんばってね――?私の館で間違っても、変な気起こすんじゃあないわよ」

 

 そう言い含めつつ、老婦人はウォレーンの頭をぽんぽんぽんと叩いた。しかも扇でだ。

【・・・・・・・・・・・・。】

 ウォレーンは答えることが出来なかった。

 ただ身を固くして、身動きを最小に抑えている。

「うぅーん。何とも忍耐力の要る任務ですこと。がんばれー若者!

 では、私は事態の収拾に行って来るから!待っていなさいな」

 そう言い残してこの館の主人、ルゼ・ジャスリート公はさっさと部屋を後にした。

 ウォレーンはその背を見送る。扉が閉まる直前、その隙間から彼女が笑っているのを見逃さなかった。

 夜目のきく狼であるから当然なのだが、それが無性に腹立たしかった。

(【完全に遊ばれているな】)

 ウォレーンは前脚を投げ出してはいるが、しかし後足はいつでも飛び出していけるようにしている。

 ・・・いざという時のために。

 今。

 ウォレーンはとんでもない忍耐を強いられていた。

 はっきり言って、賊を討伐する隊にでも参加していたほうがまだマシだと思う。

 耳元で規則正しく聞こえる寝息に、寄りかかる様にして押し付けられた柔らかな肢体――。

 ララサ、である。

 しかも一服盛られ、あっさり意識を手放した状態である。

 ルゼ公に寝台に運んでやれと命ぜられ、その身を担ぎ上げてやったまでは良かった。

 ララサが首筋にしがみついてきたのだ。

 不安なのだろうか。寒いのだろうか。

 何にせよ、獣の毛皮が心地よいらしい。必死で(すが)りつくかのように、抱きついたまま離そうとしないのだ。

 振りほどこうと思えばそう出来る、ハズだ。

 ウォレーンは自問する。だが、体が動かない。動いてはくれない。

 薬の威力もあるのだから、そう簡単に彼女の眠りを妨げる心配も無いはずだった。

 そう自分自身に言い聞かせてみるものの、そのぬくもりを振りほどく事ができない。

 だからウォレーンはただのぬいぐるみよろしく、固まるしかないのだ。

 

 その様子を見届ける事も無く、赤い髪の少女と黒い獣は窓から飛び出して行ってしまった。

 次いで、灰銀色の髪の青年も同じく。

 残されたのはララサとウォレーン、それにこの館の主だったという訳だ。

 しかしその最後の第三者も、ふくみ笑いをしながら行ってしまった。

 

 ぱたん――。

 

 何やら扉の閉まる音さえが、笑いをふくんでいるかのように感じてしまう。それは自分の被害妄想のなせるワザだろうか。

(【ああそうだ!きっとそうに、ちがいないとも!】)

 大体からにしてこの状態(・・・・)で何が出来るというのか。

 獣の身で何が!

 出来る事はごくわずか。

 例えばそう。この毛並のぬくもりを分け与えてやる事くらい。そうやって、寄り添ってやる事くらいだろう。

 一緒にこうやって身を横たえてやるのが、精一杯だ。

『変な気を起こすんじゃ――』

【・・・・・・。】

 ウォレーンは細心の注意を払って、首を捻った。すぐ鼻先にはララサの寝顔がある。

 くぅくぅと規則正しい寝息が、狼の毛先を微かにくすぐっていた。

 ふわんと甘ったるい香りのする髪は、ゆるやかに波打ち頬に掛かっている。

 その頬の描く曲線はまだふっくらとあどけなさが残っていて、普段よりずっと無防備さをさらけ出しているのだから

 ――堪らない。

 薄く開かれた唇だけが、その儚いまでに白い肌に花を添えるかのようだ。

『俺は確信している!オンナノコは全て菓子で、あまったるい砂糖で出来ているに違いないって!!』

 ナゼかどこぞの詩人崩れが力説していたのを思い出す。

 あの時は思いっきりせせら笑って無視したウォレーンである。

 聞き流してたいして気にもしなかったはずなのだが、今まさにその言葉に頷きそうになっている自分に途惑うしかない。

 

(【じゃぁ・・・菓子ならば甘いのか?】)

 

 そう。

 甘いに違いない。

 菓子なのだから。

 ――食える、はず。

 菓子でなくても。

 

 ウォレーンは確かめるべく、その頬に鼻先を近づけた。

 甘く香るその髪に、頬に、唇に。

(【ララサ】)

 今まさに吸い込まれてしまいそうだった、ほんの手前。

 見開かれるはずの無い瞳が、確かにウォレーンを覗き込んでいた。

 ララサはひとつ瞬くと、ぎゅうぅっと強く抱きついてきた。

 抱きついたと言うよりも、しがみついて自分の身を起こしたといった方が正しい。

 今度は驚きで身を固くしたウォレーンの鼻っ面を、ララサは両手ではさみ込んで覗く。

【ラ・・・ラサ?】

 なぜ?薬は?

「あんなもの、飲んだ振りしていただけよ。話の流れでわかるでしょうに!

 タバサに一服盛ったという事は、私にも同じような手を使って(なだ)めようとするに決まっているじゃないの!

 本当に子供だましなんだから。誰が引っかかってやるものですか。

 忌々しいったらないわ、私のタバサちゃんをいいようにして!」

 

 ウォレーンが尋ねるよりも、ララサの答えは早かった。

 一息に説明と悪態を付くと、寝台から飛び降りる。

 そしてさっさと窓枠から身を乗り出して、振り返った。

「さ、行くわよ!ウォレーン!」

【・・・・・・。】

 確かに変な気を起こすものではない。

 アレは揶揄(やゆ)ではなくララサの動向を見抜いての、忠告(・・)だったのかもしれない。

 それはそれで恐ろしい人だと思った。

 あの、ルゼ・ジャスリート公爵という人は、自分の倍以上の齢を重ねているだけはある。

(【おんなっていきものは・・・・・・。砂糖でも菓子でもあり、そうでもない、のか?】)

 ウォレーンは複雑な気持ちを抱えつつ、ララサごと窓から飛び降りた。

 

 〜 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ 〜

 

 ””タバサ発見!発見!””

 ””――発見!””

 孔雀たちは代わる代わる、ぴょんぴょん跳ねながらはやし立てている。

「ヅゥォラン!ヨウラン!探しに来てくれたの?」

 ””そうだ!タバサ、無事か?ケガしてないか、イジメられていないか?””

 心配そうに尋ねるヅゥォランが、右に小首を傾げてタバサを見た。左目の方で。

 ””――いないか?””

 これまた気づかう様に尋ねるヨウランが、左に小首を傾げてタバサを見上げた。右目の方で。

「ありがとう!私、無事よ。なんとも無いわ」

 タバサは両手を広げて、孔雀たちを迎える。

 ヅゥォランはタバサの胸に、ためらい無く飛び込んできた。ヨウランは恐るおそる、長い首だけを預ける。

 そんな二羽の孔雀をいっぺんに抱きしめて、感謝を伝えた。

 豪華な尾羽をたたんでいてもかさ張る二羽であるが、驚くほど重みというものを感じさせない。

 だから二羽いっぺんから身を寄せられても平気だ。タバサは存分に抱きしめる。

 クゥルルルルルル――!!

 二羽から喉を鳴らす、独特の鳴き声が闇に向かって投げられる。

 ””タバサ、発見!!””

 ””――発見!!””

「誰か他にいるの?」

 タバサも恐るおそる孔雀たちにならって、闇の中に声を掛けた。なぜか声が震える。

 ””タバサ、発見!ついでに誘拐犯も、発見!!””

 ””――誘拐犯も、発見!!””

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ 

 

「「ついでかよ」」

 

 黒装束の二人が構えたまま漏らす呟きは、そのまま闇に飲まれて行った。

 

 ――そのひときわ強く(こご)る闇に向かって。

 

 



『春はもう』


来てますね。


いつのまに。


早い早い。


ついでに

このBA★カップル候補達には

とっくのとうに来ています。


そんな事。

あらためて言われなくても、って感じですかね。


お久しぶりのお付き合い、ありがとうございます!


次回は作者お気に入りの、二人組み。

なのでUPは・・・(いつもより)早まる・・・かと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ