★レシピ★ * 27 * おあずけをくらうオオカミ。
『おあずけ〜』
オオカミはいつだって本当は腹ペコなのが、物語の王道(?)でしょう!
そして、やせ我慢が得意。
・・・・・・な、はず。
――『星のカケラ』?
そうよ。『星のカケラ』よ。
――本当にお星さまのカケラなの?
そうかもしれないし、そうでもないのかもしれない。
――どっち?
どちらでも。タバサの好きなように。
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
「じゃあ後は君に任せたから、がんばってね――?私の館で間違っても、変な気起こすんじゃあないわよ」
そう言い含めつつ、老婦人はウォレーンの頭をぽんぽんぽんと叩いた。しかも扇でだ。
【・・・・・・・・・・・・。】
ウォレーンは答えることが出来なかった。
ただ身を固くして、身動きを最小に抑えている。
「うぅーん。何とも忍耐力の要る任務ですこと。がんばれー若者!
では、私は事態の収拾に行って来るから!待っていなさいな」
そう言い残してこの館の主人、ルゼ・ジャスリート公はさっさと部屋を後にした。
ウォレーンはその背を見送る。扉が閉まる直前、その隙間から彼女が笑っているのを見逃さなかった。
夜目のきく狼であるから当然なのだが、それが無性に腹立たしかった。
(【完全に遊ばれているな】)
ウォレーンは前脚を投げ出してはいるが、しかし後足はいつでも飛び出していけるようにしている。
・・・いざという時のために。
今。
ウォレーンはとんでもない忍耐を強いられていた。
はっきり言って、賊を討伐する隊にでも参加していたほうがまだマシだと思う。
耳元で規則正しく聞こえる寝息に、寄りかかる様にして押し付けられた柔らかな肢体――。
ララサ、である。
しかも一服盛られ、あっさり意識を手放した状態である。
ルゼ公に寝台に運んでやれと命ぜられ、その身を担ぎ上げてやったまでは良かった。
ララサが首筋にしがみついてきたのだ。
不安なのだろうか。寒いのだろうか。
何にせよ、獣の毛皮が心地よいらしい。必死で縋りつくかのように、抱きついたまま離そうとしないのだ。
振りほどこうと思えばそう出来る、ハズだ。
ウォレーンは自問する。だが、体が動かない。動いてはくれない。
薬の威力もあるのだから、そう簡単に彼女の眠りを妨げる心配も無いはずだった。
そう自分自身に言い聞かせてみるものの、そのぬくもりを振りほどく事ができない。
だからウォレーンはただのぬいぐるみよろしく、固まるしかないのだ。
その様子を見届ける事も無く、赤い髪の少女と黒い獣は窓から飛び出して行ってしまった。
次いで、灰銀色の髪の青年も同じく。
残されたのはララサとウォレーン、それにこの館の主だったという訳だ。
しかしその最後の第三者も、ふくみ笑いをしながら行ってしまった。
ぱたん――。
何やら扉の閉まる音さえが、笑いをふくんでいるかのように感じてしまう。それは自分の被害妄想のなせるワザだろうか。
(【ああそうだ!きっとそうに、ちがいないとも!】)
大体からにしてこの状態で何が出来るというのか。
獣の身で何が!
出来る事はごくわずか。
例えばそう。この毛並のぬくもりを分け与えてやる事くらい。そうやって、寄り添ってやる事くらいだろう。
一緒にこうやって身を横たえてやるのが、精一杯だ。
『変な気を起こすんじゃ――』
【・・・・・・。】
ウォレーンは細心の注意を払って、首を捻った。すぐ鼻先にはララサの寝顔がある。
くぅくぅと規則正しい寝息が、狼の毛先を微かにくすぐっていた。
ふわんと甘ったるい香りのする髪は、ゆるやかに波打ち頬に掛かっている。
その頬の描く曲線はまだふっくらとあどけなさが残っていて、普段よりずっと無防備さをさらけ出しているのだから
――堪らない。
薄く開かれた唇だけが、その儚いまでに白い肌に花を添えるかのようだ。
『俺は確信している!オンナノコは全て菓子で、あまったるい砂糖で出来ているに違いないって!!』
ナゼかどこぞの詩人崩れが力説していたのを思い出す。
あの時は思いっきりせせら笑って無視したウォレーンである。
聞き流してたいして気にもしなかったはずなのだが、今まさにその言葉に頷きそうになっている自分に途惑うしかない。
(【じゃぁ・・・菓子ならば甘いのか?】)
そう。
甘いに違いない。
菓子なのだから。
――食える、はず。
菓子でなくても。
ウォレーンは確かめるべく、その頬に鼻先を近づけた。
甘く香るその髪に、頬に、唇に。
(【ララサ】)
今まさに吸い込まれてしまいそうだった、ほんの手前。
見開かれるはずの無い瞳が、確かにウォレーンを覗き込んでいた。
ララサはひとつ瞬くと、ぎゅうぅっと強く抱きついてきた。
抱きついたと言うよりも、しがみついて自分の身を起こしたといった方が正しい。
今度は驚きで身を固くしたウォレーンの鼻っ面を、ララサは両手ではさみ込んで覗く。
【ラ・・・ラサ?】
なぜ?薬は?
「あんなもの、飲んだ振りしていただけよ。話の流れでわかるでしょうに!
タバサに一服盛ったという事は、私にも同じような手を使って宥めようとするに決まっているじゃないの!
本当に子供だましなんだから。誰が引っかかってやるものですか。
忌々しいったらないわ、私のタバサちゃんをいいようにして!」
ウォレーンが尋ねるよりも、ララサの答えは早かった。
一息に説明と悪態を付くと、寝台から飛び降りる。
そしてさっさと窓枠から身を乗り出して、振り返った。
「さ、行くわよ!ウォレーン!」
【・・・・・・。】
確かに変な気を起こすものではない。
アレは揶揄ではなくララサの動向を見抜いての、忠告だったのかもしれない。
それはそれで恐ろしい人だと思った。
あの、ルゼ・ジャスリート公爵という人は、自分の倍以上の齢を重ねているだけはある。
(【おんなっていきものは・・・・・・。砂糖でも菓子でもあり、そうでもない、のか?】)
ウォレーンは複雑な気持ちを抱えつつ、ララサごと窓から飛び降りた。
〜 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ 〜
””タバサ発見!発見!””
””――発見!””
孔雀たちは代わる代わる、ぴょんぴょん跳ねながらはやし立てている。
「ヅゥォラン!ヨウラン!探しに来てくれたの?」
””そうだ!タバサ、無事か?ケガしてないか、イジメられていないか?””
心配そうに尋ねるヅゥォランが、右に小首を傾げてタバサを見た。左目の方で。
””――いないか?””
これまた気づかう様に尋ねるヨウランが、左に小首を傾げてタバサを見上げた。右目の方で。
「ありがとう!私、無事よ。なんとも無いわ」
タバサは両手を広げて、孔雀たちを迎える。
ヅゥォランはタバサの胸に、ためらい無く飛び込んできた。ヨウランは恐るおそる、長い首だけを預ける。
そんな二羽の孔雀をいっぺんに抱きしめて、感謝を伝えた。
豪華な尾羽をたたんでいてもかさ張る二羽であるが、驚くほど重みというものを感じさせない。
だから二羽いっぺんから身を寄せられても平気だ。タバサは存分に抱きしめる。
クゥルルルルルル――!!
二羽から喉を鳴らす、独特の鳴き声が闇に向かって投げられる。
””タバサ、発見!!””
””――発見!!””
「誰か他にいるの?」
タバサも恐るおそる孔雀たちにならって、闇の中に声を掛けた。なぜか声が震える。
””タバサ、発見!ついでに誘拐犯も、発見!!””
””――誘拐犯も、発見!!””
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
「「ついでかよ」」
黒装束の二人が構えたまま漏らす呟きは、そのまま闇に飲まれて行った。
――そのひときわ強く凝る闇に向かって。
『春はもう』
来てますね。
いつのまに。
早い早い。
ついでに
このBA★カップル候補達には
とっくのとうに来ています。
そんな事。
あらためて言われなくても、って感じですかね。
お久しぶりのお付き合い、ありがとうございます!
次回は作者お気に入りの、二人組み。
なのでUPは・・・(いつもより)早まる・・・かと。